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スタートレック・ピカードの感想と考察(シーズン1まで)

外出自粛期に、スタートレック・ディスカバリー(2017年)に続いて、スタートレック・ピカード(2020年)を見たので、感想と考察をまとめようと思う。

ピカード艦長は、スタートレック・ネクストジェネレーション(TNG)の主人公で、スタートレックシリーズの伝説的なカリスマの一人である。TNGが非常に高尚で哲学的な物語が多かったため、その後日譚として楽しみにしていたシリーズである。

しかし、感想は・・・うーん、こりゃ、何というか・・・「見る人を選ぶなぁ(;^ω^)」という感じだった。「めっちゃ面白い!」とか、「絶対おススメです!」みたいな安易な感想は述べることができない。むしろ、初見者には厳しいのでは・・・!?スタートレック初心者には、ディスカバリーの方が良いと思う。

そんな初見者殺しの物語だが、第10話でデータ少佐がアルタン・スン博士を評した言葉こそが、スタートレック・ピカードの目指した方向性を代弁しているのではないかと思った。曰く、

だんだん好きになる味、と言えるかも知れません

以下、ネタバレを含みます。

スタートレック・ピカードは、惑星連邦とピカードの「再生」の物語

スタートレックの正規の時間軸の物語(プライム・タイムライン)は、ネメシス(2002年)をもって一旦終了となっていた。その後、ロミュラン帝国が滅亡した時点で、クリス・パイン主演のカーク船長の物語(JJエイブラムス監督)にタイム・スリップし、別の時間軸の物語(ケルヴィン・タイムライン)が始まっていた。

クリス・パイン主演のカーク船長も良いのだが、正規の時間軸の物語がロミュラン帝国滅亡で唐突に終わり、別の時間軸の物語が強制的にスタートしたことにはある種の悲しみを感じていた。

例えるならば、古いおもちゃが壊れたので床に投げ捨てられてしまって、みんな新しいおもちゃで遊び始めたかのような感じだ。

古いおもちゃの「その後」は、18年近く見向きもされなかったわけだが、スタートレック・ピカードは、ロミュラン帝国滅亡後の世界を描いている。まさに、壊れたおもちゃをもう一度拾い上げて、一つ一つ丁寧に修復していこうというようなものだ。そういう意味では、ファン待望の物語であると言える。しかも、シリーズのタイトルがTNGの伝説的な艦長の一人、ジャン・リュック・ピカードとくれば、期待しないわけにはいかない。

しかし、この一つ一つ修復、という作業は決して容易ではない。ロミュラン帝国滅亡、ハイ終わり!で投げやりに終わっていたものに、もう一度魂を吹き込むというプロセスは、まさにスタートレック自体の「再生」をかけたプロジェクトのように思う。

重苦しい雰囲気で物語は始まる。理想的な未来社会を体現した「惑星連邦」はその理想を失って形骸化し、ピカード艦長も幸福なようで幸福でない隠居生活を送っている。

スタートレック・ピカードは、理想を失った惑星連邦と、自分を見失ったピカード艦長を再生させることで、スタートレック自体を「再生」させようという試みを行っている。だから、旧来のスタートレックのような明るい冒険譚、というわけではなく、スタートレックを見たことがない人がこれを見ても、何のこっちゃ?いうふうになるだろう。

ジャン・リュック・ピカードの悪い面

シーズン1の前半では、ピカード艦長の悪い面ばかりが目立っている。エンタープライズを率いた理想的な艦隊士官としてのピカードの姿は影を潜め、(X-MENのプロフェッサーXのようなカリスマ性もなく 笑)、頑固で独善的で、すぐマウントを取ろうとする嫌な爺さんだ。

「ピカード艦長ってこんな人だっけ?」

と思ってみていた。要は、簡単に無茶ぶりするパワハラ上司である。ライカー副長やデータ少佐らが優秀すぎるが故に、ピカードの気軽な無茶ぶりをうまくこなしてきたんだなぁ・・・庶民にこの上司は無理!とも思っていた 笑

