見出し画像

5ws+1N 夢をあきらめない 第2話

〇東京ドーム・控室
5人が肩を抱き合い、泣いている。阿部が入ってくる。
阿部「ようよう、君たち、何泣いてるの? 心残りでもあるのかい?」
5人「ありません」「ないです」
阿部「OK、OK! 10年間の全力疾走、ツアーの完全燃焼、ご苦労様。君たちには素晴らしい夢を見させてもらったよ。ありがとう」
5人が立ち上がり、阿部に向かって深々と頭を下げる。
5人「ありがとうございました」
阿部「とりあえず、4人は個人プレイヤーとなったけど、バックアップはちゃんとするから。春樹にはこれからもどんどんいい歌を作って、歌ってもらうよ、よろしく!」
5人「ありがとうございます」「よろしくお願いします」
安倍「大輔、結婚式の招待状、待ってるからな」
大輔「はい」

〇青山中学校・全景   
校舎の入り口に、花が飾ってある
T『半年後』

〇同・音楽室前の廊下
ウエディングドレス姿の典子(25)がドアの前に立っている。
洋子がドレスの裾を持って介添えしている。
洋子「典子さん、とってもきれい。みんな驚くわよ」
ピアノの音(ウエディングマーチ)が聞こえる。
教室の扉が開いて、タキシード姿の大輔が典子に手を差し出すと、典子がその手を握り、音楽室に入っていく。

〇同・音楽室内
春樹がピアノを弾いている。
正装した翼、慶喜、翔太、磯部、丸田、杉山、阿部が並んでいる。
ベートーベンやモーツアルトなどの肖像画と並んで、ファイブウイングスの優勝した時の写真が壁に飾られている。
翼の声「ファイブウイングスはこの音楽室から始まった。半年前、グループは解散して、みんなバラバラになってしまったけれど、俺たちは不死鳥のようにまたここから新しい人生を歩き始めるのだ」
牧師役の磯部元校長の前で指輪の交換をする大輔と典子。
シャンパンを抜く翔太と翼。全員が飲みながら、食べながら談笑している。慶喜「しかしさ、二人が付き合ってるって全然わからなかったよな~」
翼「そうだよ、大輔、ずるいぞお前!」
春樹「結局、最終的にリーダーは美味しいところをさらったってことかな」大輔「まあ、リーダーの特権ということで許してちょんまげ」   
みんな笑う。
阿部「え~~、お集りの皆様、このおめでたい場を借りて重大発表をさせていただきます(阿部が翔太に目配せする)」
翔太「こほん、こほん(咳払いの真似をすると全員が翔太に注目する)、わたくし、浦上翔太は、JAXAの第一次試験を見事にパスしました~~、いェ~~い」
全員が一瞬顔を見合わせて驚くが、拍手をする。
翼「やったな!!
慶喜「まさか受かるとは思わなかったよ」
翔太「なんだと!」
大輔&典子「翔太、おめでとう」
春樹「ファイブウイングスのメンバーなんだから、一次試験ぐらいはパスしないとな」
全員で喜び合う。
阿部「それからもう一つ」
突然、ピアノの音が鳴る。全員がピアノの前に座っている春樹を見る。
阿部「春樹がソロ初の新曲を6月6日に出すことになりました」
翼「俺、そのプロモーションビデオの制作を任されたんだぜ」
慶喜「そして、俺がそのビデオに出演するんだ。なんと相手役はモデルのSAKURAだぜ。へへへ、良いだろう」
典子「わ~~素敵、楽しみ」
大輔「みんな、すごいな。嬉しいよ。社長、いろいろとありがとうございます」
阿部「いや~~、みんながそれぞれの才能を発揮してくれたら、グループの時よりもっと稼いでくれそうだ(笑)」
元校長「阿部君、すぐにお金の話になるのは良くないね。中学の頃はそんなんじゃなくてもっと純粋な生徒だったんだがね・・・」
阿部「先生、そんな昔のこと、言わないでくださいよ。みんながグループを解散したいと言い出した時、校長先生からの口添えがあったので、こちらは断腸の思いで了承したんですからね」
元副校長「まさか、校長の昔の教え子が星プロの社長だったなんて、あの時は驚きましたよ。でも、グループ結成の時に受けた恩を解散で返してくれたなんて美談ですよ、まったく~~」
阿部「弱小プロダクションをここまで大きな会社にしてもらったのは、あの時の校長からの推薦があったからですから仕方がありません」

〇テレビ局・歌謡番組のスタジオ
春樹が弾き語りで新曲『翼があれば』を歌っている。しんみりとしたバラード調の曲。
曲が終わり、司会者と話をする春樹。
司会者「ソロデビューでいきなりランキング1位とはすばらしいですね。おめでとうございます」
春樹「ありがとうございます」
司会者「ほかのメンバーの方とは連絡を取り合っているんですか?」
春樹「はい、みんなに応援してもらっています。プロモーションビデオは翼が作って、そのビデオには慶喜が出演してくれています」
司会者「拝見しました。素敵な映像でしたよね。曲のイメージにとてもあっていて、観ている私たちも飛んでいけそうな感じがしました」
春樹「はい。ありがとうございます」

〇典子と大輔の家(夜)
道路脇に除雪された雪が残っている。
改築されて、一階がコンビニエンスストア、二階が住居になっている。
店正面の自動ドアに、『本日は6時に閉店します』の張り紙が貼ってある。
真っ赤なスポーツカーが停まり、大きなプレゼントの包みを抱えた慶喜が降りる。

