記者が執筆から配信まで一気通貫!神戸新聞に学ぶ note 記事の作り方
昨年9月に note を始めてみたものの、毎週更新って意外と大変。
テーマを考えて、筆者の記者と打ち合わせして、原稿もらって、見出し画像作って、編集して。
いやー、みんなどうやって運営してるんかなぁ。
あ。そういや副部長が神戸新聞公式 note の「中の人」を知ってるって言うてたな。
神戸新聞は共同通信の記事を掲載してくれる加盟社やし、日ごろのよしみでどんな感じで note をやってるのか教えてもらえたらナア…。いや、でも加盟社さんっていうても他社やし、編集の裏側は企業秘密って言われるかな…。
うーん、まあダメ元で聞いてみるか。
副部長!神戸新聞さんにどんな形で note の運営してるのか、聞きに行ってみたいんですけど。
っしゃあ!! ぜひお願いします!
ということで、秒速でアポを取ってくれた副部長とともに、年の瀬も押し迫った12月某日、神戸新聞さんにお邪魔してきました。
(大阪社会部・山本大樹)
■ 二人のベテラン記者
神戸新聞の本社ビルはJR神戸駅から徒歩約10分。アンパンマンミュージアムや大観覧車で知られるハーバーランドの一角にあります。
今回、迷える私たちに先達としての歩みを教えてくださったのは、DX推進部に所属する大先輩のお二人。「うっとこ兵庫」でも記事を書いている「ド・ローカル」さんと「播州人3号」さんです。
ちなみに我が方の副部長は、25年ほど前に神戸支局で県警本部の2課担をしていたことがあるらしく、当時神戸新聞の1課担だったド・ローカル氏とはその頃からの付き合いだとか。
播州人3号氏には、パワーポイントを使ってみっちり丁寧に「うっとこ兵庫」の取り組みを教えていただきました。以下、その概略をお伝えいたします。
■ 「うっとこ」のはじまり
「うっとこ兵庫」が始まったのは2021年6月。その年に社内の組織改編があり、DX推進部にも「デジタル分野の新しい取り組みを」というミッションが課されたんだそうです。
そこで持ち上がったのが Voicy と メルマガ と note の三つ。「新事業の目的は新たな読者層にリーチすること。どんなメディアが最適なのか、諸説あったのでとりあえず全部始めちゃいました」(播州人3号氏)ということで三つとも立ち上げることに。ちなみにそれぞれのタイトルは以下の通り。縦に並べると…
めっちゃ兵庫(Voicy)
ええやん兵庫(メルマガ)
うっとこ兵庫(note)
「めっちゃええやん、うっとこ兵庫」になります。
(※「うっとこ」の意味が分からへん人は↓コチラをご確認ください)
note の狙いは過去に掲載した記事の再活用や、新聞では書けないような長文記事のニーズを探ること。神戸新聞さんは note pro を導入しておられるので、アナリティクスのデータを踏まえ「長期間にわたって読まれ続ける記事」の特徴を分析しているそうです。
■ ライターが1人で作業を完結
私が特に驚いたのは「出稿者配信」の仕組みです。
これはコンテンツの編集から配信時期の決定に至るまで、ライターの記者が全ての作業を1人で担うというもの。つまり、新聞記事のような「デスクによる編集作業」や「校閲」というプロセスがありません。企画の打ち合わせもないとのこと。
それぞれの記者が好きなことを書き、配信のタイミングも決める。できあがったコンテンツは、播州人3号氏が予約配信のボタンを押す際にざっと内容を確認しているそうですが、レイアウトの崩れがあれば直すくらいで、文章の修正はほぼなし。
この出稿者配信の仕組みを導入した背景には「デジタルの世界ではそれくらいのスピード感でやらないと読者のニーズに応えられない」という考えのもと、今までにない編集方法を試行する目的もあるんだとか。
個人クリエイターの方からすると当たり前のことかもしれませんが、マスメディアの公式コンテンツとしては珍しいというか、新しい試みだなと感じました。
■ 記憶とデータベースでアイデアを形に
では、1本1本の記事はどのようにして出来上がるのでしょうのか。
たとえば、ド・ローカル氏が「さっき昼飯食うた後に、2時間くらいでパパッと書いたんや」と語った記事はこちら。
神戸は有名ベーカリーが多く、関西では「パンの街」として知られています。その歴史や名店ならではのエピソードを紹介したら面白いのでは、という思いつきが出発点。
あとは「あそこの店の話はあの時に書いたな」という記憶の引き出しと社内データベースを使って過去の新聞記事を拾い集め、この note をまとめたんだそうです。記者・デスク歴30年という経験の蓄積がなせる術ですね。
その少し前に配信されたお雑煮の記事もド・ローカル氏の執筆。私はおいしそうな餅の写真に釣られて、サムネイルを見た瞬間にクリックしました。
氏曰く「兵庫は五国と呼ばれる五つの地域(摂津・播磨・但馬・丹波・淡路)があるから、雑煮もいろいろ。どんな雑煮を食べているかを知ることは、その人の人となりを知ることになるんや」。
「電車に乗ってる時とか、街歩きをしている時とか、常にネタ探しをしてますよ」という播州人3号氏が去年の夏に書いたのは、エルビス・プレスリーの銅像に関するこちらの記事。ハーバーランドによく行く人なら一度は見たことがあると思いますが、この像が東京から引っ越してきたって知ってました?
