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海外から見た安倍ロス:海外からの反応をまとめてみる

日本外交の良い意味での変節を分析・解説してきた当ブログでも、「安倍ロス」は大きく、何度か同じような記事をエントリーしている。

今回は、安倍外交の本質を的確に分析していた著名人のコメントと、あらためて安倍氏の死が世界に与えたインパクトをまとめてみたい。

安倍元首相が我が国にとっていかに重要な人物であったかをアメリカ人は理解するべきだ by ボルトン

ジョン・ボルトンといえば、かつて国連大使を務め、トランプ前大統領の補佐官も務め、ネオコンの大物として「死神」とも恐れられる人物だ。

しかし、そんな強硬なイメージとは裏腹に、世界戦略の分析は極めて冷静であり、知日派としての一面も覗かせている。

ボルトン氏のコメントが最も的をついているように思ったので、第一に取り上げさせてもらおうと思った。

記事冒頭でボルトンは「安倍元首相が我が国にとっていかに重要な人物であったかをアメリカ人は理解するべきだ」とし、その理由として安倍元首相の改憲や防衛力強化への取り組みに言及。「あらゆる『普通の』国と同様に、特に北東アジアという敵対的な地理的条件下で、日本は自国の利益を守る正当な権利があった」と背景を説明し、安倍元首相は「かつては不可能であったこの目標を達成しようと決意し、大きな一歩を踏み出した」と評価している。

上記記事より引用

「安倍元首相が我が国にとっていかに重要な人物であったかをアメリカ人は理解するべきだ」

強硬的な発言の目立つ強面のボルトン氏にここまで言わせるのが、安倍氏の力であった。

さらに、「安倍元首相は、自国の歴史を深く理解していたが、日本と世界の国々が1945年を超えて前進する時であることも見通していた」とし、第二次世界対戦後の再軍備を経て1955年に北大西洋条約機構(NATO)に加盟した旧西ドイツと対比させ「なぜ日本が同じことをしてはいけないのか」、などと問いかけた。

上記記事より引用

「日本と世界の国々が1945年を超えて前進する時であることも見通していた」

この分析に、ボルトン氏の優れた洞察力が見て取れる。すなわち、安倍氏の掲げた「戦後レジームからの脱却」、そのことである。

オバマ氏を含む民主党政権は、ナショナリスト・安倍を警戒していた時期があるが、安倍外交のたゆまぬ努力によって、そして中国の世界への台頭によって、アメリカの日本への警戒は薄れ、今やアメリカにとって日本はなくてはならない極東の存在となった。

共和党・ネオコン系のボルトン氏が当初、「戦後レジームからの脱却」をどのように見ていたかはわからないが、少なくとも現在は「前進するときだ」という考えに容認的であるようだ。

これは、極めて大きなことである。

保守・タカ派色の強い政策を推し進めた安倍元首相の政策については、「世論を大きく二分した」などと評価する意見が複数メディアで掲載されている。しかし、ボルトンはこうした意見について、イデオロギー的に偏向しているのは、安倍元首相ではなくこうした評論家たちの方だ、と一蹴。

外交政策についても振り返り、「中国の脅威」について理解していた「安倍元首相の国際感覚はこんにち、かつてないほど重要」と絶賛。日米豪印4ヵ国(クアッド)の枠組みについて「誰よりもその可能性を強調していた」と理由を挙げた。

上記記事より引用

「イデオロギー的に偏向しているのは、安倍元首相ではなくこうした(左派系の)評論家たちの方だ」

「安倍元首相の国際感覚はこんにち、かつてないほど重要」

これを見れば、死神と恐れられるボルトン氏の印象も少し変わるのではないだろうか。少なくとも、安倍さんの思い描いたビジョンに賛同的であることは明らかである。そして、ネオコンの大物にここまで言わせた日本の政治家が、過去にいただろうか。

ボルトン氏の言うように、安倍さんが残した「自由で開かれたインド太平洋」「日米豪印クアッド」の重要性は、世界の中でもシェアされている。このことを、日本人はもっと知った方がいい。

そして、次に訪れる新たなる国際秩序の中で、日本が重要な役割を果たすことに、アメリカは少なくとも今は肯定的なようだ。


その他、海外の反応を振り返る

個人的に最も印象深かったのが、ボルトン氏の発言であったが、同様のコメント、そして弔意は多くの国から聞かれた。

主なものを振り返っていきたい。

バイデン大統領は9日、岸田文雄首相に弔意を伝えた電話会談で、「自由で開かれたインド太平洋」や日米、オーストラリア、インド4カ国の枠組み「クアッド」の創設は「安倍氏の不朽の遺産」だと強調した。
(中略)
ジョンズ・ホプキンス大のウィリアム・ブルックス非常勤教授は、岸田氏は既に日本の防衛力強化や権威主義の傾向を強める中国を警戒する姿勢を示していると指摘。「安倍氏と同じ外交的リアリストだ」と分析した。