〇同・二階の居間
典子が生まれたばかりの赤ん坊を抱え、大輔、翼、春樹が座っている。
ベビーベッドの上に「命名 瞳」と貼ってあり、赤ん坊が寝ている。
慶喜「やっほ~~~! お待たせしました」
プレゼントを抱えた慶喜が入ってくる。
翼「のぶ、おっせ~~ぞ」
慶喜「ごめんごめん、撮影が押しちゃってさ。あれ? 翔太は?」
大輔「翔太は今、JAXAでトレーニング中だから、外には出れないんだ。8時になったら、ビデオ電話するって」
慶喜「はい、これ小さなお姫様にプレゼント(抱えていた包みを大輔に渡す)」
典子&大輔「ありがとう」
慶喜「わ~、ちぃちぇな~」
典子「予定日より二週間早かったからね。抱っこしてみる?」
慶喜「泣かないかな?」
慶喜が恐る恐る赤ん坊を抱っこする。
寝ていた赤ん坊が目を覚まし、慶喜をじっと見てから、笑う。
典子「あら、笑ったわ」
慶喜「はい、パパでちゅよ~~」
みんな笑う。
大輔「のぶ、悪い冗談はやめろ。おかしいな、俺が抱くと泣いてばかりなんだけど・・・」
翼「のぶは女の扱いに慣れてるからな」
慶喜「なんだよ、人聞きの悪いこと言うなよ」
春樹「お前、週刊誌に狙われてるから、もう少し行動に気をつけろよ」
典子「そうよ、いい気になってると後でひどい目に合うわよ」
慶喜「女は怖いからな~~。ひーちゃんはまだ大丈夫だよね~~。愛してるよ(赤ん坊をあやす)」
大輔「おいおい、間違っても瞳に手を出すなよ(赤ん坊を慶喜から取り上げる)」
赤ん坊が泣きだす。
慶喜「やっぱ、俺の方が愛されてる」
大輔がムッとし、みんな笑う。
典子が大輔から赤ん坊を受け取る。
柱時計が8時を指し、ボーン、ボーンと鳴り始める。
テーブルに置かれていたパソコンの画面からコール音がする。
春樹「お、翔太からだ」
画面にJAXAの白衣を着た翔太の顔が映る。
翔太「ハロー、こちらJAXA研修生の松本翔太、応答願います」
春樹「感度良好、聞こえてるよ」
翼「よ」
慶喜「おう」
大輔「翔太、元気か~」
翔太「元気元気、そっちは? 典子、大輔、おめでとう! 早くお姫様の顔、見せてよ」
典子がパソコンのカメラに向かって赤ん坊の顔を見せる。
翔太「おお~~かわいいな~。典子似か? だよな」
典子「怒って泣き出す直前は、大輔の顔そっくりになるのよ(笑)」
大輔「なんだって?」
みんな笑う。
翼の声「大輔と典子の子どもが歩き始める頃までは、みんな忙しい中でも頻繁に連絡を取り合っていた。俺と春樹は仕事の関係で時々会うこともあったが、話はどうしても仕事中心になり、プライベートな関係はだんだん薄れていった」

〇テレビ局・廊下
T『4年後・2022年』
廊下ですれ違う春樹と翼。
翼「おう、久しぶり」
二人、立ち止まって話し始める。
春樹「元気そうだな」
翼「新曲、いい感じじゃん。あれはヒットするよ、絶対!」
春樹「うん、ありがとう」
翼「あのさ~」
春樹「何?」
翼「俺、今日の予定がキャンセルになったから、夜、時間あるんだけど。春樹は?」
春樹「そうだな~、20時過ぎには空くと思うけど」
翼「じゃあさ、俺のマンションに来ない?」
春樹「いいよ。新宿だったよな?」
翼「そうだよ。前とおんなじ」
春樹「わかった。いくよ。念のために住所、ラインしといて」
翼「了解。前のラインでいいんだよな」
春樹「まだ生きてる」
翼「オッケー」
春樹「じゃ、また」
左右に分かれて歩き出す翼と春樹。

〇翼のマンション(夜)
12畳ほどの広いワンルームの一角にパソコンや音響機器、小型のカメラなどがびっしりと並んでいる。
壁の一面に酒瓶が並び、小さなバーカウンターになっていて、カウンターに翼と春樹が座って、ウイスキーを飲んでいる。
春樹「ここに来たの、久しぶりだけど、変わってないな」
翼「そうだな」
春樹「で、どうした? 何かあった?」
翼「春樹は芸能ニュースとかほとんど見ないと思うけど、のぶのこと、知ってる?」
春樹「え? 何? うまくやってるんじゃないの? 主演映画の『イカロス』が日本アカデミー賞候補になったって聞いたけど」
翼がスポーツ紙を数紙、鞄から出して、春樹の前に置く。
翼「これ、読んで」
スポーツ紙を読む春樹。

〇スポーツ紙一面
見出し『イカロス、日本アカデミー賞落選』
見出し『イカロス、興行収入赤字か』
見出し『ヨシキ、審査委員を無能呼ばわり』
日本アカデミー賞のステージから飛び降りるタキシード姿の慶喜の写真が報じられている。

#創作大賞2023
#漫画原作部門

第3話(5月3週公開予定)
5ws+1n 夢をあきらめない 第3話|和世 (note.com)  


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?