見出し画像

個性と作家性

※カクヨムに掲載していたものの転載です

自身初となるオリジナル作品『サイダーのように言葉が湧き上がる』が無事に完成しました。

が、新型コロナウィルスの影響もあって公開は延期に。まあこれはさすがに仕方ないことです。新たな公開日が決まるまでしばしお待ちを。

サイコトですが2月末には完成してまして、現在は次の作品に取りかかっている最中なのですが、幾分時間に余裕ができたので久しぶりにアニメ創作ノートを書こうと思います。


今回は『個性と作家性』。


サイコトはオリジナル作品なのでゼロからすべてを作り上げています。ストーリーも絵も音楽も、あらゆる要素を各スタッフと一緒にアイデアを練って完成させました。オリジナル作品は作りたいこと考えたことがそのまま作品に反映されます。あたりまえのことではありますが、今までずっと原作がある作品を監督してきたイシグロにとっては初めての体験です。

オリジナル作品を作るとなると、どうしても個性だとか作家性だとかを意識せざるを得ませんでした。良い意味でも悪い意味でも、です。クリエイターや作品を語るときによく使われる言葉ですが、サイコトを作っていくなかでその意味の違いを個人的にすみ分けするようになっていきました。

一見似たような言葉ですが、本来の意味をいったん外に置いて、イシグロ個人が感じたことを記します。

【個性】

個性とは他者との違い。それは相対的な価値観。環境の違いや時代性に影響を受けやすい。個性的だと思われる容姿が、別の時代や環境では当たり前だったりする。

【作家性】

作家性とは自分の感覚を信じ抜く力のこと。それは絶対的な価値観。『好き』のかたまり。環境や境遇に左右されず、自分の内なるセンスをどこまで信じ切れるか。それが作家性。

イシグロは子供のころから「個性的だね」と言われることが多かったのですが、大人になるにつれ、正確に言うと自分と似たような趣味を持っている人たちとの関わりが多くなるにつれ、個性的と評される回数が少なくなりました。自分と似たような人たちとコミュニティを作ることで個性が相殺されたのだと思います。個性というのは移ろいやすいものです。

「作家性があるね」と言われたことは一度もありません。

サイコトの制作中は、監督としてこの作品を「どうしたいのか?」「なにを表現したいのか?」「なにを伝えたいのか訴えたいのか?」と有言無言の問を方々から投げかけられました。ときには反対意見というか、自分が想像してもいなかったことを言われたり。

その時々でイシグロのなかに湧いたのは「じゃあ自分はどうしたいのか?」ということ。

自分が示したアイデアは、思いついた時点では自分の中で最高のものです。が、世に出した瞬間に問われるわけです。「本当にこれが良いのか?」と。反対意見がでたときに、自分の感覚を信じ切って押し通せるかどうか。ここが分かれ目です。

迷うこともあります。かなり大人数に向けて自分のアイデアを提示するわけですから、芳しくない反応ばかりだったときなんかはホントに心が折れそうになります。

そんなときに拠り所になるは、結局のところ、「自分はこうしたい!」というシンプルな初期衝動。他者の意見を無視するというわけではなく、意見を聞いたとしても、それでも自分の感覚を信じるということ。信じ切って、思いついたアイデアを作品に植えつけたなら、そこには作者の意志が宿ります。作者の意志が積み重なって、やがて作家性として定着する。作家性とは作家の『好きなもの』のかたまりとも言えます。

オリジナル作品を作り上げるのは強い意志が必要です。これはもう、本当に実感しました。

自分の『好き』を恥ずかしげもなく世に提示して初めて、オリジナルと呼べるものが出来あがる。何物にも似ていないものを目指すとかそういうことじゃない、作者の『好き』のかたまり=作家性が結果的に個性を生む。「自分の好きを作品にねじ込むぞ!」という強い意志がないと、オリジナルなんて作れないです。

サイコトは初めてのオリジナル作品となりましたが、イシグロの『好き』をこれでもかとねじ込みましたので、作家性という意味では滲み出る作品になったと思います。そういう機会に恵まれて、本当にラッキーだなと感じました。思えば今まで手がけた原作作品も、それを生み出した各先生方は毎回このゼロイチの作業をしているわけで、あらためて尊敬の念を抱きます。

オリジナル作品と原作作品。監督するにしても、生みの苦しみは雲泥の差です。オリジナル作品のほうが圧倒的に苦しい。しかし完成した時の喜びも格別。なにより、「自分の監督作品だ」と純粋に誇れる。これが一番嬉しいです。ずっと求めていたこの感覚。やっと手に入れました。


残りの人生であと何本作品を生み出せるかわからないなかで、原作作品を監督している時間はもう無いな、と数年前から感じていました。関係者には宣言していましたが、この先、監督を手がけるのはオリジナル作品のみと心に決めています。自分の欲求を満たすためにも、オリジナル作品を世に送り出し続ける人生でありたいなと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?