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5ws+N 夢をあきらめない 第1話

あらすじ
大輔、翼、典子(13)が通う南アルプス市立青山中学校に、山村留学で慶喜、翔太、春樹が転校してきた。一学年6人は仲良く学校生活を送っていたが、典子が急性骨髄性白血病で倒れ、治療費を稼ぐために、男子5人は歌謡コンテストに出場し、優勝して賞金を獲得。その後、国民的人気アイドルグループとなる。
デビュー十年目、翔太が宇宙飛行士に挑戦するため辞めたいと言い出す。翔太に刺激を受けて他の4人も将来を考え、グループは解散、5人は各々の道を歩き始める。
解散後五年目、慶喜と付き合っていたモデルの死体が発見され、逃げた慶喜は廃校になった母校に隠れる。慶喜を探しに来た5人は台風の夜、音楽室で隠していた秘密を告白する。

登場人物
米倉大輔 ファイブウイングスリーダー 南アルプス市青山中学校出身
     解散後は典子と結婚して、村の雑貨屋の後継ぎになる
戸田翼 ファイブウイングスメンバー  南アルプス市青山中学校出身
     解散後は映像クリエーターとして独立
松本春樹 ファイブウイングスメンバー 名古屋出身の山村留学生
     元々はピアニストを目指していたが、
     解散後はシンガーソングライターとして活躍
本田慶喜(よしのぶ) ファイブウイングスメンバー 東京出身の山村留学生
     解散後は俳優ヨシキとして活躍  
浦上翔太 ファイブウイングスメンバー 東京出身の山村留学生
     解散後はJAXAの研究員に
山下典子 南アルプス市青山中学校出身 雑貨屋を営む祖母と二人暮らし
SAYAKA モデル 

第1話
〇東京都内の中学校・正面玄関口
T『東京都葛飾区の小学校』
ランドセルを背負った翔太(13)が、玄関前にある宇宙メダカの水槽を名残惜しそうに見ている。担任の先生と浦上和美(翔太の母親)が転校の挨拶をしている。
先生「山梨の中学校に行っても、翔太君なら元気にやっていけると思いますよ」
和美「ありがとうございます。ほら、翔太、先生にご挨拶をして」
翔太「先生、宇宙メダカ、あっちの学校にもいるかな?」
先生「さあ、どうだろう、でも、宇宙メダカは全国の小中学校に配布されたはずだから、いるかもしれないな」
翔太「そっか、いるといいな」
和美「翔太、先生にご挨拶して」
翔太「(敬礼しながら)先生、メダカ、よろしくお願いします」
先生が笑う。
和美「翔太ったら、もう。(頭を下げて)申し訳ありません」
翔太、玄関から元気に飛び出していく。

〇山梨県の山奥にある別荘・居間(朝)
春樹(14)がグランドピアノを弾いている。
松本静江(春樹の母)が居間に入ってきて、春樹に声をかける。
静江「春樹さん、車にいますからね」
春樹が曲を最後まで弾き終えてから、鞄を持って外に出て、静江が待つ車に乗り込む。

〇別荘地の中(朝)
林道を静江が運転する車が走り抜ける。イヤホンを付けてクラシック音楽を聴いている春樹が後部座席に座り、膝の上で両手指を動かしている。

〇山間の中学校(朝)
校門に『南アルプス市立青山中学校』の文字。
真新しい制服を着た山下典子(13)、米倉大輔(13)、戸田翼(13)のほか、十人ほどの中学生が校舎に向かって歩いている。
典子「どんな子かな? 楽しみ~」
大輔「そうだねー」
翼「東京からわざわざこんな山奥の中学校に来るんやろう。ロクな奴じゃないんじゃないか? とんでもない不良とか」
典子「え~~、そんな~~」

