見出し画像

5ws+1n 夢をあきらめない 第3話

〇慶喜のマンション(夜)
窓からレインボーブリッジの夜景が見える部屋。サイドテーブルの上にはブランデーの瓶と飲みかけのグラス、スマホが置いてある。
慶喜がいらいらしながら歩き回り、ガラケー電話で話をしている。
慶喜「もういい加減に勘弁してくれよ」
電話の相手「・・・・・・」
慶喜「だから、それは俺たちの関係がばれないように偽装しているだけだから」
電話の相手「・・・・・」
慶喜「いや、そうじゃない。誤解だよ」
電話の相手「・・・・・」
慶喜「もう勘弁してください」
電話の相手「・・・・・・」
慶喜「だから強引にあなたを推薦したんじゃないか。もういいだろう。お願いだ、もう終わりにしてくれ」
電話の相手(女)「だめよ」
相手の電話が切れる音。
携帯電話をソファに向かって投げつける慶喜。
慶喜「くっそ~~」
ソファに座って頭を抱え込み、怒りで体が震えている慶喜。
    ×     ×     ×
テーブルに置いてあったスマホが鳴り、恐る恐る手に取って画面を見る慶喜。
翼からの着信表示を見て、電話に出る。
春樹の声「あ、出たよ」
慶喜「(小さな声で)翼?」
春樹の声「おい翼、のぶ、出たよ」
慶喜「誰? 翼じゃないの?」

〇翼のマンション(夜)
春樹が翼のスマホのスピーカーで話をしている。
翼が隣でにやにや笑っている。
春樹「僕だよ、わかんない?」
慶喜の声「春樹?」
春樹「そうだよ、もう忘れられちゃったのかと思ったよ」
慶喜の声「春樹の声を忘れるもんか」
翼「よう、やっと出たな」
慶喜の声「翼」
翼「何度も電話したんだぜ」
慶喜の声「ごめん」
翼「元気か?」
慶喜の声「うん、元気だよ」
春樹「のぶと連絡がとれないって、翼が心配してたよ」
慶喜の声「ごめん、いろいろと忙しくって」
翼「たまにはみんなで会おうよ」
慶喜の声「そうだね」
春樹「そうだよ。大輔のところ、今二人目がお腹にいるらしいから、生まれたら、またみんなで一緒にお祝いしようよ」

〇慶喜のマンション
スマホで電話をしながら、目が涙で潤んでくる慶喜、鼻をすする。
慶喜「うん・・・」
翼の声「なんか元気なくない?」
慶喜「あぁ・・・今、寝てたから」
翼の声「そっか、そんならいいけど」
慶喜「ごめん」
春樹の声「俺、今、翼の新宿のマンションにいるんだけど、来ない?」
慶喜「う~~そうだな・・・」
翼の声「来いよ」
慶喜「・・・ごめん、明日稽古が早いから、また今度にするわ」
翼の声「そっか、起こして悪かったな」
慶喜「いや、いいんだ。電話ありがとう。そう言えば翼んとこのおばさん、元気? おばさんの作ってくれたほうとう、久しぶりに食いたいな」
翼の声「何だよ急に。どうしたんだ? お前南瓜が嫌いだったのに・・・」
慶喜「好き嫌いはダメってよく怒られてたから、がんばって好きになったんだよ。蜂の子は無理だけど」
翼の声「じゃあ、今度食べて見せろや。お袋に言っとくから」
慶喜「いいよ、今度な」
春樹の声「のぶ、お前の映画、近いうちに観にいくよ」
慶喜「いいよ、あんなもん」
春樹の声「何だよ、それ」
慶喜「ごめん、もう寝るわ」
慶喜はスマホを置いて、しばらく呆然としているが、急にブランデーを瓶のままがぶ飲みし、むせて咳き込み、嗚咽する。

〇新橋演舞場
舞台の上で『リア王』稽古をしている役者たちの中に、エドガー役の慶喜の姿も見える。
慶喜「どれほど重い苦しみもきっと乗越えられよう、悲しみに友があり、悩みに連れがあるとなれば」
    ×     ×     ×
稽古の休憩中。
ガラケー電話の画面を見ている慶喜の顔色が曇る。
慶喜「(小声で)またか・・・、もうやめてくれ・・・」
    ×     ×     ×
『リア王』の稽古の続き
慶喜「人間、どん底まで落ちてしまえば、つまり運の女神に見放され、この世の最低の境涯に身を置けば、常に、在るのは希望だけ、不安の種は何も無い」
城山彰彦(大物俳優)と舞台監督が舞台稽古を見ている。
城山「彼、なかなかいいね」
監督「日本アカデミー賞は残念でしたけど、フィルムより舞台の方が向いているんじゃないかしら」
城山「鍛えがいがあるな」
監督「そうですね。先生の後継者として育てるおつもりですか?」
城山「いやいや、まだ、そこまでは考えてないよ。人生経験が圧倒的に足りないからね(にやりと笑う)」
   
〇新橋演舞場楽屋口(夜)
慶喜がガラケー電話で電話をしている。
コール音が鳴り続くが応答はない。
慶喜「くっそ~~。何なんだ・・・」

〇高層マンション・17階の廊下(夜)
田代という表札がある部屋の前。
マスクと伊達メガネをして、フード付きのトレーニングウエアを着た慶喜が、扉を鍵で開けて中に入る。

