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No.45 - "辛かったら逃げてもいい" というアドバイスを聞いてはいけない。入社2カ月で転職を決意した新入社員の末路


こんにちは、安斎響市です。

最近、書店の自己啓発コーナーに行くと、「辛かったら逃げてもいい」「自分に合わない場所からは早く逃げよう」という趣旨の本が多く目につきます。
何かとストレスの多い現代社会において、「逃げてもいいんだ」「逃げるのは悪いことではないんだ」というメッセージは、きっとたくさんの人の心に響くのでしょう。

私は、過去4回の転職で多くのことを学び、たくさんの失敗も味わいました。その過程で感じたのが、ネットや書籍を通じて入手できる転職活動の情報は、どれもこれも転職エージェントや人事部など「採用側」「人材業界側」目線のものばかりで、「求職者側」目線でのリアルな情報がほとんど得られない、ということでした。

そこで、少しでも自分と同じ悩みを持つ人の力になれればと、数年前から自分の経験談をTwitter (@AnzaiKyo1)で発信するようになり、転職関連の本も複数出版しました。過去には1,000人以上のキャリア相談に答え、noteで転職ノウハウのコラム連載もしています。


「逃げてもいい」というアドバイスの落とし穴


そして、私のもとに日々寄せられる「キャリアの悩み」の中には、

  • 「新卒1年目だけど、もう辞めたいです」

  • 「入社してまだ3カ月ですが、退職を真剣に考えています」

といった、新卒入社直後の早期離職に関するものが、驚くほど多いことに気が付きました。

これらの質問に対して、「自分に合わない会社ならすぐに辞めればいい」「ブラック企業からはさっさと逃げよう」と答えるのは簡単です。
実際に、このような「逃げてもいい」という趣旨のアドバイスは、ネットやSNSには散見されます。

しかし、一度立ち止まって考えてみてください。

「逃げる」ためには、「逃げ道」が必要です。

仮に、今働いている会社の環境が自分に合わないと思ったとしても、転職先の会社がもっと自分に合わない会社だったとしたら、逃げた意味がありません。もし、転職活動をしても内定が1社も出なかったら、逃げる場所さえありません。
ただ闇雲に逃げ出すのではなく、きちんと「逃げ道」を確保しないと、本当の意味で逃げきれたことにはなりません。


新卒1年目の転職、その理由は…?


厚生労働省が発表している『新規大卒就業者の離職状況』(2020年度調査)によれば、新卒3年以内(大卒)の離職率は約3割(31.2%)で、新卒入社後1年以内に退職した人も1割を超えています(同11.6%)。新卒1~3年目の早期離職は、それほど珍しいものではありません。

例えば、入社した会社があまりにもブラックな環境で、激務で体調を崩しそうになる場合や、パワハラで精神を病んでしまう場合は、とにかく「逃げる」ことも選択肢の一つになり得ます。
しかし、新卒入社したばかりの若手社員が早期離職に至る理由は、実は、ブラックな環境、パワハラといった「やむを得ない事情」だけではないようです。


株式会社ビズヒッツが2021年に実施した、「新卒1年以内で転職した経験がある人」381人に対するアンケート調査によれば、転職した理由の上位は、

  • 「人間関係が悪い」

  • 「長時間労働・休日への不満」

となっているものの、それに続いて、

  • 「仕事内容が合わない」

  • 「求人内容と現実がちがう」

  • 「他の仕事がしたい」

といった、職場環境ではなく業務内容に対する不満が多く挙げられています。

事実として、「新卒1年目で辞めた人」全体の半数近くが、職場環境が過酷だからというより、より満足できる仕事を求めて、転職をしています。

私のTwitterに日々寄せられる「若手社員のキャリアの悩み」も、実は大部分が、職場環境というより、「仕事の中で成長を感じられない」「この仕事に何の意味があるのか分からない」といった、成長・やりがいに関するものです。その中には、「職場の人間関係はとても良好で、ホワイトな環境ではあるけれど、仕事がつまらないので辞めたい」といった極端な内容も含まれます。


「成長」や「やりがい」を求めての早期離職は、命取りになりかねない


しかしながら、新卒1~3年目での「より良い仕事内容」を求めての早期離職は、あまり良い結果にならない場合が多いです。たいてい、自分の長期的なキャリアにとってプラスには働きません。

もし、新卒入社した会社が度を越えてブラックな場合は、辞めても仕方がないかもしれませんが、そうではなく「今の仕事を続けることは可能だが、成長や働きがいを求めて転職する」というのは、どんなに早くても、新卒入社3年間は控えておいた方が身のためです。

なぜかと言えば、転職活動の際、中途採用の条件には、ほとんどの場合、「○○業界の経験5年以上」「○○職種の経験3年以上」といった明確な業務経験が含まれるからです。

新卒3年以内の、ほとんど何の経験も積んでいない状態で転職をしようとしても、現実的に転職先は見つかりません。
仮に見つかったとしても、薄給のブラック企業など、「訳アリ」の職場であることが多いです。新卒3年以内で、待遇も環境も良い理想的な転職先を見つけるのは、相当に困難なことです。


入社2か月で大手鉄道会社退職を決意、「成長」を求めた新入社員の末路


22歳男性、昨年春に大手鉄道会社に新卒入社したAさんは、入社からたった2か月で退職届を出しました。

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