〇南アルプス青山中学校・体育館中
『第一回青山中学校・山村留学生入学式 平成十五年四月八日の横断幕。
大輔、翼、典子、春樹、慶喜、翔太ほか12名の中学生と磯部恒夫(校長)、丸田一郎(副校長)、杉山寛(1年担任)、村田洋子(養護教諭)、ほか4名の教師が整列している。
磯部「これより南アルプス市立青山中学校、第一回山村留学入学式を執り行います。東京から2名、名古屋から1名の全部で3人の山村留学生が入学して、わが青中の生徒は総勢18人となりました。皆さん、仲良くして勉学にスポーツに励んでください。と堅苦しい挨拶は抜きにして、早速教職員とわが校の生徒全員の自己紹介をしましょう。まず最初、私がこの中学校の校長の磯部恒夫です。音楽の授業を担当しています。趣味はオカリナ演奏です。では次、副校長(マイクを丸田に渡す)」
丸田「(マイクを受け取って)え~~、私が副校長の丸田一郎です。数学と理科を教えています。趣味は陶芸です。では、一年生の担任の杉山先生、お願いします」
杉山「みなさん、おはようございます。一年生の担任の杉山寛です。英語を教えています。出身は東京で、しばらくの間地球を放浪していましたが、現在はここ青山中学校に落ちつきました。六人仲良く楽しくがんばりましょう。ちなみに趣味は山登りと写真撮影です」

〇同・一年生の教室
前から典子、翼、大輔が座り、それぞれ交互に隣の席が空いている。
扉を開けて、杉山と春樹、慶喜、翔太が教室に入ってくる。
杉山「さっき自己紹介は済んだから、もういいな。松本は大輔の隣、三列目。本田は真ん中翼の隣。浦上は一番前の席について」
三人それぞれ指定された席に座る。
大輔の声「俺らの中学校は過疎対策のために、都会からの山村留学生を迎えることになり、その第一期生として春樹、慶喜、翔太の三人がやってきた」
教壇で話をしている杉山。

〇同・校内
大輔、翼、典子が春樹・慶喜・翔太を連れて学校の案内(トイレ、音楽室、理科室、天文台など)をしている。
大輔「ここが天文台」
翔太「わ~~、すげ~、中学校に天体望遠鏡があるんだ。これ、観れんの?」
翼「もちろん」
典子「毎月一回、星空観測会があるんよ」
翔太「え! 毎月? 今度はいつ?」
典子「丸田先生が天文部の顧問だから聞いてみて。うちの学校にはそのほかに、合唱部とフットサル部と園芸部があるんよ。掛け持ちで全部の部に入ってもいいんよ」
慶喜「俺、フットサル部に入ろうかな」
翔太「俺は天文部とフットサル部」
大輔「僕は合唱部と園芸部に入ってる。松本君、君、部活どうするの?」
春樹「ピアノの練習があるから、僕は」
典子「わ~~、素敵。だったら合唱部に入ったら」
春樹「ごめんなさい、それはちょっと・・・」
大輔の声「わざわざこんな山奥の中学校にくるのには何か訳があるはずだが、そんなことはどうでもいい。たったの6名しかいないのだから仲良く楽しくやっていってほしいと俺は思っていた」

〇同・校庭~校門
下校する六人。校門の先に静江の車が停まっている。
春樹「あ、僕、車で帰るから」
典子「じゃあ、また明日ね。私の家は村で唯一の雑貨屋なの。文房具やお菓子、何でも置いてあるから、買い物に来てね」
春樹が頷いてから、車の方へ行く。
典子が手を振る。
翼「わ~~、あいつ、毎日車で送り迎えしてもらうんか」
典子「家が崎森峠の方だって。一日三本しかバスがないから大変よね」

〇春樹の別荘・居間
無心にピアノの練習をしている春樹。
サイドボードの上には、ピアノコンクールの優勝の盾やメダルなどが飾ってある。

〇青山中学校・一年生の教室
杉山が英語の授業をしている。
大輔の声「春樹ははにかみ屋で口数は少ないけど、典子がフォローしてくれて新しい生活に慣れてきた。慶喜はゲームが好きで、翼と意気投合して楽しくやっている。翔太は宇宙オタクでお調子者、天文台のあるこの中学校をすぐに気に入ってくれた」

