【普通にある初めて】
「それは、オーナーに聞いてみないと、、、」
『じゃあ今。今、聞いて』
「今、ですか?」
『そう、今。
ほら、早く、電話してよ』
「電話、出てくれるかな、、、
えーと、この番号ですけど」
『俺から掛けようか?
その方が多分、スムーズに交渉できるはずだけど』
「、、、あぁ、まずは、ですね。
こちらで連絡をしてみます。
少々、お待ちください」
『はいよ。その間、色々、見てるね』
「どうぞ。お好きなように」
『、、、俺の好きに見たら、マズいよ。
困るコトになるよ。それでも、好きに見てイイ?』
「マズい、とは?」
『例えば、床材とか、見たいし。
だから、コレ、剥がしたり。勿論、端っこの方からだけど』
「それは困ります。カーペットを剥がすのは、ダメです」
『買うことになったら、イイ?』
「買う?
買う気なんですか?」
『それも視野に入れてる』
「話が違います。
オーナーは貸したいんです。売りたいのではなく」
『でも、それ相応の金額を払えば、売ってくれるハズ』
「でも、それは、、、」
『分かった、分かった。
とりあえず、買う話は後で。
でもさ、好きに見せちゃダメでしょ?
いつも思うんだよね。好きに、ってさ、コワいよよ、結構』
「、、、お客様、部屋の中をお好きにご覧いただいて構いません。ただし、設置物には触らず、そのままをご覧ください。もし、気になる箇所があれば、都度、確認をお願いします」
『やれば、できる。
気に入ったよ』
「、、、光栄です。
では、お電話いたします」
『どうぞ』
「、、、」
『、、、』
「、、、繋がりませんね。
お出になりませんね」
『向こう側は、鳴ってる?』
「いえ、自動応答になりますね」
『、、、貸して』
「はい?」
『電話、貸して。
俺がやってみるから』
「やってみる、とは?」
『俺が掛けるから、、、』
「そうですか?
それでも、変わりませんよ」
『変わるよ。
カケル?』
「カケル、というのは?」
『賭ける、ってコト。
実際にカネは賭けないけど、変わるかどうか、試してみる?』
「はぁ、それはお好きに。変わりませんよ、多分」
『よし、やってみよう』
「では、どうぞ。
リダイヤルでかかりますので」
『はーい。
では、、、』
「、、、えっ、何、やってるんですか?」
『だから、相手が出るように、、、』
「ちょっと待ってください。
何をするかと思って見てたら、な、なんてコト」
『まだ試してる最中だから、待ってよ』
「いえいえいえ、、、ダメです」
『何で?
どうして止める?』
「どうして?
はじめて見ましたよ、そんなの」
『、、、何事も、初めてはある。
君の初めてが今、だっただけ』
「そうですけど、そうなんだけど、ダメてですよ」
『だから、何で?
理由は?
ないでしょ?
あるなら、言ってよ』
「理由は、、、そうですね。
、、、ないです。ないけど、ダメでしょ、普通」
『俺、普通じゃないから、そんな理由、聞かないし、効かないし、利かないんだよ』
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