実際、劇中の登場人物たちにもピカードはけっこう嫌われている設定になっている。

挙句の果てに、ディアナ・トロイにも「エンタープライズにいたころだったら言わなかっただろうけど・・・」と前置きされたうえで、ボロクソに言われる始末 笑

そういう意味では、ライカ―やトロイら他のスタッフも、きっとピカード艦長の悪い面を理解しながらも、それを補完して良い面を伸ばすようなスーパーサポートをしていたんだな~というような、TNGの裏話的な脚本にもなっている。

リオス船長に罵倒され、「たまに不機嫌になるんだ」と言い訳をするピカードに、ライカ―は「そういう言い方も、ありますね」と答える。決してピカードの否定や批判をしない。これこそが、ライカ―の真骨頂だ。トロイのアドバイスも、カウンセラーとして神がかっている。

セブン・オブ・ナインと生み出すシナジー効果!

スタートレック・ピカードの見どころの一つは、スタートレック・ヴォイジャー(VOY)のキャラの薄い面々の中で一人気を吐いていたカリスマキャラ、元ボーグのセブン・オブ・ナインが登場することだろう。ピカード艦長とセブン・オブ・ナインの絡みは、非常に興味深い相乗効果を生んでいる。この相乗効果は、二回味わいがある。

一回目は、セブンが転送で目玉くりぬき女を殺しに戻るところである。ピカードに、「復讐のために人を殺すのはやめろ」と諭され、いったん船に戻るが、ピカードには内緒であとでこっそり殺しに戻るというシーケンスだ。

ピカードは銀河に慈悲が存在すると思っている。その夢を、壊したくない。誰かが希望を持っていないと

おぉ。理想郷で理想を語るピカードVS現場を這いずり回ってきたセブン。ピカードを立てたうえで、ああいう男が必要だ、といいつつ自分は汚れ役となる。ピカードすら包み込む、セブンの器。この時点で、セブン・オブ・ナインはピカードを超えたのでは!?とすら思ってしまった。

二回目は、最終話で「もう二度と死ぬに値するだけで殺さないこと」を守れなかった、と言うところ。一回目のシーケンスがあるからこそ、意味のある台詞となっている。セブン・オブ・ナインの人間性の追求は、ジェインウェイやチャコティがいなくなっても続いている。

ピカードが投げ出してしまった、連邦に見捨てられた人々を守るという任務を、セブン・オブ・ナインは続けてきた。そして、それは正義感や使命のためではなく、「もはや習性だ」と言う。人格は言葉ではなく行動で形作られる。人を助ける行動を「習性」と言ってしまうことに、セブンは既に人間以上に人間らしいと言えるのではないだろうか。

「道具は使う者によってその意味が変わる」という陳腐な言葉を高尚なドラマへ昇華させる

前半では、エゴイスティックで嫌なジジイだったが、ライカ―とトロイと会ったころからピカード艦長は急速に輝きを取り戻していく。

そして最終話。破壊者として有機生命体を絶滅させようとしたソージに、そうしないという選択肢もあるということを粘り強く示す。そして、「だから君を助けた。今度は君が救ってくれ。君を信じている」

それよりも数話前に、機械生命体が人類を滅ぼすならば、機械生命体は悪いものなのだろうか?と問われた際、「道具は使う者によってその意味が変わる」という割と陳腐な台詞を、ピカードは述べていた。良いものにも、悪いものにもなる、と。

それを身をもって教えるために、「君に選択をさせた。破壊者になるかどうかは、君次第だった。常にそうなんだ」というピカードは、ライカ―が思わずニヤついてしまう往年の姿のままだ。

父が子に、「こうするのが正しいから、こうしなさい!」と強制するのではなく、「AだけでなくBという方法もあるよ。君は良心に従った選択をしてくれると信じている」というこのスキームは、ヤンキー厚生にも使える万能性を秘めていると思った(笑)。まさにピカード艦長は、プロフェッサーXよりも偉大だよ!

