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フランスから見た日本外交の変化:その変遷を分かりやすくまとめてみる

現在の日本外交が、フランスからどのように見えているのかについて、大変興味深い記事があった。

フランスからは、現在の日本外交がどのように見えているのか?

「日本の変化に驚いた。日本は通常、国際社会であまり存在感を示さず、特に紛争が絡むと立場表明には消極的だった」

上記記事(日本外交の「変化に驚き」 仏研究所・パジョン氏[産経新聞])

日本は国際社会であまり存在感を示さなかったが、それが変化している」と述べている。

その通り、ほんの10年ほど前までは、G7などの国際会議に首脳が出席しても、愛想笑いを浮かべながら隅っこの方にいるだけだった。それが、いまや岸田総理でさえG7の中でもそれなりに存在感を発揮している。

「2014年のロシアによるクリミア併合時も北方領土交渉への配慮から、強い制裁に出なかった。しかし今回、ウクライナへの支持を素早く、明確に打ち出した。迅速に対ロシア制裁を決め、ウクライナに防弾チョッキなど自衛隊の装備品を送った。殺傷兵器ではなくても、大きな一歩だ。液化天然ガス(LNG)の欧州への融通、ウクライナ難民の受け入れなど矢継ぎ早に決め、『欧米とともに取り組む』という日本の意思を感じた。欧州で日本への信頼は高まった」

上記記事

「今回のウクライナ支持の動きは早かった」と。これは意外な評価であるが、欧州から見たらそう見えるらしい。

それよりも重要なのは最後の一文、「欧州への日本への信頼は高まった」。

これは極めて重要なことである。これまで、日本は概して立場を鮮明にせず、ヘコヘコと八方美人にすることが多かった。今回は、ある程度旗幟を鮮明にしたことで、欧州の信頼を勝ち得たということだ。

国際社会において、明確な意思表示は重要である。

「NATOはいま、中国に関心が向いている。ただ、ロシアと異なり、欧州は中国との協力関係も探っている。日本は中国と付き合ってきた長い経験があり、連携できるはずだ。NATO諸国と日本は、共にアフガニスタンやイラク支援を行った。ウクライナ復興でも協力できる。ウクライナ復興支援は、G7サミットの課題でもある」

上記記事

NATOの関心は中国にもあるが、同時に協力関係も探っている。中国と長く付き合ってきた日本の経験が役に立つはずだ

これはたいへん興味深い指摘である。

まさに、日本において、古代より近代にいたるまで、超大国であった中国との向き合い方が外交の大部分を占めていた。今や、世界が巨大化した中国と相対しなければならない。

西暦607年、聖徳太子が隋の皇帝に送ったとされる

日出る処の天子、書を、日没する処の天子に致す。恙なきや。” 

から1400年あまりにわたり、日本は中国という隣人と付き合ってきた。その経験と智恵を、欧米は欲しているのだ。

「NATO内に意見の違いがある。フランスやドイツは、NATOによるインド太平洋への直接関与には慎重だ。ロシアの脅威への対応が最優先課題となる中、NATOがインド太平洋に取り組みを広げることに消極的な国もある。ただ、ウクライナ侵攻で中露の連携が注視され、欧州でも『台湾有事の際、どんなシナリオを取るのか』を考える契機になった。現時点では、危機を回避するため、中国に『侵攻を認めない』という警告を送ることが重視されている。NATO軍がインド太平洋に展開するとは考えられないが、偽情報やサイバー攻撃への対応には関与できる

上記記事

フランスやドイツはインド太平洋への直接関与には慎重である。

ふーん、まあ、日米豪印+英のシーパワー連合が中心になってやるから別にいいけど・・・という感じではあるが、最後の「偽情報やサイバー攻撃への対応には関与できる」という部分が興味深い。かなりリアリティのある発言をしていると言えるだろう。

ということで、このブログで常々指摘しているように、日本外交はここ数年大きなターニングポイントを迎えていた。フランスから見てもそう見えているというのは、誠に興味深い示唆であろう。

日本外交の変化の大まかな復習

この日本外交の変化の源泉をさかのぼっていくと、かつて麻生氏が提唱した「自由と繁栄の弧」構想につきあたる。現在徐々に現実になりつつある”インド太平洋欧州大同盟”に近い考えを、20年も前に提唱していたというのは、麻生氏の慧眼である。マスコミに叩かれがちで一般人の評価は必ずしも芳しくないが、外交構想という点においては優れたものであったと改めて評価しておきたい。

「自由と繁栄の弧」を具体的な形に落とし込んだのが、安倍氏の「セキュリティ・ダイアモンド(現在の日米豪印QUAD)」であった。安倍氏はさらに「自由で開かれたインド太平洋」構想をトランプ氏に吹き込むことで、一気にアメリカがノリノリになり、現実的な形が作られた。

従って、日米豪印QUADと、自由で開かれたインド太平洋こそ、現在の日本外交の中核であり、結果として欧州も日本を評価するに至った原動力になっている。

それを補完するものとして、TPPがあり、IPEFがあり、PBPがある。日本は参加していないが、AUKUSファイブ・アイズもこの構想を側面支援するものとなるであろう。さらに今回、NATOがインド太平洋構想に間接的にではあるが関与するという可能性が示唆されたということだ。

お気づきだろうか。現在形作られている米中新冷戦を中心とした自由民主主義陣営 VS  権威主義陣営のチーム分けに、日本発の大戦略ががっちりと組み込まれているのだ。麻生・安倍がここまで計算して仕掛けを作っていたとするなら、誠に大したものである。筆者が岸田政権をギリギリ評価しているのは、少なくともこの路線をキッチリ継承しているからだ(経済政策はからっきしポンコツだが・・・)。

この先にあるのは、新たな国際秩序の中での「日本の常任理事国入り」である。それが実現すれば、まさに「戦後レジームからの脱却」が成ると言えるだろう。だが、一寸先は闇だ。更に優れた大戦略家の登場を、切に願っている。

混迷の時代を生き延びるために・・・下記記事たちもご参考ください。

(画像は写真ACから引用しています)

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