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読書日記・2022年の振り返り【ノンフィクション編】

2022年の読書振り返り、最後はノンフィクション編です。
振り返ってみると、あまりノンフィクションやエッセイのたぐいは読んでおらず、冊数は少ないのですが……。
せっかくなので、良かった本を紹介しておきます!

『からゆきさん 異国に売られた少女たち』(森崎和江/朝日文庫)
この本は、なかなか読み進められなかった。
内容はタイトルにある通りで、彼女らの人生の一つ一つがとても重たい。
さらに「売られた」という事情もさまざまで、普通の奉公だと思って船に乗ったら「おショウバイ」することになった、という人もいれば、自ら海外で一旗上げようと渡海し、雇われる側から経営者となって資産を築いた人もいる。
しかしどの彼女の来し方にも、時代特有のままならなさや女であることの悲しみがつきまとっていて、簡単には呑み込めない。
彼女らに寄り添うような筆者の文章に、どうにか助けられて読了できた。
養母が「いんばい」であったという女性の、「あなた、売られるということ、少しはわかった? 一代ですまないことなのよ。売られた女に溜まったものは、その子の代では払いのけられそうもないわよ」という言葉が、重たく残っている。

からゆきさん


『魂の秘境から』(石牟礼道子/朝日文庫)
石牟礼道子さんの最晩年のエッセイ。
幼い頃の、水俣・不知火海での記憶を綴っている。
遠い昔を書いているとは思えないほどそのイメージは鮮やかで、目の前に景色が広がるようだった。
ただ、その景色は懐かしく美しいだけでなく、貧しさや暴力や狂気もその中に含まれている。
時に、老いた筆者の幻覚や夢も過去の記憶と混じり合って表出し、これは一種の幻想文学としても読むことができると感じた。

魂の秘境から


『「死刑になりたくて、他人を殺しました」 無差別殺傷犯の論理』(インベカヲリ☆/イースト・プレス)
「死刑になりたかった」という動機で無差別殺傷をおこなう人間がいる。
自身も十代の頃、「死ぬときは、必ず不特定多数の人間を無差別に殺傷しようと決めていた」と考えていたという筆者が、無差別殺傷犯を取り巻くさまざまな人々を取材している。
加害者家族を支えるNPO法人で働く人、無差別殺傷犯の元同僚、死刑囚の教誨師、他害行為をしたいという欲求に悩む人(潜在的加害者)に寄り添うカウンセラー、家族内問題に取り組む精神科医、死刑執行を経験した刑務官……。
さまざまな立場から、さまざまな話が語られる。どれも非常に興味深かった。
ただ、なぜ無差別殺傷犯がそうした行為に至るのか、という明確な理由や、どうすればそうした行為を防げるのか、という結論は示されない。
また、筆者は「無差別殺傷犯が一人もいなくなる世界というのは、異質な者が存在しなくなるということであり、私のような存在が殺される世界」とも述べている。
どのような欲求や願望を抱こうとも、それはそれでかまわない。
そういう人間もいる、とやわらかく受け止められる環境が必要なのだろうが、今の社会にはそれはない。
だから実際に行動に移してしまう人間が出てしまい、それはどうやったら防げるのか……。
その解答は本書の中でも提示されなかったし、私自身にもはっきりとは見えてこない。
そのためにモヤモヤした気持ちが読後に残ったのも事実だが、こうしたモヤモヤをすっきり解消せずに抱え込んでいくことも必要なのかな、と感じた。

