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【読書感想文】 ゴールデンスランバー

夏ってなんだか太陽も眩しくて、海もキラキラしていて、暑いのに外に出たくなっちゃいますよね。GoToもあってか、この夏はたくさん旅行してしまいました。コロナのことを考えて人混みを避け、ドライブやキャンプといった選択肢をとりましたが、たくさん自然と触れ合えて良かったです。夏のワクワクに負けてしまって、まったく本を読まずに過ごしてしまいました。すベては夏のせいですね(他責)。

今回は伊坂幸太郎著作『ゴールデンスランバー』の感想文です。本作は本屋大賞を受賞し、伊坂幸太郎の中でも代表作と言えるでしょう。すでに映画化もされていて、堺雅人さんと香川照之さんが敵コンビで出演されています。先日最終話で大盛り上がりした日曜ドラマ『半沢直樹』を彷彿とさせますね。お二人ともまだ若く、新鮮味があって良い作品です。まだ見ていない方は是非。

ざっくりあらすじ

主人公青柳雅春は、突然首相を暗殺した犯人として濡れ衣を着させられ、警察、そして世間から追われることとなる。逃亡中に、青柳は過去に出会った様々な人たちー大学時代を共に過ごした友人森田森吾、元ガールフレンドの樋口晴子、ドライバー仲間の前園ーなどと出会い、すれ違い、そして手助けしてもらう。身に覚えのない罪を着させられ、なぜ自分が追われることになったのか。青柳は逃亡しながら、国家レベルの陰謀、そしてその闇深い真相へと迫る。

※想像通りだと思いますが、堺雅人さんが逃げる主人公役、香川照之さんが追いかける警察役です。

国家の無責任さ、暴力について

伊坂幸太郎の作品には、国家や政府などの大きな勢力に対する抵抗、批判が大きなテーマとして取り上げられているように思います。この『ゴールデンスランバー』では特に色濃く、政治家の無責任さ、そしてその暴力性を描写しています。

「あのさ、政治家とか偉い人ってさ、一般人には大事なことを説明しないで、水面下で着々といろいろ進めているんだから、気をつけたほうがいいよ、田中君」ー入院中の少年

この台詞は、舞台である仙台のあらゆる場所に設置された監視カメラならぬ「セキュリティポッド」の存在を示唆しています。元は通り魔事件の犯人逮捕のために導入されたのですが、すべての国民の情報が警察に伝わる仕組みになっています。ITを駆使した情報監視社会ですね。そんなセキュリティポッドですが、本当に通り魔事件解決のためだけに設置されたか、首を傾げたくなる場面がいくつもあります。現に、私たちの現社会でも、TikTokを巡るサービス停止の動きや、菅首相によるデジタル庁の設置など、「情報」を巡る議論はあとを絶ちません。そんな切っても切れない関係にあるIT、そして情報の管理を、私たちは今の政府に委ねてもいいのか。

もう1つ、三浦という少年の台詞。

「思えば俺たちってさ、ぼうっとしている間に、法律を作られて、税金だとか医療の制度を変えられて、そのうちどこかと戦争よ、って流れになっていても反抗ができないようになっているじゃないですか。...俺たちみたいな奴がぼうっとしている間にさ、勝手に色々進んでいるんだ。...国家ってさ、国民を守るための機関じゃないんだ」ー三浦

この台詞、もう本筋ぜんぶ言っちゃってる感あります(笑)。

この彼の台詞は、まさに逃亡している青柳の状態を示唆しています。日常を平凡に過ごしていた青柳ですが、突然暗殺者の濡れ衣を着させられ、しかも過去を振り返ってみると政府が裏でコツコツと準備していた形跡がある。そして事態に気付いた時には、もう手遅れで逃げることしかできない。この青柳の逃亡劇と、三浦の台詞は、私たちを取り囲む国家権力の恐ろしさを示唆しています。つまり、私たちが政治に無関心のまま悠々自適に暮らしていると、政府の目論みに気づかず、表立った時にはすでに手遅れになっているかもしれない。青柳のように、今まで何も不自由なく日々を過ごしていたのに、ある日の出来事をきっかけに、突然国家権力の恐ろしさを身を持って知り、自分たちの不自由な生活を知ることになるのかもしれない。日本メディアの記者クラブによる偏った報道、トランプ大統領による右翼扇動、核兵器の保有、森友・加計学園問題、、、政府による扇動行為、挙げ始めたらキリがないですね。政府、国家は私たちを裏で扇動している。批判的な見方ですが、平和ボケするより政府の動きに注視するのはいい考え方かもしれません。

世間を動かす「イメージ」の怖さ

「イメージというのはそういうものだろう。大した根拠もないのに、人はイメージを持つ。イメージで世の中は動く。味の変わらないレストランが急に繁盛するのは、イメージがよくなったからだ」ー佐々木

政府が私たちに植え付ける「イメージ」ほど効率的で、怖いものはありません。そのパイプ役となっているのがメディアや報道機関なのですが、日本は世界の中でも報道内容の信憑性が低く、政府による介入が多いと批判されているほどです。そんな「イメージ」の怖さですが、本作では警察と政府が一体となって、一般市民である青柳を堂々と首相の暗殺者としての「イメージ」を作り上げています。メディアもこぞって青柳の悪いイメージを植え付けるために連日報道するのですが、政府は青柳の顔に整形させて偽物を用意するほど、怖いくらい用意周到です(恐ろしい)。そんな茶番劇に、世間はテレビを通じて騙され、青柳が犯人だと信じ切るのです。メディアに対しても、懐疑的にならなければ私たちは政府、そしてメディアの思惑にまんまと騙されてしまうのです。

繰り返される森田の「格言」

最後に。青柳は小説の中で終始逃げ回るのですが、その中で彼を何度も励ましたのが友人である森田の言葉です。

「人間の最大の武器は、信頼と習慣だ」ー森田
「逃げろよ。無様な姿を晒してもいいから、とにかく逃げて、生きろ。人間、生きてなんぼだ」ー森田

この台詞は小説の中でも繰り返して登場するので、青柳にとっても、そして小説の中でも、大事な示唆を含んでいるといえるでしょう。この台詞は、敵である「国家、政府、警察」に反抗する内容なのですが、その組織との一番の相違点は「人間的なあたたかみがある」という点です。「信頼」というのは、青柳の逃亡を助ける彼の古き友人たちであり、また「習慣」は彼自身が誠実に生きてきた姿勢そのものを表します。彼はこの「信頼と習慣」を持つからこそ、世間という大きな組織から狙われても逃げ続けることができたのです。これは対抗する国家の冷たい権力、そして人間味のない決断に対抗し、人間のあたたかみを忘れたくない、伊坂幸太郎さんご自身の考えが反映されているのかな、と感じました。

最後に

政府、国家批判はどの時代でも存在しますが、今年はコロナの状況により特に政府の判断、動きにより国民が耳を傾けるようになった気がします。これはいい動きで、短期的にこの姿勢がなくなってしまうのではなく、今後も政府により関心を傾け、必要であれば声をあげる世の中になってほしいなと感じました。今の時代だからこそ、いろんな人の心に響く内容になっていると思います。是非、秋の読書リストに入れてみてください。

ちなみに本記事、夜中に2時間くらいでガッと書いたので内容に自信がないです。誤字などあればすみません。あとで見かえそう。

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