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知ってほしい “過酷すぎる” 子どもの付き添い入院の実態

今回の note では、子どもの「付き添い入院」に関する記者の実体験と、それを基に書いた記事をご紹介します。付き添い中の保護者の声を少しでも多くの人に知ってもらうために、読者の方の体験談やご意見を募っています。ぜひ、ご協力下さい!

付き添い入院の体験談・ご意見をお寄せください。
※2024年1月18日をもって一旦閉鎖させていだきます。
貴重な体験談をどうもありがとうございました!

付き添い入院の便利グッズや支援団体をまとめた最新の記事はこちら☟

こんにちは。大阪社会部の禹誠美うそんみです。

私は育児休業中だった2年前、当時生後3カ月だった長男が入院し、初めて付き添い入院を経験しました。

付き添い入院というのは、乳幼児などが入院する際に、保護者が同じ病室に泊まり込み、24時間付きっきりで世話をすることです。

保護者の食事は自分で調達しなければならないため、コンビニ弁当ばかりが続く日々。夜は小児患者用のベッドで子どもと添い寝するか、狭くて硬い簡易ベッドで細切れの睡眠。子どもから目を離せないため、シャワーを浴びることも制限され、ほっと一息つく間もない―。

何これ。きつすぎる…

あまりの過酷かこくさにショックを受け、かといって治療中の子どもの前で弱音は吐けず、我慢しているうちに自然と涙が出たのを思い出します。

まさに、子どもが入院するまでは全く知らなかった世界

私はこの時の経験をきっかけに、付き添い入院に関する取材を始めました。今回の note では、これまでの記事で取り上げた「保護者の重い負担」や「付き添い制度の課題」をお伝えします。

まずは、私自身の体験から…。

■ 私の場合

1.初の「ワンオペ看護」

2020年8月に生まれた長男が初めて熱を出したのは、その年の12月、ある日の夕方です。すぐに近所の小児科に連れて行ったのですが、血液検査の結果、炎症反応が高く、すぐに大きな病院を受診するよう勧められました。

仕事を切り上げた夫と合流してタクシーに乗り、車で10分ほど離れた総合病院へ。この時はすぐに帰れると思っていたので、荷物はほとんど持っていませんでした。

病院では「尿路感染症にょうろかんせんしょうの疑いがあり、1週間程度の入院が必要」という診断に。不安を募らせる私たち夫婦に、当直の医師はこう言いました。

お母さんが付き添った方がいいですね

同時に「付き添い許可願」という紙を渡され、サインするよう求められました。書かれていたのは「親が付き添いを希望し、医師に許可を求めます」という内容。

医師から付き添うように言われたのに、なぜ許可が必要なの…?

少し疑問に思ったものの、その時はよく分からないままサインしました。看護師の説明によると、新型コロナの影響で保護者の交代は認められないとのこと。こうして1週間に及ぶ、初めての「24時間・ワンオペ看護かんご」が始まりました。 

カーテンで仕切られている大部屋で一日の大半を過ごす。右端は折り畳んだ簡易ベッド。


2.寝る場所が…これ??

入院が決まったのは夜10時。その日は「伝染性の感染症にかかっている恐れもゼロではない」という理由で、大部屋ではなく個室へ入ることになったのですが、案内された部屋に親のベッドはありませんでした。折り畳み式の簡易ベッドであれば、有料で借りられるということだったのでお願いすることに。いざ運ばれてきた実物を見て思わず声が出ました。

ここで寝るの!?

目の前に置かれたのは、肩幅ほどの狭さでとても硬く、寝返りも打てない担架たんかのようなもの。その上に、初めて目にするような細長い布団がかけられていました。

寝ようとしても、子どもの夜泣き、看護師さんの巡回でまともな睡眠は取れず…。日中は治療の邪魔にならないよう、簡易ベッドも畳まなければならないため、うつらうつらと椅子に座って仮眠を取る日々。常に寝不足状態でした。

後から分かったことですが、簡易ベッドを借りられるならまだ良い方で、病院によっては小さな小児患者用ベッドで子どもと添い寝、というケースもあります。子どもに取り付けられた点滴の管などが絡まないよう気を付けながら、身を縮めたまま横になるしかありません。これでは疲れがたまる一方だと思います。

