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5年後に退職する新卒サラリーマン【第三章】 (20)

第一章 <激動の就活編> は、こちらから
第二章 <戸惑いの新入社員研修編> は、こちらから


「私、来週で、会社辞めることになりました」


そう言ったのは、川端さんだった。


「・・・え??」


この広島支店で働く契約社員の一人で、私より3つくらい年上の、20代後半。

お客様に対する敬語がおかしい、ちょこちょこ常識的におかしな行動をとってしまうなど、なかなかのポンコツで、あまり仕事はできない。

しかし、他の契約社員の里中さんや木村さんみたいにモンスター社員というほどではない


里中さんは、「犬の散歩があって」と言って、週に2回か3回は遅刻してくるし、お金が無さ過ぎて、飼い犬と一緒にドッグフードを夕飯に食べているという文字通りのモンスターである。

木村さんにいたっては、そもそも、過去2週間で3日くらいしか出勤していない。ほぼ毎日「体調がすぐれなくて…」と言って病欠だが、他の社員の話によると、普通に外で遊んでいたり、買い物をしていたりする姿が目撃されている。42歳にして、会社を「仮病」でサボりまくっているのだ。


その人たちと比べれば、まだ、川端さんは普通の社員だった。


すらりとした長身、切れ長の目、金髪の長い髪。

ややキツイ見た目をしているが、性格は割と大人しい。このモンスター揃いの職場のメンバーの中では、まだかなり付きやすいタイプだ。


その川端さんが… 退職……??


会社では、まともな人から辞めていく。

優秀な人であればあるほど、一つの職場に「執着」が無いのだろう。



契約社員の中で唯一バリバリ仕事ができた佐野さんも、「もうやっとられんわ」と言って、先月辞めてしまった。

あのモンスターたちは、全く辞める気配がないというのに。



まずい。

まずい…… 川端さんにまで辞められたら、チームが崩壊してしまう。



「川端さん、あの…… そんな、辞めるだなんて! 店舗づくりも、営業の仕事も、あんなに頑張っていたじゃないですか!? もう少し続けては、いただけないんですか??」


「安斎さん… あんね、『頑張ってた』とか、そういうんじゃないんよ。私は、他に『はけ口』があっただけじゃけ。そんなに、立派な人間じゃないけんね」


私には、川端さんが何を言っているのか、分からなかった。

安斎は、知らなかったのだ。
彼女の「正体」を。




「あの!! 川端さん……!!」


私は、夕方の帰り際、また川端さんに声をかけた。

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