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国内外で誤った事実が報道された離婚事件について

 以前にも紹介した、国内外で誤った事実が報道された離婚事件について、2023年4月14日、東京高等裁判所は、第1審と同様に、親権者を母として、夫婦の離婚を認める判決を下した。

【第1審に関する記事】令和4年7月7日東京家裁離婚訴訟判決について https://note.com/kyodo_shinpai/n/n634d7742c695

 この事件は、私人の離婚事件であるが、共同親権を推進したい勢力によって利用され、フランス人夫が、日本人妻に対して、「子どもを誘拐した母である」、「子どもに対する虐待をしていた」と激しく非難し、自らのことを、生活費を支払わされ、子どもにも会わせてもらえない被害者であるとアピールし、夫の主張どおりの内容で国内外で大々的に報道され、それが真実であるかのようにSNSで拡散されてきた。

 昨年夏、東京家庭裁判所において、第1審の判決が下された後も、日本人妻に対する誹謗中傷はあとをたたず、昨年12月、妻側は、特に悪質な三者を被告として、名誉毀損とプライバシー侵害を理由とする損害賠償請求事件を提起するとともに、一方的な報道をやめるべきであると主張して記者会見を行った。
 https://www.youtube.com/watch?v=C-6eSKFryi4&t=2647s

 今回、東京高等裁判所により下された離婚判決は、妻側の求めた慰謝料請求こそ認められなかったものの、事実認定は母親側の主張にそったものであった。父親の一方的な主張に基づく報道はされなくなっているが、すでに誤った報道がなされているため、SNSでの誹謗中傷が続いている。この状態で、これ以上、沈黙を続けることはできないと判断し、日本人妻の名誉を回復するために必要な最低限の事項について報告する。

1 虐待の事実がないこと

  フランス人夫は、日本人妻について、「別居直後に長女を車のトランクに乗せたまま、一定時間放置し、車で立ち去ったことがあり、子らを保育園に預けっぱなしにするなど、母親の現在の監護体制に問題がある」と主張していた。
 しかし、高裁判決は、動画が撮影されたのは別居した日とは別の日であることを前提に、「長女が車内で嘔吐し、車に装着したいたチャイルドシートが汚れたため、自宅ガレージ内で、長女の着替え等をするとともにチャイルドシートを交換し、汚れた衣類等を本件自宅内の洗濯機に投入するために短時間車を離れたもの」と認定し、母親による虐待を明確に否定した。
 この動画は別居日に撮影されたものでないにもかかわらず、父親サイドが、この動画を「連れ去り」の動画であるとして拡散したため、国内外で深刻な報道被害を引き起こしている。母親が、「幼い子どもをトランクに入れて連れ去った」という事実は存在していない。
 なお、「保育園その他の関係者の協力を得ながら子らを監護養育することが、直ちに子らの利益に反することもできない」という認定もされたが、後述のとおり、父親は婚姻費用を支払っておらず、母子家庭状態で生活するために、母親が子どもを保育園に預けることに問題があるはずがない。そもそも、夫側がこのような主張をすることが非常識であろう。

2 子連れ別居に違法性がないこと

  父親は、母親の子連れ別居を「連れ去り」であって違法であると主張していたが、これも明確に否定された。
  高裁判決は、「控訴人(夫)と被控訴人(妻)とは、同居期間中、双方の考え方の相違や生活の不一致から、互いに相手方に対する不満や苛立ちを募らせ、日常的に口論するようになり、平成30年6月24日午前中には激しい口論をするなどして、控訴人が同年7月25日、被控訴人に対し、離婚について弁護士に依頼した旨を告げるに及んで、ついには婚姻関係が破綻して別居に至ったものと認められる」、「従前から子らを主として監護してきた被控訴人が、控訴人に告げることなく子らを連れて本件自宅を出て別居したこと」を違法と断ずることはできないとし、「子の最善の利益という観点から諸般の事情を総合考慮して親権の帰属を判断すべき」とした。
 また、子どもの権利条約9条1項についても、「父母の別居及び子の連れ去りに至る経緯、態様、その後の監護状況等を捨象して、他方の親の同意なく子を連れて別居することを一律に違法とすることまで求めているとは解されない」と解釈し、母の親権者としての適格性を認めた。
 なお、本件に関しては、外国からの連れ去り案件であるかのような報道がなされ、ハーグ条約違反にあたるという誤解を招く報道や発信が繰り返されてきたが、高裁判決は、本件は「日本を常居所地とする離婚紛争であって、日本法が適用され、国際的な子の奪取に関するハーグ条約が適用される事案でない」として、きっぱりとこれを否定している。

