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海外首脳からの反響こそが、安倍総理の最大のレガシーだと思う

歴代最長政権を築き、一時は「4期目も」と言われていた安倍総理が突如辞任を表明した。

コロナ対応では精彩を欠き、本人も重要課題と捉えていたであろう「憲法改正」「北方領土」「拉致被害者」についてはほとんど進展もなく、歴代最長政権のレガシーとはいったい何か?とほんの少し前までテレビで皮肉っぽく議論されていたが、安倍首相の突然の辞任が海外に与えたインパクトこそが、最大のレガシーと言えるのではないだろうか。

少なくともこれほどの声が世界各国から寄せられることになった日本の総理大臣は前代未聞である。我々日本人こそが、安倍総理の外交力を最も過小評価していたのかも知れない。

安倍首相辞任後の各国の反応まとめ

アメリカ・トランプ大統領:「本当に素晴らしい友人で、われわれはとても良い関係だった」「実に気の毒だ。彼は自分の国をとても愛していたし、辞任は想像できないくらいつらいことだろう」

ツイッターより:Shinzo will soon be recognized as the greatest Prime Minister in the history of Japan, whose relationship with the USA is the best it has ever been. Special man!

アメリカ・ポンペオ国務長官:米国は、日米関係をかつてないほど強固なものとした安倍首相のたゆみない貢献を心から評価しています。首相は日米同盟を平和と安全保障の礎として提唱し、パートナーシップのネットワークを域内全体に構築するため米国と緊密に連携し、自由で開かれたインド太平洋構想を前進させました。彼の長年にわたる真摯な取り組みに感謝するとともに、ご病気から早く回復し完治されることを祈っています。

中国報道官:「日中関係の改善に尽力された安倍晋三総理に敬意を表します。一日も早い回復をお祈り申し上げます」

ロシア報道官:「全く残念だ。安倍氏は両国関係の発展に評価しきれないほどの貢献をした」「プーチン大統領と安倍氏の間には、仕事を成し遂げるための輝くような関係があった」

イギリス・ジョンソン首相:「日本と世界のために素晴らしいことを成し遂げた。彼の執政の下、日英関係は貿易、防衛、文化の各分野で一段と強まった」

ドイツ・メルケル首相:「安倍首相は常に多国間主義に向けて努力してきた。日独間の距離にもかかわらず、両国は基本的価値を共有していることを示した」

フランス・マクロン大統領:「健康を理由に辞任することを悲しく思う。通常の生活に戻ることができるよう、回復を祈りたい」

オーストラリア・モリソン首相:「安倍氏が私たちの真の友人であったことに感謝します」「彼のリーダーシップや知恵、寛容力、洞察力は地域や世界の平和や自由、繁栄という目標を擁護してきた」

カナダ・トルドー首相:「あなたのビジョンや指導力、友情が両国を近づけた」「より良い世界をつくるための献身に感謝する。私の友人の健康を祈っている」 

EUミシェル大統領:「首相の指導力の下でEUと日本が緊密で力強い関係を築いたことに感謝したい」「日本を今の多国間体制の柱の一つにした」

国連グテレス事務総長:「グローバルな問題に対処するため、国連と一貫して建設的に取り組んできたことに敬意を表する」

インド・モディ首相:「あなたの賢明なリーダーシップと献身により、日印関係はかつてないほど深化し、強力なものとなった」

シンガポール・リーシェンロン首相:「私は安倍氏とは9年近く一緒に仕事をしてきた。安倍氏のリーダーシップの下、2国間関係は深まってきた」「TPP妥結に安倍氏が重要な役割を果たした」

トルコ外相:「トルコと日本の関係発展に尽力された」

イスラエル・ネタニヤフ首相:「残念に思う。両国の間で深まった友情に感謝している」「日本からの投資が何十倍にも増え、さまざまな分野での協力が進展した」「健康と成功を祈る。あなたはいつでもイスラエルで歓迎される」

イラン外務省・報道官:「安倍総理大臣は、両国の関係発展に価値ある貢献をした。イランは、安倍総理大臣の両国関係に対する思いやりに感謝している」


世界各国からこれだけのコメントが寄せられたことには、大きな価値があると思う。強大な軍事力がなくとも、日本の総理大臣がここまでの存在感を示すことができるというを示した証だ。

今後の日本の総理大臣は、外交においてはずっと安倍総理と比較されるであろう。いわば、外交の”安倍スタンダード”を築いたということでもある。これは後世に残る大きなレガシーだと思う。その他、興味深いコメントを以下にまとめてみる。


その他、興味深いコメント

アメリカ・ボルトン元大統領補佐官:迷走しがちなトランプ大統領の外交を「現実に近いところにつなぎ留める重い金属の鎖のような存在だった」と評価した。「彼は憲法改正に失敗したかもしれないが、そのような改正の必要性があまり重要でなくなるほど状況を変えた」

