「暗くて怖い?」密着して見えてきた少年院の温かさ-松山学園座談会(前編)
少年の更生を目的として全国に設置されている少年院は、近年廃止が相次いでいます。法務省によると、2017年末時点で52あった施設は毎年減り、2023年度は44。主な背景に人口に占める少年の比率が下がり、少年事件も減少している状況があります。
共同通信が47リポーターズで取り上げた松山学園も廃止が決まった少年院の1つ。11月9日には閉庁式も開かれました。普段なかなか入ることのできない少年院を取材し、記者は何を思ったのでしょうか。
また、松山学園は設置から今年で70年。多くの少年を教育し、社会に送り出してきました。長い歴史に幕を閉じることになった今、現場で働く職員は何を思うのでしょうか。
前編は取材した記者2人に、後編は松山学園の法務教官4人に聞きました。
(聞き手=高松支局・広川隆秀)
◆記者のプロフィール
◆記事の概要
(まずは、2人がどんな記事を書いたか教えてください。)
熊木 今年度で廃止となる愛媛県松山市の少年院「松山学園」の最後の夏を取材しました。しまなみ海道サイクリングや盆踊りなど松山学園が長年取り組んできた「開放処遇」を主に取り上げつつ、学園の施設に何度も足を運び、最後の入所者となった少年の暮らしぶりを追いました。
8月初旬に少年が退所することを受けて、その直前には単独インタビューも実施しました。「少年院に入って良かった」という言葉の背景には、学園での日々や教官との深い関わりがあると知りました。
(山口さんはどうですか。)
山口 松山学園の矯正教育の特徴は、熊木さんも言っていたように開放的な処遇です。
私は特に、その1つであるしまなみ海道のサイクリングが印象的です。少年と伴走し、非常に近い距離で、表情や教官とのやりとりなどを取材できました。共に時間を過ごして心に残った場面を精査して入れ込み、少年の日々の姿や生活をリアルに感じられる記事にすることを意識して書きました。
◆読者の反響と記者の葛藤
(少年院に入る少年というと世間からの厳しい目もあるかと思います。記事への反響はどうだったのでしょうか。)
山口 ヤフーで公開された記事に対するコメントなどを見ると、予想したよりも、松山学園での少年への矯正教育に対する肯定的な意見が多かったと思います。
一方、少年が少年院にいるということは、同じように被害者がいるということで、彼らへの配慮も大切だと指摘する声もありました。それは全くその通りなのですが、少年の更生に期待して一生懸命に教育する教官や地域の方々の姿を見ると、自然と自分も少年に肩入れしてしまう部分があったと思います。
その中で、被害者の存在も考え、彼らに配慮しながら記事化することが難しかったです。
少年がどういった非行内容で少年院に送致されたかが分からず、具体的に被害者の存在をイメージできなかったことも、難しくさせる1つの要因だったかなと思います。
ただ、記事の公開後、教官の方々に「人々に伝えたかったことを記事を通して代弁してくれた」とおっしゃっていただき、松山学園の教育方針や暮らしを忠実に表現できて良かったと安心しました。
(熊木さんもコメントは読みましたか。)
熊木 記事に寄せられたヤフコメは全て読みました。
「被害者は今も泣いているよ」など厳しいコメントもありましたが、松山学園の開放的処遇について肯定的な意見や少年の立ち直りに期待する声も多く寄せられていました。
もちろん被害者の存在をないがしろにしてはならないですが、今回の記事では非行の減少に向けての少年院の取り組みや少年の更生に重きを置いていたので、その意図が読者の方に伝わっていたことを知ってうれしかったです。
◆少年院へのイメージ=「反抗的な不良」?