データ少佐と死生観を語る、高尚で上質なる時間

シーズン1のクライマックスともいえるのが、「高度なシミュレーション空間」でのピカードとデータの語らいである。

映画ジェネレーションズのラストでも、ピカードは死生観を語っていた。曰く、「人生には限りがあるからこそ、人は懸命に生きるのだ」

今回は、それよりも遥かに長く尺を取って、データ少佐と死生観を語り合っている。上質な調度品と、静かな雰囲気の中での両者の哲学的な語らいは、何度も繰り返し見たくなる至高の時間だ。

映画ネメシスで、データは別れを惜しむ間もなく死んでしまった。だから、スタートレック再生をかけたこの作品の中で、しっかりと時間を取ってデータとの別れの時間を過ごすというのは、なくてはならない要素だったと思う。

そして、人間性を論理的に考えようとするデータと、それに応えるピカードとの掛け合いは、他のシリーズには見られないTNGならではの醍醐味である。

死ぬべき運命が、人の命に意味を与えているのです

この(機械仕掛けの)蝶は、永遠に生きるでしょう。それゆえに、本物の蝶だとは言えないのです

それが、データが見つけた答えだった。

その他、全体を通して良かった点

映像が、とにかく綺麗である。ゆったりとした雰囲気と相まって、詩的な雰囲気に仕上がっている。映像美のクライマックスは、タルシアーの艦隊の前で開くランの花のシーンだと思う。

ジャン・リュック・ピカードの麦人をはじめ、往年の声優陣が揃っていたこともとても良かった。

そして、沖縄デイストローム研究所や、人事部のタナカ?など、日本関連ネタが出て来る。ハリウッドは近年、チャイナマネーに席巻されて中国への忖度が激しいが、そんな流れの中で珍しい徴候だと思った。

ちなみに、DS9のシスコ司令官の勤務歴があったことから、沖縄には宇宙艦隊の施設があることは既出である。

タルシアー(ジャット・バッシュ)のオウ准将を演じたのも、トミタという日系人のようだ。存じ上げない女優さんであったが・・・

一方でところどころ目に付く脚本のマズさ・・・

今まで、主にスタートレック・ピカードの良い点について述べてきたが、シリーズを通してところどころに脚本のマズさが目立っている。

全ては指摘しないが、一つだけ挙げるとすれば、エルノアが再生キューブでフェンリス・レンジャーにSOSを送ってからのシーケンスである。割とあっさりとセブン・オブ・ナインが救援に駆け付けるわけだが、かなり距離があったはずの再生キューブにすぐ現れるという点も見ていて違和感を感じたし、そもそも侵入困難な再生キューブにどうやって侵入したのか?どうやってすぐにエルノアの位置を特定できたのか?など違和感いっぱいだ。

セブンは元ボーグなので、キューブへの侵入はお手のものだったとかエクスキューズは成り立つが、このような「ご都合主義」がかなり目立つ脚本となっている。他にもいっぱいあるが、これ以上は言うまい。

といいつつもう一つだけ(笑)。墜落したボーグ・キューブは、スターウォーズ・スカイウォーカーの夜明けのデススターのシーンの既視感があるが、入り口すぐのところにセブンたちがいたり、タルシアーの隠れ部屋があったりするのでスケール感がない。

あと、キャラクターの感情表現が上手くない。なんというか、不自然でやや過剰に感じる感情表現になっていると感じるところがある。そのせいで、ちょっと情緒不安定に見えてしまう。これは、役者の演技というより、脚本の問題だろうと思う。

今後の展開で期待すること

最低シーズン3までの作成が予定されているスタートレック・ピカードであるが、TNG、DN9、VOYというほぼ同時代のシリーズの総括となって未来につなげるような物語になって欲しいと思う。

ウォーフやラフォージなどの、旧エンタープライズのクルーはきっと出演するだろう。ガイナン(ウーピーゴールドバーグ)のシーズン2への出演は決まっているようだ。年老いたピカードと、Q連続体との絡みもぜひ見てみたい。

あと個人的には、ピカードを嫌っていたDS9のシスコ司令官や、偉大なる小悪党であるクワークの出演も期待したい。クワークは、既にシーズン1で名前への言及はあった。エンタープライズの転送係からDS9の技術チーフに出世した苦労人オブライエンも、その後どんな人生を歩んでいたのか少し興味がある。ピカードを追い抜かして提督になったジェインウェイは、セブンを放っぽらかして、どこで何をしているのだろう?

そして最後に気になるのは、現在、並列放送中であるスタートレック・ディスカバリーとのクロスオーバーがあるのかどうかということである。ディスカバリーは時間を移動する物語のようなので、設定としてはクロスオーバーが十分に成り立つ。私のお気に入りの、フィリッパ・ジョージャウとピカードのコラボレーションも是非見てみたいところである。





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