シャネルじゃなきゃ、彼女じゃなきゃダメなんだ
シャネルで用事を済ましていたら、ソファの奥に男性客が待っていた。一人きりで手持ち無沙汰のようだった。
やがてきれいにラッピングされた小箱を持って店員さんが戻ってくると、彼は感激したようにそれを受け取り
「待って、写真を撮るから。インスタグラム用に」
と、スマホを取り出した。
白と黒のリボンでラッピングされた箱の中身は、香水だろうか、ジュエリーだろうか。
「ごめんね田舎者で。長崎から来たんですよ、長崎にないんですよ、シャネル」
男性は嬉しそうにスマホをおさめると、そのギフトボックスを店員さんに返した。店員さんは笑顔で、それを紙袋にそっと入れる。
「どうぞ、お出口までお持ちいたします」
丁寧に促されると
「いいですね! いいですねシャネル!」
男性は散歩中の子犬みたいにはしゃいだ。
近くでその一部始終を見ていた私は、ただだだ眩しい、と思った。
羨ましかった。
なんて素敵なお買い物だろう。
彼はこの「特別な贈り物」をいったいどんな女性に渡すのか。
長崎から東京まで、シャネルを求めて何千里。
ようやく手に入れたそのギフトは、きっと明日を特別なものにするに違いない。
明日はバレンタイン。
みんなの気持ちが大切な人に伝わりますように。
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