〇同・玄関内(夜)
女性用のロングブーツが無造作に脱ぎ捨てられている。
運動靴を脱いで中に入る慶喜。
バスルームの電気がついている。

〇同・バスルーム(夜)
慶喜が磨りガラスをノックするが、返答はない。
慶喜「SAKURA?」
返答がない。
慶喜「おい、入るよ」
バスタブに全裸のSAKURAがいて、顔が半分お湯に浸かったまま動かない。慶喜が慌てて、SAKURAの顔を上げる。
慶喜「SAKURA?」
SAKURAが死んでいるのがわかり、驚いた慶喜が仰け反って尻もちをつく。
慶喜「うわ!」
慌ててバスルームを出る慶喜。

〇同・居間
暗い中、スマホで救急車を呼ぼうとするが、途中で止めてポケットにしまい、何かを探し始める。

〇同・ベッドルーム
慶喜がベッド横の小机の引き出しから、ガラケー電話を取り出して、中身を確認する。慶喜とSAKUERAが裸でベッドの中にいる写真。
慶喜がガラケー電話機を持って、部屋から出ていく。

〇マンション一階・エレベーター前(夜)
フードをかぶり、マスクと伊達メガネをかけた慶喜がエレベーターから出てきて、横田流美(SAKURAのマネージャー)とすれ違う。
慶喜の尻の辺りに濡れた跡がある。
流美が慶喜の姿を見て、怪訝そうな顔をする。

〇同・エレベーターの中(夜)
流美が乗っている。
流美「あれ・・・??」

〇同・SAKURAの部屋の前(夜)
流美がインターホンを鳴らすが返事はない。
ハンドバッグの中から合鍵を取り出して、鍵を開けて中に入っていく。

〇同・玄関
中に入っていく流美。
流美「SAKURA、上がるよ~」
    ×    ×    ×
バスルームから流美の叫び声が聞こえる。
流美「きゃ~~」

〇国道(夜)
マスクと伊達メガネをした慶喜がフードをかぶって走っている。
立ち止まり、タクシーを止めて、乗り込む慶喜。

〇大輔と典子の家(朝)
大輔、典子、瞳(4)の朝食風景。
典子「ひーちゃん、お手々で食べないで、スプーンで食べようね」
テレビのニュースで朝のワイドショーをやっている。
キャスター「速報です。昨夜、モデルのSAKURAさんが自宅マンションで死亡しているのが発見されました。繰り返します。昨夜、モデルのSAKURAさん、本名田代ゆかりさんが死亡しているのが発見されました。事務所のスタッフが連絡が取れないのを不審に思い、高輪にあるSAKURAさんのマンションに行って発見したということです。遺書はないようです。警察では、自殺と事故の線で捜査を進めています」
大輔と典子が箸を止め、視線がテレビにくぎ付けになる。

〇新橋演舞場・客席
満場の観客が舞台が始まるのを待っている。

〇新橋演舞場
照明が暗転し、幕が上がって、リア王の舞台が始まる。
    ×    ×    ×
慶喜(エドガー)「人間、どん底まで落ちてしまえば、つまり運の女神に見放され、こ、この世の最低の境涯に身を置けば常に・・・常に在るのは希望だけ、不安の種は何も無い(尻すぼみになる)」
共演者が狼狽え、観客が少しざわつく。

〇同・城山の楽屋
たくさんの花束の中、リア王の衣装を着た城山が鏡の前に座り、化粧を落としている。
ノック音がして、慶喜が入ってきて、頭を下げたまま、
慶喜「申し訳ありませんでした」
城山「済んだことはもういい。明日はちゃんとやってくれよ」
慶喜「はい。すみません」
城山「わかったら、さっさと出て行ってくれ」
慶喜が肩を落とし、楽屋から出ていく。
城山「期待外れだったかな(呟く)」

〇車の中(夕方)
吉田勉(慶喜のマネージャー)が運転をしている。
後部座席に座り、イヤホンをした慶喜が、スマホでニュースを観ている。
キャスター「警察では、昨夜、SAKURAさんのマネージャーがマンションですれ違った男の行方を捜し、事情を聴くという方向で捜査が進められているということです」
慶喜「吉田さん、すみませんが、最寄りの駅で止めてもらえませんか?」
吉田「ええ? 駅? どうしたの?」
慶喜「人混みの中で、独りで集中したいんです」
吉田「そうなの? わかった。明日の迎えは今日と同じ時間でいいよね」
慶喜「はい、よろしくお願いします」
    ×     ×     ×   
吉田が車をJR有楽町駅の近くに停めて、サングラスにマスクをした慶喜が降りる。
吉田「あんまり気にするなよ」
慶喜「はい、ありがとうございます」
慶喜が人混みに紛れて、駅の改札口の方へ向かう。

〇山手線の電車の中(夕方)
マスクとサングラスをした慶喜が隠れるように車窓を眺めている。
背後の車内中吊り広告に「慶喜、ゆかりんと熱愛か!」の見出しが見える。

〇星プロダクション事務所・社長室(朝)
阿部がスマホに向かって怒鳴っている。
阿部「馬鹿野郎! どうして一人にしたんだ!」
マネージャーの声(電話)「「すみません・・・」
阿部「ヨシキが行きそうな場所をしらみつぶしに探せ。ただし、奴が居なくなったことは誰にも言うなよ。いいな!!」
阿部が机のインターホンを押す。
秘書の声「はい、何でしょうか?」
阿部「城山先生の電話を調べてくれ」
秘書の声「はい。劇団永遠(とわ)の城山様ですね」
阿部「そうだ、急いで」

#創作大賞2023
#漫画原作部門
#シナリオ

第4話  5ws+1n 夢をあきらめない 第4話|和世 (note.com)
5月第4週公開予定


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?