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大学院での研究室選び

毎年、この時期になると修士課程・博士課程の入試前の面談がはじまり、毎日のようにいろいろな方と話をする。僕の所属するコースでは事前面談が必須なので、出願前に連絡してもらい、遠方の場合はオンラインで、近場の場合は希望すれば対面で面談しているところだ。学部生の立場からすると、研究室選びはどういう基準で選べばいいか、なかなか難しいのではないかと思い、簡単なアドバイスになればと思って、この記事を書いている。

僕は人文学の研究者なので、あくまで文系の研究室選びの一例として、何を基準に選べばいいかの助言だと思ってほしい。大きく分けて進学先のポイントは以下のようになる。

①指導を受けたい研究者(どの先生の指導を受けたいか)
②研究したい大学(学位をどの大学で取りたいか)
③学びたい研究室(どういう環境で学びたいか)

以下、自分が学生だった時の経験や教員になってから経験を踏まえて順に説明していこう。

①指導を受けたい研究者
進学先を選ぶ時にもっとも重要なのは主指導教員の選択だろう。修士課程では少なくとも2年間の付き合いになる(日本の場合)。博士課程まで進学を考えているなら、もっと長い付き合いになる。もちろん、ここには専門領域のマッチングの問題(ちゃんと指導が受けられるかどうか)、教員の人間性(相性も重要なので事前に会っておいた方がいいだろう)、指導方針など(かなり介入的に指導する先生、放任主義の先生、あるいは厳しい指導、優しい指導など)複数の判断基準がある。

結構、学部からそのまま同じ大学の大学院に進んで、専門がずれているのに、修論を書いたという話を聞く。これは非常にもったいない。制度上、頑張って書き上げれば修了できる場合も多いだろうが、専門的な指導を受けずにひたすら自分で頑張って書くというのは、学費を無駄にしてしまっていると思う。やりたい研究と重なっていて、この先生に学びたいという基準で選んだ方が充実した2年間になるだろう。

海外では学士、修士、博士と別々の大学で学ぶのは珍しいことではない。ただ、まったく人柄も知らない先生のもとへ進学するのはリスクがある。出願前にメールをして、面談してくれるならお願いした方がいいと思う。もちろん、会って少し話しただけではわからないと思うので、指導学生などを紹介してもらえるなら、いろいろと指導方針や人柄など聞くこともできるだろう。

ちなみに僕は東大、京大、早稲田と3つ出願し、最初に受験があって合格した東大に進学したのだが、事前に指導教員には会っていない。そこは事前面談を義務付ける大学院ではなかったし、そもそも連絡して会ってくれるという発想がなかった。僕の主指導教員の吉見俊哉先生は、ずっと昔から本を通じて偉大な研究者と私淑していたので、何も考えず出願した。実際、入ってみていろいろとわかる。吉見研は留学生も多くとてもグローバルで、ゼミは英語で運営されていたし(自分の発表は日本語でできた)、ゼミでの先生の指導はとても厳しかったと思う(ゼミが終わるとめちゃくちゃ優しく穏やかでニコニコしているのだが、学問には本当に誠実で厳しい先生だった)。ただ、もし事前にゼミ見学にいっていたらビビって受験しなかったかもしれない(笑)

②研究したい大学(学位をどの大学で取りたいか)
学部は大学で選ぶ人が多いかもしれないが、修士以上になると専門性が高くなり、本格的に研究をしていくので、指導を受けたい研究者で選ぶというのが実質的なのではないだろうか。もちろん、憧れの大学に進学したいという人もいるかもしれないし、修士課程を終えて就職するという場合は、大学基準で選ぶ人もいるだろう(人生において就活というのを一度も経験したことがないので、この点はあてにならない)。

個人的にはどこの大学を出たかというのは、その後の人生において、あまり関係ない気がする。それより優秀な大学(あるいは研究室)には優秀な学生が集まりやすいというのが事実としてあって、こちらのほうが大事だ。修士・博士とさまざまな授業を履修していくが、周囲の学生のレベルが高いと、学びのクオリティもあがるのは間違いない。グループワークや文献講読、研究発表のコメントも優秀な学生が多いと、モチベーションもあがるし、自分の研究も深まっていく。この学びの環境も考慮した方がいいだろう。

③学びたい研究室
最後に研究室についても述べておきたい。事前に調べられる範囲で調べておいた方がいいと思う。というのも、(人文系といえども)研究室での学びが、大学院の時間の多くを占めるからだ。まず、教員によって指導学生の多さがかなり違う。僕の研究室はだいたい13〜15名くらいが所属していてコースのなかでは、かなり人数が多いほうなのではないかと思う。僕が修士・博士過程だった頃の吉見研にはその倍くらい院生がいたので、個人的には多いと思わないのだが、少ない人数ではない。反対に2〜3名が所属している少人数の研究室もある。どちらが自分にあっているかも判断材料としていいだろう。

それから研究室にめちゃくちゃ優秀な先輩がそろっていると、ものすごくいろんなことを教えてくれるので、めちゃくちゃ成長する。僕は先輩と同輩に恵まれていたので、ゼミでの先輩からの鋭いコメントや、しばしばサブゼミという研究会でもらったコメントで育ててもらったといっても過言ではない。可能であれば、ゼミを見学させてもらうというのも手だろう。先生によってはNGの人もいるかもしれないが、僕のゼミは日程さえ都合があえば、いつでも見学はOK。実際、受験前にゼミに参加する人もいる(ただ出願期間に入ると連絡を取ったり会ったりできないというルール)。

もし指導教員のゼミ生と話す機会があれば、指導の様子やゼミの雰囲気など、先生には直接聞きにくいことも聞けるのでいいと思う。他に面談で聞いておくべきことは、所属するゼミ生の研究テーマだろうか。やはり専門領域が近いともらえるコメントもよいものが増える(遠いほうが逆にいい場合もなくはないが)。それとどのくらいの頻度でゼミをやっていて、どういう形式で運営しているのか、教員はどのくらい指導するタイプか、といった質問を事前にしてみると入学後の生活がイメージできていいかもしれない。

ちなみに北村研の院ゼミは「論文ゼミ」「講読ゼミ」「映画ゼミ」という三本柱で研究を進めている。「論文ゼミ」はそれぞれが研究発表をしてディスカッションをし、「講読ゼミ」はゼミ生の研究領域において重要な文献を輪読していく。今年からはじめた「映画ゼミ」は映画上映と議論をセットにしたもので任意参加(映画研究者は必須)。いつも木曜日の夕方に4時間くらいかけてゼミをやっている(学生からは長すぎて不評のようなので、なるべく短く終わることを心がけているところです)。以上。院進する皆さんのいい研究室が見つかりますように。



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