〇同・天文台(夜)
丸田、中学生たちと保護者の中で、望遠鏡を嬉しそうに覗いている翔太。
望遠鏡の中で、星がきらめいている。
翔太「わ~~、すっげ~、スピカが大きくきれいに見える」
典子「翔太君、星のこと、詳しいのね」
翔太「うん、宇宙のことなら何でも聞いてくれ。俺、大人になったら宇宙飛行士になるんだ」
翼「へ~~、そうなんだ、でも、宇宙飛行士ってすごく頭がよくないと慣れないんじゃないか」
翔太「そうだよ。それに体が丈夫でなきゃダメなんだ」

〇同・運動会
声援を送る観客(村人の老若男女六十名ほど)の中、翼と慶喜が百メートル走で一番を争っている。
慶喜の声「親父とお袋の離婚で、俺は親父に引き取られることになった。親父は西麻布の高級フレンチレストランのオーナーシェフで中学生になったばかりの俺の面倒を見られず、俺は選択の余地なく、山村留学という形式の全寮制の中学校に入れられた」

〇翼の部屋
PSPでゲームをしている翼と慶喜。
慶喜の声「ま、俺にとってみれば、離婚のごたごたや、ゲームにうるさかった母親から離れられてラッキーだったから、淋しくもなんともなかった」

〇翼の家・台所
翼の母は夕飯を作っている。フライパンにバターを溶かし、蜂の子を入れて軽く炒め、砂糖と醤油で甘辛く味付けする。
翼と慶喜が台所にやってくる。
慶喜「おいしそうな匂い」
翼「うん、これ、うんめーから。栄養もあるしな」
翼の母「慶喜ちゃん、蜂の子、食べたことある?」
慶喜「え? ハチノコ? もしかしてそれ・・・」
翼「さっき、親父がとってきてた、あれさ」
慶喜「え? まさか、蜂の幼虫?」
翼の母「うん、おいしいよ~~、味見してみる?」
慶喜が変な顔をして、台所から逃げ出す。
翼と母親がおかしそうに笑う。

〇雑貨屋の店内(典子の家)
山下久恵(74)が座って店番をしている。典子が学校から帰ってくる。
典子「ばあちゃん、ただいま」
久恵「おお、お帰り。ヤクルト、今日届いたから、大輔と翼、それから内田先生ちに届けてきてくれんかい」
典子「うん、いいよ! 冷蔵庫の中?」
典子が家に上がり、冷蔵庫を開けて、腰に手を当ててヤクルトを一気飲みする。ヤクルトを3パック、袋に入れて、
典子「じゃあ、配達に行ってくるね」
久恵「いつもありがとね、気を付けて行って来」

〇村の中
ヤクルトの配達に歩く典子
典子の声「きっかけは私だった」

〇青山中学校・音楽室
大輔、翼、典子、春樹、慶喜、翔太が磯部のタクトに合わせて「翼をください」を歌っている。
突然、典子がぐらりと倒れる。
大輔・翼「典子」
慶喜・春樹・翔太「山下さん」
磯部「みんな落ち着いて」
磯部がゆっくりと典子を抱き起すが、典子はぐったりとしている。
磯部「大輔、保健室に行って、担架を持ってくるように洋子先生に伝えて」
大輔「わかりました」
大輔が音楽室から走って出ていく。
     *     *     *
磯部と杉山が典子の乗った担架を運び、白衣を着た村田洋子が付き添っている。
洋子「念のため、救急車を呼びましたが、到着するまで三〇分くらいかかるそうです」
典子の声「急性骨髄性白血病だった。私の両親は私が五歳の時に事故で亡くなり、私は雑貨屋を営む祖母と二人で暮らしていた」

〇総合病院・外廊下
ドアの前で躊躇し、まごまごしている大輔、翼、春樹、慶喜、翔太の五人。

〇同・典子の病室
ベッドに寝ている典子。
典子の声「高額な治療費が必要になり、5人は百万円の賞金がもらえる歌謡コンテストに出場して、なんと見事に優勝してしまったのだ」