3.猛ダッシュで食事を調達

付き添い入院中の大きな問題の一つが「食事の確保」です。患者と違って付き添いの親には、入院食は提供されません。

ただ、ありがたいことに私が付き添いを経験した病院では、希望すれば入院患者向けの食事を1食640円で保護者にも提供してもらうことができました。毎食ではなくても、温かいものを食べるとほっとしますよね。

付き添い食。食べたいときだけ頼めるシステムで助かりました。

一方、こうした取り組みは限られた病院しか実施しておらず、多くの場合は保護者が自分で調達しなければなりません。

私も別の病院で2度目の付き添いを経験した時は、食事の提供がなかったため、院内のコンビニでおにぎりや総菜を買いました。最近のコンビニ弁当は美味しいんですが、毎食となると栄養も偏ります。

食事を買いに行っている間も、誰かが子どもを見ていてくれるわけではありません。寝ているすきを見計らって、猛ダッシュでコンビニに行き、数食分をまとめ買いして、また病室にダッシュです。

保護者の中には買い出しに行くこともできず、カップ麺や子どもが食べ残した食事でしのぐ人もいるそうです。

4.気が休まらない

別の大変さとして、24時間気が休まらないという問題もあります。

子どもの病状が心配で気が張り詰めていることに加え、昼間は診察や検査のため、医師や看護師が入れ代わり立ち代わり病室を訪れます。看護師さんが入ってきた時に、こちらが着替え中だったこともありました。

子どもは子どもで、普段と異なる環境にぐずることもあります。泣きそうになるのをあやして、オムツを替え、ミルクを飲ませる。排せつの回数や摂取した水分量はすべて記録し、看護師さんに記録表を渡す。日中は抱っこしていないと寝てくれず、日によっては2~3時間、抱きっぱなしになりました。

日によっては抱っこでしか寝なかった息子。この姿勢で数時間過ごすことも。

子どもの世話だけでなく、自分の身の回りのこともままなりません。シャワーは20分の時間制。子どもから目を離せないので、トイレも行きたいタイミングで行けない。

生後3カ月の子どもと2人きりだと、「言葉」を話す機会もなくなります。唯一の会話は、巡回でやってくる看護師や医師と交わす、わずかなやりとりだけ。何気ない話もできないまま、1週間のほとんどを黙って過ごすのは本当に気が滅入りました。

私は経験しませんでしたが、大部屋で他の患者さんと一緒になった場合は、隣の話し声や泣き声、足音が気になったり、反対に自分の子どもの泣き声で周りに迷惑を掛けないか気にしたりして、とてもストレスが溜まるそうです。大部屋も個室も、それぞれの大変さがあります。

5.出費の問題

さらに、付き添い入院中は何かと出費がかさみます。

私の場合、個室は1泊当たり15,000円程度の別料金がかかったので、2日目に大部屋に移りました(ただし、他の患者さんがいなかったため、実質的には貸し切り状態が続きました)。

それでも食費はかかるし、当然ながら、テレビや冷蔵庫、洗濯機の利用も有料です。付き添い入院をきっかけに私も加入しましたが、子ども向けの医療保険があればこうした費用の一部をまかなえるので少しは安心です。

6.退院後

長男の治療は幸いにも順調に進み、1週間後に無事退院できました。お世話になった医療従事者の皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。

…と言いつつ、「付き添い入院はもう二度と経験したくない!」と思ったのが正直なところです(翌年の夏に2回目を経験しましたが…)。病院を出た瞬間に吸った外の空気のおいしかったこと!疲弊しきった私の心身は既に限界を迎えており、帰宅後は泥のように眠りました。

入院中、他にもこんな経験をしている人がいるのだろうかと思って、twitter で「付き添い入院」というキーワードを検索したことがあります。目に付いたのは「めちゃくちゃしんどい」「地獄」「親の人権がない」といった声でした。

体調不良や精神的なストレスだけではありません。子どもの病気や症状によっては、この生活が数か月、数年単位で続く人もいること。付き添いが長期化すると仕事を休職・退職せざるをえないケースもあること。他の保護者のツイートを見て、さまざまな問題を知りました。

「つらい思いをしているのは私だけじゃないんだ」と共感するとともに、なぜ社会であまり問題になっていないのだろうと不思議に思ったのをよく覚えています。この時の疑問が付き添い入院について取材するきっかけになりました。

育休から復職して2カ月後に書いた記事が↓コチラです。2週間のワンオペ看護を経験された方の取材内容に私の経験談を交え、付き添い入院の問題点をまとめました。

 

■ 付き添い入院は必要なの?

