見出し画像

「少年事件は実名or匿名?」「実名報道が社会的制裁になってませんか?」、大学生が大阪社会部長や記者に直球質問!

11月上旬のある日、共同通信大阪社会部をたずねてくださったのは、
京都産業大学法学部犯罪加害者支援や少年法を学ぶ2人の大学生と指導教授の服部達也はっとり・たつや先生でした。

京都産業大のみなさま

4回生の中村彩乃なかむら・あやのさんは「実名報道及びネット上の風説についての考察」を、同じく4回生の青木穂乃香あおき・ほのかさんは「加害者家族の支援について」をテーマに卒業論文を執筆中。

司法や事件取材の現場を知る記者たちに直接話を聞きたいと、やって来てくれました。           

撮影:大里直也(大阪写真部)、報告:石原知佳(大阪社会部)


出迎えたのは・・・


大阪社会部の西條高生さいじょう・たかお部長と、司法クラブキャップの八島研悟やしま・けんご記者、司法クラブ員の石飛哲平いしとび・てっぺい記者の3人が出迎えました。
 
緊張感漂う両陣営・・・。

京都産業大のみなさん(右)と共同通信の面々(左)

その後徐々に場も暖まり、気付けば約2時間半の熱い議論!
我々の方が今後の報道の在り方について重要な示唆を頂いたありがたい時間となりました。

全てはご紹介しきれませんが、大学生からの質問と記者の答えを振り返ります。

実名or匿名?


中村さんからは、少年事件の実名報道をどう考えるかとの質問が。
「少年法(※)が改正され、被疑者を実名か匿名、どう報道するか悩まれたと思う。報じる際、気を付けていることはありますか?」

※改正少年法は2022年4月に施行されました。
18、19歳を新たに「特定少年」と位置付け、家裁から検察官に原則として送致(逆送)する対象事件を拡大するなど厳罰化。
起訴された場合は実名や住居地など本人を推定する報道(推知報道)が可能となりました。(これまでは20歳未満の被疑者については全て禁止されていました)
少年法は、心身が成長途中で変化の可能性があることを前提として教育に主眼を置くとともに、少年院送致や保護観察など「保護処分」を原則としますが、厳罰化の流れが進んでいます。

西條 共同通信の事件報道の原則は、実名報道です。それに対して例外があるというのが基本のスタンス。社会で起きた、特に重大な、関心を呼ぶような事件については、可能な限り実名で残し記録し、検証可能なものにしていく。その責務があるというのが大きな理由です。特定少年を起訴する際、検察は検察の判断で実名で発表したり、匿名で発表したりしますが、共同としては検察の判断にかかわらず、どちらで報道するか判断しています。ただ通信社ですので、共同が実名で配信しても、加盟紙の判断で匿名に変えて掲載するケースもあります。

八島 報道と少年法のバランスの取り方ってすごく難しい。特定少年を巡る報道は、まだ流動的な面があります。我々はよく報道の意義を、知る権利、検証可能性を残しておくというような説明をするが、一方で近年は、忘れられる権利というのが言われるようにもなっている。少年に限らず実名・匿名報道の議論は今後も続いていくと思います。

実名報道で社会的制裁?


続いて、報道機関にとって大事な視点からの質問も頂きました。
「実名報道は社会的制裁の面が強くなってしまうと思う。被疑者の家族など周りへの影響も大きい。どう考えていますか?」

西條 報道の目的は、社会的制裁ではないんです。ただ、結果的にそうなってしまっている面があることは否めないと思う。日本の報道は逮捕時の報道量が多い。一方でその後判決に至った時、最初の頃の報道を細かく修正したり、検証したりすることがあまりできていない。個人的にはこうしたメディアの構造的な問題も関係していると思います。

石飛 日本の場合、起訴された後の有罪率が極めて高い。メディアは重大な事件になればなるほど、発生直後から大きく報道する傾向があるが、そうしたことも背景にあるのかもしれないとは思いますね

八島 例えば虐待や性犯罪事件の加害者を実名にするか匿名にするか考えてみても、知る権利と忘れられる権利というのが裏表になっていて、どちらにも意味がある。日々悩みながら仕事をしているというのが、私たち現場の感覚です。