〇コンテスト会場
春樹が弾くピアノの伴奏に合わせて、大輔、翼、慶喜、翔太が歌っている。
歌が終わると、会場からは称賛の拍手が鳴りやまず、ほとんどの観客がステンディングオベーションしている。
      *      *      *
ほかの出場者たちと一緒に大輔、翼、慶喜、春樹、翔太がステージに並んでいる。
司会者「それでは、優勝者の発表です(ドラムロール)南アルプス市立青山中学三年の米倉君、戸田君、松本君、本田君、浦上君の五人グループです」
会場から拍手が沸き起こる。
手作りの横断幕『青中ファイブウイングス』を持っている磯部、丸田、杉山、村田ほか中学生達、村人や保護者たちが立ち上がって拍手し、手を取り合い、歓喜する。
5人がトロフィーと賞状、目録を審査委員長から受け取る。
司会者「おめでとうございます。それでは、病院でテレビを見てくれているお友達の山下典子さんにメッセージをどうぞ」
アシスタントが大輔にマイクを向けるが、翼が割り込む。
翼「(横から)典子、観てる? やったよ! 優勝したよ」

〇総合病院・典子の病室
典子と久恵がテレビを見ながら、笑っている。
典子「翼ったら、もう・・・」
典子の声「そのあと、5人はメジャーデビューし、三年後には紅白歌合戦に出場するほどのアイドルスターになってしまった」

〇典子の家・居間(夜)
箪笥の上に、トロフィーを中心に毛糸の帽子をかぶった典子が賞状と目録を持ち、周りを大輔、翼、春樹、慶喜、翔太が取り囲み笑っている写真(5Ws+Nのサイン)とお供え餅が飾られている。
典子(17)と久恵がこたつに入り、紅白歌合戦のテレビを観ている。テレビ画面の中でファイブウイングスの5人が歌って踊っている。
典子の声「それから毎年彼らは、私とおばあちゃんのために紅白歌合戦の観覧チケットを送ってくれていた」
        *     *     *
紅白歌合戦のラストシーン。
出演した歌手がステージにずらりと並んでいる。
司会「平成十九年NHK紅白歌合戦の優勝は白組となりました」
テレビの中のファイブイングスの5人が、まるで典子に向かってするように笑顔で手を振っている。
典子「また今年も白組が勝ったね! 良かった!!」
久恵「典子も、東京さ行けば良かったのに」
典子「うん、そうだね。来年はまた二人で行こうね」
久恵が苦しそうにせき込む。
典子が心配そうに久恵の背中を優しくさする。

〇テレビ局の控室
正月番組の収録中で、5人は羽織袴を着ている。
テキストを片手に勉強をしている翔太(18)に春樹(19)が声をかける。
春樹「(翔太の参考書を手に取って)翔太、何やってるの?」
翔太「放送大学の勉強。レポートの〆切が明日なんだよ」
春樹「え? 放送大学?」
大輔、翼、慶喜(18)も近くに寄ってきて
大輔「へ~~、場と時間空間の物理・・・」
翼「なんじゃこれ、超難しそうじゃん」
慶喜「翔太、物理なんてわかるの?」
翔太「わからないから勉強してんだよ」
翼「わ、すげ~~。でも、勉強なんて、そんなの、俺たちに必要?」
翔太「宇宙飛行士になるには、大学を卒業しなきゃいけないんだ」
大輔「大学って、お前・・・」
翼「翔太、まだそんなこと言ってるの?」
翔太「まだって、夢は実現させるまで、ずっと俺のここに(心臓の部分を拳で軽く叩いて)あるんだよ」
春樹「宇宙飛行士って滅茶苦茶狭き門なんだよ、何万人に一人しかなれないんだから」
翔太「それでも俺はその狭~い門を目指すのさ」
慶喜「お~~、頑張れ。応援するよ」
大輔「宇宙飛行士になったら、月の石、一つ俺に持って帰って来いよ」
翼「あ~~、俺も欲しい」
春樹「じゃあ、僕にも、よろしく」
翔太「オッケー、いいよ。任しとけ」
みんな楽しそうに笑う。
スタッフ「そろそろ、出番です。スタンバイをお願いします」
5人「は~い」「おいっす」「ラジャー」

〇典子の家(夜)
T『5年後』
店の入り口に「忌中」の張り紙が貼ってある。
久恵の遺体が店の奥の居間に敷いた布団に置かれ、枕元に典子(22)が一人ぽつんと座っている。
柱時計の針が11時を指し、ボーン、ボーンと11回鳴って時を告げる。