前置きが長くなってしまいましたが、そもそも付き添い入院は必要なのでしょうか。

厚生労働省によると、公的医療保険で病院に支払われる「入院基本料」には、子どもの世話にかかる人件費も含まれています。したがって、家族の付き添いは原則不要です。一方で、厚労省の通知文には下記のような文言もあり、これが付き添い入院の根拠になっています。

厚労省の通知文

 治療に対する理解が困難な小児患者又は知的障害を有する患者等の場合は、医師の許可を得て家族等患者の負担によらない者が付き添うことは差し支えない。
 なお、患者の負担によらない家族等による付添いであっても、それらが当該保険医療機関の看護要員による看護を代替し、又は当該保険医療機関の看護要員の看護力を補充するようなことがあってはならない。

分かりにくい表現ですが、要するに「家族の付き添いは医師が許可した場合だけ認められる」けれど、許可する場合でも「看護師が担うケアを保護者に任せてはいけない」というルールです。

でも、実態はどうでしょうか。

「子どものそばにいてあげたい」と付き添いを希望する保護者は多いですが、いくら子どもが心配でも仕事や家庭の事情で一日中付き添うのは難しい人もいます。

一定の医療体制を整えている病院の中には「原則付き添い不可」の施設もありますが、看護師の人手不足などを理由に病院側から付き添いを要請する事例もよく聞かれます(私のケースもその一つだと思います)。

保護者の事情もそれぞれ、病院の対応もばらばらです。そして、その中で「無理をして付き添っている保護者がいること」「保護者に過度な負担が生じていること」が問題になっています。

決して、付き添い入院そのものを廃止すれば良いわけではありません。保護者が付き添わなくても安心して子どもを預けられる体制や、付き添いを希望する保護者がまともに生活できるような環境整備が必要だと思います。

■ 1年間も病棟に缶詰めの保護者も

付き添い入院の問題は、新型コロナの影響も大きく受けています。

私は2021年の秋、コロナ禍で保護者の負担が増しているのではないかと考え、同僚と一緒に全国の主要病院121施設にアンケートをしました。

その結果、回答した88施設のうち、77%が新型コロナの感染対策として、付き添いの交代を禁止、または制限していたことが分かりました。

交代を禁止された結果、1年間ほぼ病棟から出られなかった保護者もいました。上の記事でご紹介したのは、小児がんの治療を受ける5歳の娘さんに付き添っていたお母さんのケース。付き添い中、何よりもつらかったのは家に残した4歳の息子さんに会えなかったことだそうです。

(息子の顔が見られたのは)夜に短時間だけテレビ電話をするだけでした。1年間に会えたのは数回だけです。甘えたい盛りなのにどれだけ寂しい思いをさせたか。いまだに考えるだけで涙が止まりません。

(当時の取材メモから)

わが子に会えないお母さんの気持ち。お母さんに会えない男の子の気持ち。その両方を想像すると、胸が締め付けられる思いでした。さらに、子どもやお母さんだけでなく、お父さんにも重い負担がかかっていたようです。

夫の心労は想像以上だったと思います。私の両親との同居だったので、両親に対する気遣い。病気の娘に会えない不安。さらに4歳の息子を責任を持って育てないといけないという重圧と、仕事の両立。想像できないストレスだったと思います。

(同上)

このお母さんへの取材を通じて、付き添い入院の長期化は家に残る家族にも深刻な影響を及ぼすことが分かりました。

■ 国が初の実態調査、でも結果は…

コロナ禍で保護者の負担がさらに重くなる中、厚労省は2021年10月、付き添い入院に関する初めての実態調査に乗り出しました。

厚労省の調査結果報告書(外部ページのPDFリンクです)

調査対象は患者や家族ら計3千人。外部業者に委託して全国の300病院に調査票を10枚ずつ送付し、病院から患者や家族に配ってもらう形式で行われました。回答する際は、家族から業者に直接郵送する方式だったのですが、戻ってきた調査票は…

