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インスタグラムから羽ばたいた、サラリーマン陶芸家 陶芸家・井上茂インタビュー vol.1

若い女性たちの姿で賑わう、週末の東京・吉祥寺。洗練された品揃えで知られるセレクトショップ「kahahori(カハホリ)」の前には、朝から人だかりができていた。その日は、ある作家の作品展初日。彼らが求めているのは、プリミティブな魅力あふれる井上茂の陶芸だ。

力強さや風合いのある井上の器は、手に取りやすい価格帯もまた魅力的。毎日使えるような日常の器を目指しているということもあり、「値段もそんな高くはつけないようにしている」とは本人の弁だ。「出したらすぐに売り切れてしまう」とショップオーナーも驚く、人気陶芸家に話を聞いた。

>インスタで話題の「サラリーマン陶芸家」

僕はまだ本業としてやって3年。それまではずっとサラリーマンやりながら、独学でやっていました。知らないうちにこんな商売になっちゃって(笑)普通、陶芸家になりたい人は美術大学に行ったり、どっかに修行に行ったりして活動しているんですよね。僕は趣味だったから、好き勝手なことをやっていました。サラリーマンだったからこそ、自由だったんです。

あるとき、会社員をやりながら名古屋で個展をやったら、人がどーっと来て、ほとんど(作品が)なくなって。内緒だったのに、上の人にも全部バレてしまって「どっちを取るんだ」っていう話になっちゃったんですよね。会社に勤めながら作るのが限界にきていたし、辞めざるをえなくなって。それで東京の方で活動するようになって、ここ1〜2年は個展をやっています。

インスタグラムなどでは、サラリーマン時代から「面白いことやっている」と、そこそこ知られていたみたいです。でもそれで独立して食っていけるなんて全然思っていなかったし、そんな甘い世界じゃないと思っていました。

>何が出てくるか分からないわくわく感

僕の器は土の味を出しているから「土もの系」って言われるんです。自分で土を掘ってきたり、原土を買ってきたりして、それを粘土にして作るという手法をとっています。粘土屋さんがゴミを抜いたりして加工したものは使いやすいんだけど、どうしても個性はなくなってしまいます。僕は調整をしないでそのまま(土を)溶かして粘土にするので、成形もしにくいですし、割れちゃったりもします。でも一つとして同じものがないですし、素材が不安定がゆえに面白いものができるんです。

天然な土には微量なものがいろんなふうに入っているので、複雑な色になるんですよね。釜から出した時の「えっ、こんなふうになっちゃうの?」っていう楽しさがあって、どんどん勉強しました。

>「表現しよう」とはまったく思わない

一連の作業は愛知の自宅で、焼くのは常滑(とこなめ)という有名な産地でやっています。土は常滑の土であったり、一部は淡路島や三河で採れる土を使っています。自然の素材を使って、彫ったり、釉薬(=器を製作する際、成形した器の表面にかける薬品)を使ったり。それが無骨なんだけど「料理を盛るとすごく映えるから」ということで、みなさん求めてくださっているのかな。

僕は「表現しよう」だとか、そういうことはまったく思っていません。職人さん的なものの考え方なんですよね、あくまでも基本は「道具」なので。器が綺麗とかいうことよりも、料理の色や素材が生きるような容器にしたいんです。

>作品に銘を入れない理由

今、器ブームとかもあって、どうしても作った人が脚光を浴びるんだけど、そこじゃないと僕は思っています。僕たちはあくまでもそれを作ったというだけのこと。作るの(にかかる時間)は半年とかだけど、その後に使う人は1年、2年、3年、4年…ってずっと使うわけじゃないですか。そっちの方が長いから、その人の器であってほしいと僕は思っていますね。

やっぱり土という自然のものを摂取して作るので、それに対する感謝や畏敬の念はすごく大事にしてます。器なんだけど、その中に自然のものが入っているので。花にしてもそうだと思うんだけど、命をいただいて、それを挿して、無駄にすることなく楽しむ。そこへの感謝は忘れちゃいけないと思います。自分が作ったんじゃなくて、地球が作ったものをちょっと加工しただけだから。

僕は銘(=製作者の名)を入れないんです。何も入れない。だって僕が作ったけど、買った人のものだから。その人の日常の中に溶け込んでいくようなものであってほしいと思っています。

〈インタビューVol.2に続く〉

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ライター、編集/フリーランス/東京在住/セントラル・セント・マーチンズ卒/ファッション業界をうろつく猫。twitter: @KirishimaKylie 安心は好きだけれど、退屈は嫌いなの。©Kylie Kirishima. All Rights Reserved.
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