(2人は今回の取材で初めて少年院の中に入ったのですよね。取材する前、少年院に対してはどのようなイメージがありましたか。)
山口「子どものための刑務所」というイメージでした。塀の中の隔離された世界で、入所者同士や入所者と教官の対立があり、殺伐とした空間というイメージでした。
熊木 非行に走った少年らの更生施設ということで閉鎖的で暗く、教官も怖い人ばかりというイメージを持っていました。
施設や部屋はきっと施錠されていて、生活も厳しく制限されているのだろうなと思っていました。
(2人は何度も少年と接し、少年院にも足を運んでみてイメージに変化はありましたか。それぞれどうでしょうか。)
熊木 実際に松山学園に足を運んでみて、意外と明るいなという印象を受けました。
保安上必要な部分以外は施錠されていないという物理面に加えて、教官の方が厳しさと温かさの両方をもちながら少年と接している様子がその要因かなと思いました。
少年に対しても会う前は「反抗的な不良」を想像していましたが、学園での日々を一生懸命過ごしている様子を見てイメージは大きく変わりました。特に、盆踊りに真剣に取り組んでいた姿と踊り終わったときの笑顔は今も印象に強く残っています。
山口 当初は正直、「ちゃんと話してくれるか」、「急にキレたりしないか」、「とても卑屈な子なのではないか」など、少年に対し不安を持っていました。
しかし、しまなみ海道サイクリングの取材で初めて会ったとき、そのイメージは大きく裏切られました。私が自己紹介すると「よろしくお願いします!」と気持ちよくあいさつしてくれました。
後をついて行き、不躾に写真まで撮ってくる記者を良くは思わないだろうと思ったのですが、最後にも「ありがとうございました!」と明るい顔であいさつしてくれました。
その後の取材で顔を合わせたときも、僕を見つけると軽く会釈をしてくれるなど、明るくて社交的で、人としっかりコミュニケーションを取れるのだと分かりました。
少年院という空間自体も、イメージしていたものとは大きく違いました。壁が高く、有刺鉄線などが張り巡らされてはいるものの、施設自体はまるで学校のようなつくり。
教官も、少年を怒鳴りつけることはなく、柔和な表情で寄り添いながら指導します。
「教官と入所者」というよりはむしろ、「親と子」のような関係性に感じられました。
地元の高校生が、通学路として敷地内の駐車場を利用する姿も驚きでした。思っていたよりもかなり、地域に開かれた施設なのだなと感じました。
◆温かく受け入れる社会を
(記事の最後では、「少年が社会に戻るとき、温かく受け入れる社会であってほしい」とも書いていました。どうのような意味が込められているのでしょうか。)
山口 少年院に送致されてくる少年には、発達障害や知的障害の診断を受けるボーダー上にいる人も少なくありません。
他にも様々な事情で、必要な時期に、必要な教育を受けられなかった少年が多くいます。
非行を減らすには、そういった、義務教育からはみ出してしまった少年らに、社会が適切に手を差し伸べることが必要だと思います。
少年が非行に走ってしまう前に、少年らを受け入れ、教育し、優しく包み込んであげるような場所が確保されることが大切だと思います。
記者として、そのような活動を積極的に行っている人や組織を取材し、より広く知ってもらえるよう、紹介していきたいです。
また、松山学園を取材する前の私がそうだったように、普段接する機会が少ない「少年院」や「非行少年」に対し、実際の姿と乖離するイメージを持っている人も多くいると思います。
そのような人たちに「必ずしもイメージ通りではない」ということを丁寧に伝えることも、私たち記者にできる大切な仕事だと思います。
(熊木さんはどうでしょうか。)
熊木 今回の松山学園のような少年院での取り組みや、実際にそこで過ごす少年の様子を広く知ってもらえるような記事を書くことが、記者としてできることだと思います。
少年院の実態について、入所する少年や職員として携わる人以外にはあまり知られていないのが現状ではないでしょうか。
実際に私自身も取材する前は全く想像がつきませんでした。
未知の世界って少し怖くて、遠ざけたいと感じることもあると思います。
だからこそ、私を含めた少年を受け入れる側(社会)が、少年院という施設や取り組みについて少しでも多くの中身を「知っている」状態が大事になるはずです。
今回私たちが書いた記事がその一助となっていたらうれしいですし、今後も取材を続けていきたいです。
共同通信が配信した動画はこちらから↓
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