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診療所

待合室の空気は
端正に整えられていて
賞状やら感謝状だかが
真っ白な壁面に
剥製みたいに張り付いて
僕はソファに沈み込み
もうかれこれずいぶん
待っているだけ
年老いた親と
年配の子供が
聞こえないくらいの声で
終わりのない話しをすれば
やけに陽気な男が
受付の女に近付いて
不幸な話しばかりを
でかい声で繰り返す
天井から無機質に
突き出た柱には
まるで救世主の前座みたいな
液晶画面がぶら下がり
昨日と同じような番組を
同じような顔で流しながら
みんなのことを見張っている
だから隠れなきゃって
気付かれないようにって
溺れてしまうくらい
ソファに沈んでも
どうしてだかついつい
目を合わしちまうんだよな
だから名前を忘れる前に
早く僕を呼んでくれよ
こわいこわい

やりたいことなんて何もなかった放課後 ぺっちゃんこにした鞄に詰め込んだ反逆 帰る所があるから座り込んだ深夜の路上 変えたい何者かを捕まえられなかった声 振り向くばかりの今から届けたいエール