記事の後半で尼崎市にあるという別のプレスリー像も出てきますが、こちらはなかなかシュールな状態です。気になる方は、ご確認ください。
■ 現場記者をどう巻き込むか
ご説明の後半では、目下の課題についても伺いました。
「うっとこ兵庫」のスタートから1年半余り。これまでに筆を執ったのは、DX推進部員や本社・支社の記者ら15人ほどだそうです。さらにライターの裾野を広げたいところですが、ニュースの現場に近い記者ほど、新聞紙面や自社のニュースサイト「神戸新聞NEXT」向けの記事執筆で忙しく、なかなか note にまで手が回らない事情もあるんだとか。
また、他のソーシャルメディアを含む外部からの流入をどう増やすかについても、いろいろ思案されていることが分かりました。この辺りの課題は、後発組の私たちとしても強く共感したところです。
他にもフォロワーのプロフィールから分かる読者の傾向や、良く読まれた記事のジャンルなど、お二人にはさまざまな情報を教えていただきました。「何でも聞いて」というお言葉に甘えて、こちらからもあれこれ質問しているうちに、気付けば1時間半。非常に濃密な意見交換になりました。
■ 「うっとこ」の個人的オススメ3本
最後に「うっとこ兵庫」で公開されている170本以上の記事の中から、私の個人的なオススメを三つ紹介したいと思います!
①「作家・塩田武士さんが描く芸人群像!! 記者時代に執筆した名物企画を紹介します」
2012年まで神戸新聞で記者をしていた作家・塩田武士さんが、2008年に手がけた「お笑い芸人」に関する連載の紹介記事です。新聞に掲載されたのは15年前。当時「若手の新星」として取り上げられた「かまいたち」や「とろサーモン」も、今や押しも押されもせぬ売れっ子芸人になってます。筆者の慧眼ですね。有料ですが、ぜひご一読ください。
ちなみに、私はこの正月休みに塩田さんの近著「朱色の化身」を読んだんですが、内容が面白いのはもちろん「記者はとにかく取材してナンボ」と激励されているような気になりました。発憤したいライター・記者の方にはオススメの一冊です。
②「つながる記事―。命の恩人との再会も」
一つの記事が、予想外の反響を呼び、誰かのアクションにつながる―。そんな温かい営みがあることを教えてくれる記事です。紙の新聞は読まれにくくなっていますが、デジタルの世界でも同じようなことは可能なはず。原稿を書いた記者の思い入れも伝わる素敵な内容でした。
③「TDS、USJの紹介記事が…! 唯一無二、鬼才の〝作品〟3選」
個人的に一番衝撃を受けたのがこの記事。「鬼才」と称される記者のユニークすぎる記事が紹介されているんですが、その内容はもはや解説不能。「新聞記事って固いよね」という既成概念を木っ端みじんに粉砕してくれる1本です。
神戸新聞おそるべし。
今回の“取材”の出発点は「よその note はどんな感じで運営してるんかなー」という素朴な疑問だったんですが、お話しを聞いているうちに「もっと自由で良いんだな」という思いを強くしました。
好きなことを、自由に表現する。それが、私たちが普段書いているニュース記事にはない note の良さであり、読者に届けるために必要なことなのかもしれません。
神戸新聞さんは今年も「神戸新聞NEXT」を軸に、大きなデジタル展開を予定されているそうです。機会をいただければ、また勉強にうかがおうと思います!
ド・ローカルさん、播州人3号さん、どうもありがとうございました。
※1/13 追記
神戸新聞さんと京都新聞さんが関連 note を書いてくださりました。合わせてご覧ください!
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