加害者家族への取材


加害者家族の支援について」をテーマに卒業論文を執筆中の青木さんからは、加害者家族へ取材したことがあるかどうかたずねてくれました。

八島記者は地方支局時代の取材を紹介。
2007年3月に千葉県市川市で起きた英国人女性殺害事件で、容疑者が3年弱逃亡した末に大阪市内で逮捕された時のこと。
当時、容疑者の実家がある地方に赴任しており、ご両親へ取材しに行ったそうです。

八島 私も含め大勢メディアが集まって、ご両親からいろいろ引きだそうと土砂降りの雨の中で取材を続けることになった。ですが、やはり人権上問題があるので、途中で取材は切り上げることに。でもそれまでの間にはご両親への厳しい質問も出て、号泣しながら取材に応じてくださる場面もありました。昭和の時代から、ずっとそういうことを我々はやってきたわけです。今はメディア側もいろんなところで反省して、代表取材の枠組みを整えたりもしていますが・・・。

八島 発生時にはそういうことをしてきて、じゃあ時間がたってからも加害者家族の取材を続けているかというと中々やっていない。そういうテーマを継続して扱う記者が少ないし、組織として息の長い取材ができにくい仕組みになってしまっていますね。

西條 被害者にも家族がいて、加害者にも家族がいる。二つの声を聴くのがメディアの役割なんだけど、加害者家族への取材っていうのは実際は中々できていない。非常に大きな課題だと思います。

部長から逆質問も


西條からこんな逆質問も。
「みなさんや周囲など若い人の間では、厳罰化すれば少年事件が少なくなるんじゃないかというのは感覚的にありますか?」

青木さん 興味のあることだけまとめられたニュースサイトを見るので、事件に関心がなくて、最近の事件自体を知らない子も多い。そもそも少年法が厳罰化したことを知らない人が多いかもしれません。

中村さん 個人的には厳罰化したら少年犯罪がなくなるかというと、そうでもないかなと思います。やっぱり生きづらさの問題が大きいのかな。少年事件でも実名報道されるようになったから、事件を起こすのを思いとどまるかというとそうではなくて、現状から抜け出すために犯罪をしてしまう人が多いように感じます。政策と当事者の間にズレがあるのかなと思っています。

これからのメディアは


卒業論文の執筆に協力するということで始まったこの対談。私たちも普段なんとなく感じている現状への疑問や考えを言葉にする非常に良い機会を頂きました。これからのメディアの在り方について西條はじめ記者一同、今後も日々考えながら、取材活動に反映していきます。

西條 被害者家族とともに加害者家族の支援についても、報道機関としてもっと取り上げないといけないと改めて感じました。僕らの役割は、大事なことなんだけど関心を持たれにくいことを取材・報道して、それがなぜ必要なのか説明責任を果たすこと。やっていかないといけないですね。

八島 我々がさらに努力していかないと社会の幅とか懐の深さが広がっていかないし、深まっていかないのではと感じています。いろんな形で模索していかないといけない。世の中これだけ複雑になっているのに一人一人の考えはどんどん単純化しているっていう危惧がありますね。

議論を見守ってくださった服部教授は元少年院長。現在の主な研究テーマは加害者支援ですが、少年たちの更生に被害者の視点を取り入れた手法を導入した経験も。授業ではいつも学生たちに「被害者支援と加害者支援は両方有るのが健全な社会。二項対立で考えるべきではない」と伝えているそうです。

<終了後、お二人に感想を頂きました>
中村さん 報道のあるべき姿や国民の知る権利など、現場の人たちがどう思っているか知ることができて良かったです。ただ、こういう社会になったらいいなっていう理想にたどり着くのは難しいなと思ってしまった。実名報道についてもどうして行くのか、1社だけでなくて報道全体で、社会全体で問題を共有していかないといけないと感じました。

青木さん メディアの考えが聞けてありがたかった。今までニュースサイトやテレビぐらいしか情報源がなかったが、思考が固まって視野が狭くならないように、共感できない意見も自分から調べてみるようにしていきたいです。

こんな記事も書いてます

受刑者のその後を支援する取り組みを高松支局の広川記者が取材しました。裏側をnoteでもつづっています。

広川記者、最近もこんなnoteを書いています。

ご意見ご感想お寄せください!

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

最後まで読んでいただきありがとうございました。 noteは毎週ほぼ木曜更新(時々サプライズあり)。 Instagramでも「今この瞬間」を伝える写真をほぼ毎日投稿していますので、ぜひフォローをお願いします。