〇同・店の前(夜)
タクシーが停まり、大輔(23)が降りてきて、店の扉を開ける。

〇同・居間(夜)
典子が店の入り口の方を見る。
典子「大輔・・・」
大輔が居間に入ってくる。
大輔「ごめん、こんな時間になって」
典子「来てくれたんだ」
大輔「当たり前だろう」
典子「ほかのみんなは?」
大輔「みんな仕事がバラバラで、うまく連絡が取れなかったから、俺だけ来た」
大輔が久恵の枕元に坐り、焼香する。
典子「そうだよね、みんな忙しいよね」
大輔「ごめん。みんな元気出せよって」
典子「ありがとう。でもいつもテレビで観てるから、そんなに離れてるって感じがしないのよね」
大輔「こんな時に強がり言わなくてもいいよ」
大輔「(典子を抱き寄せて)泣いていいから。俺の前なら泣いていいんだよ」
典子が大輔にしがみついて泣く。
典子「(泣きながら)とうとう・・・、独りになっちゃったよ・・・」
大輔「結婚、しようか」
典子「え? ・・・結婚?」
大輔「いやか?」
典子「(首を左右に振って)嫌じゃないけど、そんなことできるの?」
大輔「うん、すぐには無理だと思うけど」
典子「いつでもいいよ、私、待ってる」
大輔「うん、ありがとう」
そっとキスをする大輔と典子。
大輔の声「抜け駆けをしているようで、俺は典子と付き合っていることをみんなに言えないでいた」
タクシーのクラクションが鳴る。
大輔「あ、ごめん。もう行かないと。明日朝の番組があるから」
典子「忙しいのに、ごめんね。ありがとう。あんまり無理しないでね」
大輔「なんかあったらいつでも電話して」
典子「うん、ありがとう」
大輔が居間から出ていく。
大輔「ここでいい、外は寒いから出なくていいよ。じゃあ行くね」
もう一度抱き合う二人。

〇日本武道館・コンサート会場T
『3年後 2016年1月』
大輔(25)、翼(24)、春樹(25)、慶喜(よしのぶ)(25)、翔太(25)がステージ上でリハーサルを行っている。軽快なダンスと歌。

〇同・控室
5人が汗を拭いたり、飲み物を飲んだり、譜面やVTRを見たりしている。春樹「最後のサビのワンコーラスで音程が微妙にずれる傾向があるから気を付けよう」
翔太「オッケー」
大輔「まったく、春樹の絶対音感はAIより正確だな」
慶喜「そうだな、頼りにしてま~す!」
翼「ダンスは俺が一番だけどな!」
    *     *     *
翔太「(割と大きな声で)あのさ~~~(大輔、翼、春樹、慶喜の視線が集まる)俺たち今年でデビュー十年目だよな」
慶喜「そうだよ、だから今、十周年記念全国ツアーの準備してるんじゃんか」
大輔「翔太のお得意のボケから始まる爆弾発言。で、今日は何?」
翔太「あのさ~、みんな忘れたの?」
大輔「何だよ、もったいぶらずに言えよ」
翔太「おれたち十年で解散する予定だっただろう」
大輔、翼、春樹、慶喜が顔を見合わせる。
大輔「あ~~、そういえば、そんなこと言ってたかな・・・」
翔太「だよね」
慶喜「解散って、ファイブウイングスをやめるってことだろう。もし売れなかった場合は、の話じゃなかったっけ?」
翼「そうだよ、十年頑張って売れない場合はそこできっちり区切りをつけようって」
翔太「みんな忘れてたんなら仕方ない。悪いけど、俺、抜けるから?」
翼「え!!」
慶喜「何言ってるんだよ」
大輔「翔太、悪い冗談言うの、やめろ」
翔太「ごめん、悪いけど、俺、ツアー終わったら辞める」
春樹「翔太、何か不満があるわけ?」
翔太「みんなとやるのはすごく楽しいし、不満とかそういうんじゃないんだ。俺、他にやりたいことがあるから、もうこれ以上は先延ばしにしたくないんだ」
翼「やりたいことって、なんだよ」
春樹「翔太、まさか・・・」
大輔「本気で宇宙飛行士になるつもり?」
翔太「そうだよ。今年の秋から八年ぶりにJAXAの宇宙飛行士募集が始まるんだ」