無差別殺傷犯の論理


『妻はサバイバー』(永田豊隆/朝日新聞出版)
摂食障害とアルコール依存症、さらには解離性障害やPTSDに苦しむ妻と、彼女と共に生きる夫の人生の記録。
妻が病んだ背景には子どもの頃に受けた暴力があり、そこに大人になってからの性被害も加わり、症状は悪化していく。
夫は朝日新聞の記者だが、職場の理解もあり、妻を支え続ける。
……というと美談のように聞こえてしまうが、とてもその範疇にはくくれない。
よくぞ離婚も無理心中もせず、ここまで持ちこたえられたな……いっそ死んでいたほうが二人とも楽だったのでは、と思ってしまうくらいの壮絶な奮闘の記録だった。
「死んだほうが楽」などとつい思ってしまったが、筆者は、「妻は20年間『緩慢な自殺』を試みていたのだろうか。否。必死で生きようとしていたのだ」と断言する。
虐待や性被害のつらい記憶を乗り越えるため、過食嘔吐やアルコールなどの「鎮痛剤」が必要だったのだ、と。
その「鎮痛剤」には健康を害するという副作用があるけれど、しかし必死で生き延びようとしている時にはそれに頼らざるを得なかったのだ、と考える。
その観点は私にはなく、依存症に陥ってしまう人たちの心持ちに、ほんの少しだが寄り添えた気がした。
終章では、妻は40代にしてアルコール性認知症となり、できないことも増えたが、酒をやめたことで穏やかな日常を送れるようになっている。
筆者は最後に、妻と生きてきたおかげで、精神障害者が社会生活を送る上で抱えるさまざまな困難、幼少期の虐待が長年にわたって引き起こす悪影響などに目を向けることができ、この本を書くことができた、妻に感謝している、と述べている。
「本当にありがとう。これからも共に生きようね」というさりげない言葉が、非常に得がたく、尊いものに感じた。

妻はサバイバー


『ホラーを書く!』(東雅夫:インタビュー、皆川博子他9名/小学館文庫)
重たい本ばかり続いてしまいました。大丈夫、明るい(?)ホラーの本も読んでおります。
アンソロジスト・東雅夫氏が10人のホラー作家へインタビュー。
元の単行本は1999年の出版で、結構古い本なのですが、Twitter上で(あくまで私のTL上で)話題になっていたため手に取ってみました。
それぞれの作家さんが、ホラー(のみならず創作全般も含めて)に対しての思いをじっくりしっかり述べておられ、どれも興味深かったです。
中でも、私の敬愛する皆川博子先生のお話が読めて、大変幸せでした。
「ウチは家事を全部放棄しちゃったから、あばら家状態」というお話がすごく印象的。
「玄関の扉は開かない、台所の扉は開かない」
「流しも壊れちゃって漏るから、水も流せない。洗い物を鍋でして、鍋の水を風呂場に持っていって捨てて」
「めったに掃除機もかけないから、ゴミがそこいらじゅう、もやもやしちゃって」
と、当時の皆川家は何ともすごい状況だったようですが、創作者たるもの、ここまで実生活を放棄しないと、あれほどの幻想文学は書けないんだなあ……と深く感じ入りました。
私、小説を書くよりも先に、ゴミが気になったらつい掃除してしまうし、玄関の扉が開かなかったら困るし……と、何とも小市民的な感性で。
やはり皆川博子先生は偉大だ、とあらためて尊敬の念を深くしました。
(……読む方向として、やや間違っているかもしれない)

ホラーを書く! もちろんこれを読むだけでは書けませんが


『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(中川裕/集英社新書)
京都文化博物館で開催されていた「ゴールデンカムイ展」を観覧した時に購入。
漫画「ゴールデンカムイ」は明治末期の北海道を舞台に、元軍人の杉元佐一とアイヌの少女アシリパが金塊探しに挑む物語。
(アシリパさんのリは本当は小文字なんですが、どうやったら表記できるのかわからないので大文字に……ごめんなさい)
詳しいストーリー説明は省きますが、とっても面白いので未読の方はぜひご一読を。
この漫画でいいなあ、と思うところはたくさんあるのですが、アイヌの文化や歴史がしっかり描かれているのが読みどころの一つ。
「ゴールデンカムイ展」では作者の野田サトル氏が資料として用いた品々が数多く展示され、非常に綿密に歴史考証を行った上で漫画を描いておられたことが伝わってきました。
この『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』は、漫画の監修を担当した筆者が、アイヌ文化により親しんでもらおうとそのエッセンスをまとめた入門書。
漫画を読んだ人ならより楽しめると思うけれど、漫画を読んでいない人にもアイヌについてわかりやすく、面白く読めるようになっていると思います。
あー、読んでいると北海道に行きたくなるなあ……。
大昔に道東を旅行したことがあるのですが、北海道の歴史やアイヌ文化についてちょっとばかり知識が増えた今のほうが、ずっと深く楽しめそうな気がします。
いつか再訪するぞ!

アシリパさんが可愛い

ノンフィクション編、以上になります。

2022年の読書の振り返り、これにて終了。
来年も楽しく面白く、たくさんの本を読んでいきたいと思います。
(了)


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