3 面会交流に対する姿勢について

 父親は、母親が面会交流に応じないと主張したが、これについても親権者としての適格性が否定されるものではないと断じた。
 「証拠によれば、控訴人は、児童相談所の児童福祉司に対し、子らをフランスで監護する意向があることを示したことがあり、被控訴人としては、子らをフランスに連れ去られるのではないかと危惧していること(注:そのようなことは、むしろ父親側のハーグ条約違反であるということにご留意いただきたい。)、控訴人は、マスコミやインターネットを通じて、子らの実名や写真を公開して子らが誘拐されたといった主張を拡散しており、被控訴人としては、それらの情報が悪用されるのではないかと懸念していることが認められ、控訴人が面会交流調停の申立てをするなど、面会交流の実現に向けて法的措置を講じない状況の下では、被控訴人が控訴人と子らとの面会交流に応じていないことをもって、被控訴人の親権者としての適格性が否定されることはできない」と認定した。

4 DVに基づく慰謝料請求が認容されなかった理由

 本件において、妻側が主張したDVに基づく慰謝料請求は認容されなかったが、同居中のDVについては、証拠として不十分であるとされ、別居後の問題行動については、婚姻関係破綻後の事情として、離婚慰謝料の発生原因とはならないとされた。「DVがなかった」という認定がされたわけではない。
 特に「別居後の問題行為」としてあげられた、「離婚を拒否しておきながら、本件不動産の控訴人持分(夫の持分)のみを売却した行為」「婚姻費用の支払いを命じる審判を受けながらもその支払いに応じない行為」「給料債権の差押えを受けるとまもなく勤務先を退職して執行を妨害した行為」「裁判中に、裁判外でマスコミを利用して被控訴人を従わせようとした行為」について、別居時に夫婦関係が破綻しているため慰謝料の対象とならないとすれば、被害者が、これらの被害の救済を受けようとすれば、離婚訴訟とは別の民事裁判を抱えることになってしまう。
 本件では、婚姻費用が不払いであったのみでなく、退職と不動産の持分売却により、差し押さえる財産も隠されていた。以下は、認定事実からの抜粋である。「本件不動産の控訴人(夫)持分の売却価格は、持分のみの売却であって、売却後も控訴人(夫)が居住するという特殊なものであったから、公正な取引価格とはいえず、低廉なものになっている」「控訴人(夫)は、財産を隠匿しており、上記(不動産の)代償金の支払に応じる可能性は極めて低いから、引換給付を命じるべきである」「控訴人(夫)の口座から引き出した2400万円は、弁護士費用や探偵調査費用に費消されている」「控訴人(夫)は、婚姻費用分担審判事件の審理終結後に、控訴人持分のみを売却しつつ、1年以上居住を継続していたことが認められ、低廉な売却価格に甘んじながら本件不動産の売却を急いだことは不可解というほかない」
 しかし、SNSでは、あたかも、日本人妻が高額な婚姻費用を得ているかのような情報が拡散されてきた。これを、加害といわずして何と言えば良いのか。これは、一般人の離婚事件である。夫からの生活費もなく、自ら働いて子どもを育ててきた母親が、そのような誹謗中傷を受けながらも、沈黙を守ってきたのは、紛争解決の場として、法的手続を重視していたからである。
 こうした行為は、海外では、Post-Separation Abuse と言われている。別居後の嫌がらせが、離婚訴訟において、婚姻破綻後の事情として切り捨てられ、何らの評価もされないという問題については、今後の司法の課題であろう。

5 おわりに
  この事件では、日本人妻に対して、フランスで逮捕状が出ているというが、フランスでは、子を連れた別居を認めない代わりに裁判所が直ちに介入して別居方法を決めており、制度の違いを無視して日本人妻を誘拐犯と決めつけ、逮捕状を出しているとすれば、人権侵害も甚だしい。
 なお、国際指名手配をされているという情報が拡散されているが、国際指名手配をされているという事実は存在しない。何から何まで、これでもかというほど、嘘にまみれた名誉を毀損する事実があふれかえっているのだ。
 夫の一方的な主張のみを根拠に、マスコミが報道し、共同親権を進めたいがために、本件離婚事件を利用し、フランス人夫に肩入れした政治家が何人もいた。事実は以上のとおりであり、二次加害の責任は重い。
                              以上

 

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