〇JAXAホームページ
ホーム画面のプレスリリース「2016年度宇宙飛行士募集開始のお知らせ」
クリックして、募集開始のお知らせの告知ページに飛ぶ。
「JAXAは来年秋に日本人宇宙飛行士を募集するために準備を開始いたします。多くの皆さんが新時代を開く宇宙飛行士を目指して応募してくださることを心待ちにしています。宇宙航空研究開発機構特別参与/毛利 衛」

〇翔太の部屋(夜)
翔太がパソコンの画面を見て、ガッツポーズをする。
ベランダに出て、空を見上げる翔太。夜空に三日月が見える。
翔太「いよいよだ、待ってろよ~」

〇車の中(夜)
マネージャーが運転するワゴン車の後部座席に大輔、翼、慶喜、春樹、翔太が乗って小声で話をしている。
大輔「一週間前の翔太の爆弾発言、突然すぎて驚いちゃったけど、俺らもそろそろ自分自身のことを真剣に考えた方がいいんじゃないかと、あの後冷静になって考えたんだ」
春樹「僕も・・・。ちょうどいい機会かもしれないね」
慶喜「確かに、最初は典子のために、そして売れてからはファンのみんなのためにって、自分のことより、いつも人のことを優先してやってきたからな、俺たち」
大輔「だからさ、各自、自分の将来について真面目に考えてみようよ」
翼「そうだな。自分が何をやりたいのかって今まで忙しすぎて全く考えたことなかった。翔太の爆弾発言があって良かったのかもしれないな」
翔太「翼と慶喜はゲームのプログラマー、大輔は学校の先生、春樹は世界一のピアニストだったよな」
大輔「お前、よく覚えてるな」
翼「典子は今は役場で働いているけど、確か幼稚園の先生だったよな」

〇星プロダクション・社長室
ビルの高層階一角の広い部屋。
ソファに大輔、翼、春樹、慶喜、翔太が座っている。デスクで書類を見ていた阿部勇作(星プロ社長)が話し始める。
阿部「翔太が十周年ツアーが終わったら脱退する、と言ってきたんだが、みんなは承知しているのか」
大輔「承知するも何も、宇宙飛行士になるのは翔太の昔からの夢で、誰にもそれを止めることはできないと思っています。それに、」
阿部「それになんだ」
大輔「俺たちの契約って、確か十年でしたよね」
阿部「そうだな」
大輔「俺たち、もう二十五歳になるので、そろそろ自分自身の将来を真剣に考えるべき時期じゃないかと」
阿部「うん、まあ、そうだな。しかし、君たちは今、最高の場所にいるんじゃないのか? 何か不満でもあるのか? ほかのみんなはどうなんだ」
慶喜「グループで歌を歌うのは楽しいけど、僕は演技するのが性に合ってるというか、そっちの方が熱くなるような気がしてきたところ。できれば舞台とかもやってみたい」
翼「俺は映像の勉強をしたい。コンピュータ使ってミュージックビデオ作るのがすっごく楽しかったから、勉強してもっとすごいのを作ってみたい」
春樹「僕はこのままでもいいし、シンガーソングライターとしてソロでやってもいいよ。正直、ダンスは苦手だから(苦笑)」
阿部「そうかそうか、みんな大人になったんだな。大輔はどうなんだ」
大輔「俺は芸能界とは別の、普通の社会で生きていく。みんなに内緒にしていて悪かったけど、俺、典子と結婚しようと思っている」
翼「え~~、まさか」
阿部「典子さんって、あの白血病だった幼馴染の?」
大輔「すみません」
慶喜「隠しておくなんで水臭いな、全然わからなかったよ」
阿部「いやいや、おめでとう。でもそれは今すぐというわけではないよな」
大輔「引退して落ち着いたら、入籍したいと思っています」
阿部「そうか、そうだな、そうしてくれ。正直、会社にとってはダメージが大きいが、みんながそういう気持ちならば、無理に引き留めるようなことはしない。契約はあと十カ月。残る奴は残り、それぞれの道を進んでいけるようにこれからもバックアップしていくから、頑張ってくれ」
大輔「僕たちのわがままを聞いて下さり、ありがとうございます」
大輔、翼、慶喜、春樹、翔太が深々と頭を下げる。