上記記事より

自由で開かれたインド太平洋」と「クアッド」は安倍氏の不朽の遺産であると、バイデン大統領も認めている。

そして、この記事で最も面白いのは、岸田首相は安倍氏と同じ外交的リアリストだと分析しているとのところである。

確かに、岸田首相は安倍政権時の外務大臣を長く勤め、自由で開かれたインド太平洋、QUADの仕掛けに深く関わってきた人物である。頼りないところもあるが、この点でいえば安倍外交を引き継げるのは、今のところ岸田さんしかいないだろう、と半分期待を込めて指摘しておきたい。

その他、ホワイトハウス、英エリザベス女王、オーストラリア、インド、ブラジル、ロシア、国連、そしてタリバン(!)などで弔意を示されたという記事をまとめておこうと思う。

国連で日本の指導者の死が悼まれることなど、有史以来なかったことだろうし、なんといってもアフガニスタンのタリバン政権が弔意を示しているのが驚くべき事実だった。


安倍外交の秘訣

最後に、安倍さんの意思を継ぐ政治家が出てきて欲しいとの強い願いを込めて、「安倍外交の秘訣」とうたった記事を引用しておきたい。

「それぞれのリーダーが自国や地域の利益を最優先に考えていることは大前提ですが、首脳個人との関係においては、外交関係の域を超えた人間関係の構築も重要です。その際に私が気を付けていたのは、相手の立場を深く知り、慮って、胸襟を開いて接する姿勢です。各国首脳は、それぞれに国益を背負い、国内の様々な利害や声を背景に持っています。そのため、『お互い、大変ですよね』『私も同じですよ』と伝えることで、相手との距離が縮まり、相手もこちらを理解してくれるような関係を築くことを心がけていました」(10月15日号)

上記記事より引用

安倍さんのインタビュー記事だが、相手国の指導者の立場も慮り「お互い大変ですね」というポジションに持っていく努力をしていたそうだ。

対決姿勢ではなく、共感姿勢でいくという、カウンセラーのテクニックのようであるが、とても興味深いことである。

外交の舞台で安倍元首相が評価されたもう一つの理由は、「細やかな気遣い」ではなかったかと思う。取材時、安倍元首相はこんな「秘訣」を明かした。

 「(外交的な)会議の合間の時間というのは非常に貴重な機会で、私はどんなに短い時間でも、なるべく多くの首脳と顔を合わせ、会話を交わすようにしていました。

 日本はGDPで世界3位の大国ですから、その国のトップリーダーから声を掛けられれば、気持ちを向けてくれます。逆の立場で考えてもそうじゃないでしょうか。もし私が円卓に座っている時に、アメリカの大統領が自ら近づいてきて声をかけてくれれば、当然、悪い気はしません。何より、各国の人たちはそうした様子を見てもいます。『やはり日本のリーダーは、アメリカのトップから直に声を掛けられるんだな』と感じ、日本のプレゼンスそのものが強まるのです」(10月15日号)

 国内でも、「人たらし」で知られる安倍元首相だ。「中には自分から立ち上がって他国の首脳に声を掛けに行くことは一切しないリーダーもいた」(同)中で、自ら誰にでも話しかける安倍元首相の振る舞いは、特に小国のリーダーの心に響いたのだろう。だからこそ、各国から、日本のほうが驚くほどの悲しみと国際社会に及ぼした貢献に対する評価や感謝の意が発せられているのではないか。

上記記事より引用

どんな小国であっても、こちらから積極的に声をかけに行くとのこと・・・そういう細々とした努力が、死後の多くの弔意に表れているのだろう。

そんな「気の利く」安倍氏のちょっとしたエピソードを最後に紹介しておく。

「リーダーとしての安倍首相を尊敬していた息子のために、サプライズで誕生日パーティに参加してくれたのです。安倍首相が突然レストランに来て、こちらに向かって歩いてくるのを見たときのジャックの表情は、まさに“プライスレス”でした」

さらに、「わざわざ足を運んでくれたことは、私にとっても、私たち家族にとっても、非常に大きな意味のあることでした」と付け加えた。

ケネディ大使は、安倍元首相はジャックの誕生日を一緒に祝うことで、「一家との個人的な友情と、日米両国の関係をどれほど大切にしているかを示してくれた」と考えているという。

上記記事より引用

オバマ大統領時代のケネディ駐日大使の息子さんの誕生日に、サプライズで安倍総理が現れたときのエピソードである。

もともと安倍嫌いだったオバマ政権を懐柔するために、ケネディ大使が果たした役割は大きいと思うが、こうした小さなことの積み重ねが大事だったのだと思いおこされる記事である。

そして何より、ケネディ大使の息子さんが将来どのような道を進むのか分からないが、アメリカ政界に飛び込んだ場合には、ケネディブランドで出世することは間違いないだろう。もしかしたら、将来、アメリカ政界の中枢に行くかも知れない。そんなケネディ大使の息子さんに、安倍氏が撒いた種はとても大きいのではないかと思う。

優れた戦略家であるとともに、こういった気遣いができる外交的な次なる政治家の登場を、待ち望みたい。


下記記事(↓)は、安倍首相(当時)辞任時のものです。

(画像は写真ACから引用しています)

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