ブルームバーグ:「安倍晋三は予想に反し、リベラルな日本を築いた」

キャノン・御手洗会長:「わが国の憲政史上最長となる盤石な政権を築き、後世に残る立派な成果を残した」「リーマン・ショックと東日本大震災で毀損(きそん)していた日本経済をアベノミクスで見事復活に導き、持続的な景気回復を実現し、雇用環境は大きく改善した」「強力な外交力を発揮して、国際社会における日本のプレゼンスをかつてない地位まで高めた」

サントリー・新浪社長:「経済再生を政権運営の柱に据え、デフレ脱却を最優先課題として、賃上げや女性活躍促進などの労働力不足への対応により、日本経済を回復軌道に乗せられたことは高く評価されるべきだ。特に、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)などの自由貿易協定への積極的な取り組みで世界をリードしてきたことは特筆すべきことだ」

日本商工会議所・三村会頭:「日本経済の長期にわたる閉塞(へいそく)感を打開すべく経済最優先を掲げ、危機突破内閣として経済再生、デフレ脱却実現に至る大きな道筋をつけた。その功績には極めて大きなものがある」

自民党・甘利氏:国際会議などで「トランプ大統領も、(ドイツの)メルケル首相も『シンゾーがそういうならいいや』となる。日本の総理ってここまで存在感があるんだって、わたしの38年の(政治家)経験の中で初めてです」と高く評価した。


特に面白いと思うのは、ボルトン元補佐官、ブルームバーグ記者、御手洗会長のコメントである。考察を交えながら、順に見ていく。

彼は憲法改正に失敗したかもしれないが、そのような改正の必要性があまり重要でなくなるほど状況を変えた by ボルトン元大統領補佐官

 悪魔の化身とまで言われる超タカ派のネオコン、ボルトン元大統領補佐官であるが、日本のことを非常にフェアに分析していると感じる含蓄のあるコメントである。

 集団的自衛権や特定機密保護法の制定により、日米同盟はかなり深化した。くしくも、それらの法整備の後に、憲法9条を急いで改訂する必要性がなくなったと、安倍総理自身が言ったとか言わなかったとかいう噂をコメンテーターの誰かが言っていたと思うが、つまりはそういうことである。米軍と自衛隊の一体化が進むことで、独自の防衛力のみに頼らなければならない状況が大きく変わった。

 そこに、安倍総理ならではの「リアリズム」がつまっているように思える。ボルトンさんはそれを正確に見抜いている。


安倍晋三は予想に反し、リベラルな日本を築いた by ブルームバーグ記事

 もともと安倍首相は、海外にいても戦前体制の復活をもくろむ国粋主義者のように警戒されていたし、未だに日本でもそのように思っている人もいると思うけれど、安倍さんは保守とは言えるかも知れないが、右翼でもタカ派でもない。

 ほかの国だったら、ごくごく普通の「穏健中道右派政治家」ぐらいだと思う。バランス感覚があるため、物足りなく感じる部分もあるが、その分支持の幅も広い。

 予想に反しリベラルな国を築いたというのは面白い評価だと思うし、そう思ってないのは日本人だけかも知れない。


強力な外交力を発揮して、国際社会における日本のプレゼンスをかつてない地位まで高めた by 御手洗会長

 元経団連会長のキャノンの御手洗さんのコメントとすれば、面白い。経団連とは、利益誘導型の圧力団体の一つで、悪く言えば金儲けばかり考えていて日本の国益など二の次だというふうにみえる節があるので、こういう国家間のパワーバランスにまで言及するというのは意外だった。


選挙無敗のまま去る安倍さんに「3回目」はあるか?

 2012年に政権に返り咲いて以来、国政選挙では負けなしの安倍首相である。海外からもこれだけ辞任を惜しむ声も上がり、”戦略的”に考えれば賢明な撤退だったかも知れない(もちろん体調の問題なのだが・・・)。

 将来、自民党が弱くなったときに、体調が万全に戻っていたら、党内からは安倍総理再登板期待論が出てくることもあるだろう。

 コロナ対応、消費増税、外国からの研修生受け入れなど、不満な部分もあるが、”3回目”を期待する意味も込めて、改めて安倍さんの他のレガシーもまとめておくことにする。

1.日経平均3倍、失業者数過去最低レベル達成(コロナ流行以前)

2.特定機密保護法、集団的自衛権の安保法改正

3.戦後70年談話にて「謝罪し続ける運命を子孫に背負わせることはしない」

4.米国議会での「希望の同盟演説」(日本の首相として初)

5.オバマ大統領の広島訪問を実現した

6.アメリカが抜けたあとのTPP11をまとめ上げた。

7.「自由で開かれたインド太平洋戦略」というグランド・ビジョン(大戦略)を構築した。

8.天皇陛下の譲位と新元号の決定


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