わずか41件(回収率1.4%)

なお今回の調査は、患者の年代層を特定しない形で行われたため、41件の中には知的障害や認知症のある大人の患者に家族が付き添う例も含まれています。これらを除き、小学生以下の子どもが入院しているケースに限ると、得られた回答はたった27件(0.9%)でした。

厚労省調査の流れ

なぜ回答率がここまで低くなってしまったのでしょうか。調査票がきちんと患者家族に配られなかったのではないか。郵送という回収方法が負担になった可能性もあるのでは…。

考えられる要因はいろいろありそうですが、厚労省の担当者は「低回答率の原因は不明」と説明しています。有意義な結果は得られなかったにも関わらず、再調査をする予定もないとのこと。

じゃあ一体何のためのアンケートだったのか。首をかしげてしまいます。

調査がうまくいかなかったため、ルールに反して病院側が付き添いを求めている事例がどれだけあるかも把握できておらず、対応策の検討は進んでいません。

今回の調査で付き添い入院の環境が変わるかもしれないと期待していた方も少なくなかったと思います。私自身もこの結果にがっかりしました。

■ ネットにあふれる悲痛な訴え

国の鈍い対応とは対照的に、twitter やネット記事のコメント欄では、毎日のように保護者の悲痛な訴えが飛び交っています。

こうした現場の声を国に届けようと、病児やその家族を支援しているNPO法人「キープ・ママ・スマイリング」が、独自にウェブアンケート形式の調査を始めました(期間は2022年11月25日~12月16日まで)。

結果は厚労大臣に提出し、施策の検討材料にしてもらう予定です。回答数は既に3000人を超えたそうです(12月12日現在)。私も、厚労省の調査に代わってこのアンケートが有意義に活用されることを願っています。

 

■ 皆さんの声を聞かせて下さい

付き添い入院の問題は、今に始まったことではありません。病気の子どもの親たちはずっと前から過酷な付き添いに耐えてきたのだと、子育てをする立場になって初めて気付きました。

なぜ、この問題は長年見過ごされてきたのでしょうか。

私は原因の一つに認知度の低さがあると思います。先にご紹介した共同通信の全国病院アンケートの回答では「付き添うのはお母さんばかりで、お父さんの協力が得られていない」という指摘がありました。

共同通信が実施した全国病院アンケートで寄せられた指摘

育休を取得する人は男性でも増えてきていますが、付き添い入院はまだまだ浸透していないように感じます。性別を問わず、子どもがいる人にも、いない人にも、この問題を知ってほしい。そのためには保護者の声や制度の問題点をしっかり報道することが必要だと考え、取材をしています。

共同通信だけではありません。過去にはハフポストや日経新聞、北海道新聞などからも、以下のような記事が配信されています。

私自身は昨年6月以降、付き添い入院の問題について度々記事を書いてきました。新聞の一面に掲載されたこともあれば、ネットで広く拡散されたこともあります。

それでも社会全体にはなかなか問題意識が広まらず、国も積極的には動いてくれませんでした。最近は他のメディアでもほとんど取り上げられなくなっています。取材者としては悔しいし、とても残念です。

今この瞬間も、狭い病室で、子どもに付きっきりの看護をしている保護者がいます。「子どもの病状は良くなるのか」「いつ退院できるのか」。不安に押しつぶされそうになりながら、睡眠不足や疲れと戦いながら、一日一日を過ごしています。

そんな過酷な状況を少しでも改善したい。付き添えない事情がある場合には、無理をしなくても済むようにしたい。仕事を辞めなくても、自宅の家族とずっと離れ離れにならなくても、看病ができるようにしたい。

一人の経験者として、また記者として、そんな思いで記事を書いています。

これからも報道を続けるために、ぜひ皆さんの体験談や困っていること、ご意見などをお寄せください。

付き添い入院の体験談・ご意見をお寄せください
※2024年1月18日をもって一旦閉鎖させていだきます。
貴重な体験談をどうもありがとうございました!

禹 誠美(う・そんみ)  1987年生まれ、栃木県出身の在日韓国人3世。2013年に入社し、本社社会部、高松支局を経て大阪社会部で遊軍。最近の趣味は和食器収集。家事の時短術に関心があります。

禹記者が書いた付き添い入院などの記事はコチラ↓


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