〇典子の家(夜)
典子(24)が夕食を食べながら、ニュース番組を観ている。
突然速報の音が鳴り、画面にテロップが出る。
T『人気アイドルグループ・ファイブウイングスが四大ドームツアー終了後の解散を発表』
典子のスマホが鳴り、慌てて電話に出る。
典子「大輔!」
大輔の声「正式に解散することが決まったよ」
典子「今、ニュースの速報で見た」
大輔の声「みんなに結婚のこと、言っちゃった」
典子「え!」
大輔の声「みんな驚いてた」
典子「わ~~、恥ずかしい」
ニュースキャスター「先程、ファイブウイング所属事務所の星プロダクション阿部社長から、全国ツアー終了後、グループが解散するとの発表がありました。社長の話によりますと、5人はそれぞれ別の道に進み、それを事務所が全面的にバックアップしていくとのことでした。中でも、松本翔太さんは宇宙飛行士を目指し、今年秋開始のJAXAの宇宙飛行士募集に応募するということです」
典子「翔太、まだ夢、温めてたんだね」
大輔の声「しつけ~よな~、あいつ」
二人、電話越しに笑う。

〇スポーツ紙各紙の一面
見出し『ファイブウイング解散』
見出し『翔太は宇宙飛行士に?』
小見出し『リーダー大輔は芸能界から引退か』

〇東京ドーム・入口
大勢のファンが応援グッズを持って入口からぞろぞろと中に入っていく。

〇東京ドーム・中
最後の曲を歌い終えた五人が中央に集まる。キャーキャーという声援。
泣き叫んでいるファンの顔、顔、顔。
ファン「大輔~~」
ファン「翔太~~」
ファン「翼~~」
ファン「春樹~~」
ファン「慶喜(よしき)~~」
大輔「皆さん、とうとう今日という日がやってきました」
慶喜「これからもずっとこの5人で歌い続けてほしいというファンのみんなの願いがあることを、この半年の全国ツアーで、痛いほど感じてきました(アドリブ的に「ありがとう~」)」
春樹「僕はこれからも歌い続けていきますが、ほかの4人には別の新しい夢があって、それを目指していきます」
翼「夢を追い続けること、諦めないこと、それを翔太が教えてくれました。小学生の頃からずっと宇宙飛行士なりたいと思い続け、その狭き門を目指して翔太が頑張るなら、俺たちにも自分たちの新しい夢を叶える可能性はあると信じています」
翔太「みんな、ごめん。これまで応援してくれて本当にありがとう。俺たちが今日まで全力疾走できたのはファンの皆さんと支えてくれたスタッフさんたちのおかげです」
大輔「僕たちは皆さんの気持ちに応え、恥じないようにこれからもそれぞれの道を目指して頑張っていきます。図々しいお願いかもしれないけれど、こいつらを応援してやってください(頭を下げる)」
ファン「大輔~~~、やめないで~~~」
春樹「僕たち5人がこれまで楽しく仲良くやってこれたのは、リーダーのおかげです。大輔、ありがとう」
翼「ありがとう、大輔」
翔太「サンキュー、リーダー」
慶喜「大輔、ありがとう。俺たちのこと、これからも応援してくれよ」
大輔「もちろん、応援するよ、ずっと」
ファン「大輔~~」
肩を組む5人の目から涙があふれるが、笑顔で清々しい顔をしている。
春樹「また、いつか、どこかで」
ステージの照明が消える。
ステージの画面に大気圏外から見える地球の画面が映し出される。
翔太の声「みんな、夢を追いかけていこうぜ~~」

#創作大賞2023
#漫画原作部門

第2話(5月第2週公開予定)
https://note.com/kylezoehapa/n/n5075204bc7e7


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