評⑫さいたまゴールド・シアター最終公演千秋楽、太田省吾『水の駅』4500円その1
2021年12月だけで唐十郎、寺山修司、別役実、鈴木忠志ときて、今年最後は、
故蜷川幸雄が立ち上げた高齢者演劇集団「さいたまゴールド・シアター」最終公演。かつ千秋楽。太田省吾の沈黙劇『水の駅』(演出:杉原邦生)。全席指定4500円。
この最終公演を持って、劇団の幕を閉じる。
太田省吾、2007年に67歳で死去。演出の杉原は、2000年から京都造形芸術大学(現京都芸術大学)で教えていた太田のもとで学んだ、師弟関係。
蜷川幸雄が2006年創設、55歳以上「プロ劇団」の終幕
「さいたまゴールド・シアター」は蜷川幸雄(2016年5月、80歳で死去)が55歳以上限定で募集し、2006年4月に創設した「プロ劇団」。当時、メディアでかなり話題になり、応募者も多かったと聞く。
パンフにあった。2006月2月団員募集、1266人が応募。3月オーディション、1011人が受験。4月設立記者会見、48人で発足、47人で始動。
パンフによると、この日演じたのは18人(94~71歳、うち男4人)、その他メンバー15人(96~71歳、うち名前から類推する男4人)、計33人(96~71人、男8、女25人)。15年間で14人減。このうちには死去された方もいるだろう。後で書くが、公演後のカーテンコールでは、多くの額縁に入った、おそらく今回の舞台に出られなかったメンバーの写真が、各人の手にあった。一緒に、ラストコールを、という思いだったと見られる。
さて、この、「プロ劇団」かどうかについては、ある“プロ”批評人(かな?)が自明のように「いつも自分が観ているプロとは違う」と言っていたので、一応さて置く(その人の頭の中で“プロ”がどう規定されているかは不明)。さいたまゴールド・シアターは、週5回稽古で「プロを目指す」劇団であったことは間違いないだろう。
比較軸が必要なので、プロと比較するためにも、直前に観た鈴木忠志の「SCOT」は客観的に見てプロの範疇にあるものと自分の中で規定しておいた。身体性は一番比較しやすい。今回、無言劇なので滑舌、発声は比較できない。
演劇のプロについて一考
また、この観劇の前に、SCOT鑑賞を通し、演劇のプロについて以下、ある程度頭でまとめていた(素人の私見)。
1. 演劇のプロかどうかは「集団」で判断される。プロ劇団、プロ集団という判断はある程度可能だが、そこに参加しているメンバー全てがプロとは言い切れない。特にその集団に参加して間もない「若手」は発展途上であろうし、その集団に10年以上いても上達しないが「先輩」として扱われ、プロと自称する人もいるだろう(=会社に似ている)。
まれに、「天才型」と称される人の場合は別かも。かなり若いうちから個人で「プロ」としてできている人もあるかもしれない(ただ、3.でいう「付随事項」は年齢を経て身に着くだろう)。
また、大勢が出る芝居の場合、主役級はもちろんだが、アンサンブル(その他大勢)の息が合った芝居(特に身体の動き、キレ)が都度都度提示できていると、「こなれた、いい芝居、プロの芝居だ」と感じることが多々ある。
一人芝居は別に考えるとして(なので、一人芝居こそ、個人でプロとアマの差が明確に出るのかもしれない、アマの一人芝居はあまり知らないが)、やはり集団、全体で判断するものと思う。
2. その「プロ集団」「プロ劇団」と判断されたとしても、演劇はその時その時の一過性の性質を持つ芸術であるので、その日その時に演じられた作品が「プロ」と判断されるものでなければ、「プロ劇団が、今日はプロの仕事をしなかった」と言われてしかるべき。
3. 1.は主に「技量」「客が呼べ、売れているかどうか(劇団員が食えるか)」、2.は「技量」に関するものであり、人脈やプロ意識・心構えと言ったものは付随事項として求められる。
4. 1.2.とは別に、個人で真実「演劇で食えている」ならば、技量の上手い下手は別にしてプロと呼んで差し支えない。つまり、上手い下手はプロかどうかとはイコールではなく、プロだから上手いとは限らない。「三流のプロ」「一流のアマ」は世の中に現に存在する。
※追加5. 「レッスンプロ」は「レッスンプロ」として存在する。しかし、発声やダンス以外で、どこまで演劇を「教えられるか」は不明
※追加6. 1.に反するようだが恐縮だが、その人個人の名前で客が呼べ、興行が成り立つなら個人でもプロだろう。もはや、その人の名前に、周囲の演者やスタッフ等多くの人の生活がかかっているレベル。それが上手いかどうかは別だが。
上記1.で、どんな分野でも言われる「10年やって初めて一人前(の入口)」をもとに考えた場合、さいたまゴールド・シアターは2006年4月の結成から15年経過し、その間、新規メンバーの追加募集はないはずなので、「10年」∔「5年」の修業を積んでいる。稽古は週五回だそうだ。となると、「プロになっている」可能性は否定できない。
寒い日、与野本町駅からとぼとぼ歩く
JR埼京線与野本町駅からさいたま彩の国劇場までは公称徒歩7分だが、もっと長く感じる。特にこの時期は寒い。住宅地以外に何もなく、とぼとぼ身をすぼめて歩く。自分は何度かここに来てこの状況を知っているし、さらに、同じように劇場を目指してとぼとぼ歩く人たちが周囲にパラパラいるので、精神的にはやや楽だ。
……ここまでで長くなったので、その1はここで終わる。その2は、年越えるかもしれないが。。
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