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【AI×法】第1回:AI新時代の幕開け! 技術革新がもたらす不安と期待

ChatGPTなど、最近、何かと話題のAI技術。

直近では、G7のデジタル・技術相会合でも取り上げられました。

このAI技術、一体、どのような法的問題があるのでしょうか。

同じ知財分野でも、コンテンツ分野を得意とする弁護士・仲條と、IT分野を得意とする弁護士・江嵜が、それぞれの視点から、ざっくばらんに語り合います。

 King&Wood Mallesons法律事務所 
弁護士 仲條真以(第一東京弁護士会所属)
弁護士 江嵜宗利(第二東京弁護士会所属)


1.自己紹介

江嵜:仲條先生は、最近、どんな案件が多いですか?

仲條:私はM&Aや破産、労働、訴訟案件などをよく扱っています。江嵜先生はいかがですか。

江嵜:私は、ITや規制法、訴訟案件などが多いですね。時々、個人情報関係なども扱っています。先生とは、あまりジャンルは被らないですが、知財分野については、先生も私も、お互い経験がありますよ。

仲條:そうですね。ただ、知財の中でも扱っていた結構内容は違います。私は以前所属していた事務所で芸能関係の仕事を扱っていたので、著作権や肖像権、舞台をやるときの上演権や原盤権といったいわゆる著作権法の中心的な内容を扱っていました。

江嵜:私は、もともと趣味でプログラムなどを組んでいたので、技術周りが多いです。プログラムの著作権や、特許権などの案件をやってきました。知財と一口に言ってもかなり違います。

仲條:ところで、話を強引に今回のテーマに戻しますが。

江嵜:はい、AIの話ですね笑。

2.クリエイターとAI

仲條:私の周りには比較的漫画家やイラストレーターといったクリエイターがいるんです。なので、画像生成AIがネットで話題になっていたときに、当事者である彼ら彼女らはかなり心配に思ったようなんです。

江嵜:というのは?

仲條:画像生成AIがある描き手のイラストをひたすら学習する。そうすると、その描き手のタッチで、例えば何かテーマを与えられたときに、その描き手にきわめて類似した作品を生み出すことができる。

江嵜:なるほど。

仲條:もちろん、描き手は海賊版や違法アップロード、無断転載と戦ってきているわけで、これらは作品にただ乗りされて著作権侵害をされて損害を受けます。AIを使用して絵が描けるということになると、例えば、まったく描く知識や技術がない他人が、AIに指示して、自分が考える絵を描かせることができる、ということになります。つまり同じように自身の技術や経験にただ乗りされて、損害を受けることがあるといえます。これは、クリエイターにとってみれば非常な脅威だと思うんです。

江嵜:確かに。例えば二次創作などでは創作する側でも技術を習得し時間をかけるわけだけれども、AIを使えば、場合によっては一瞬で似た作品を作れてしまうということですね。

仲條:そうです。イラストは顕著ですが、小説や漫画でも技術が発展すればするほど、学習機能が向上すればするほど、同じことが起こると思います。

江嵜:ChatGPTに代表される対話型AIでは、一定の質問や指示を出すとAIが回答するというもので、例えば一つのテーマで小説を書いてと指示すれば、実際に創作された文章が出てくる。現状では、あまり長いものを作るのは得意ではないようですが、今後技術が発展すれば、長編で内容の充実した作品が作られるかもしれない。それこそ、村上春樹「風」の長編小説を自分の好きなテーマで書いて、と指示すれば、あたかも、本人が書いたようなクオリティのものができ上ってしまうこともあり得ますよね。

仲條:その通りだと思います。そのために、AI学習の規制をするとか、学習素材となった作品の著作権者への利益還元、AIが作成した著作物についての取り扱いについて議論されるようになってきました。これは、外国でも同様です。

江嵜:ちょうど4月29日と30日のG7のデジタル・技術相会合でもAIの話が出ていました。

仲條:そちらでは著作権というよりは、人権やプライバシーの観点からの議論がされていましたね。

 

3.規制の動きについて

仲條:外国では、EUは規制新法を検討するということでした。もともとEUは個人情報の取り扱いに厳しいですから、当然の方向性のように思います。

江嵜:実際にイタリアでは、ChatGPTの使用が一時禁止されました。また、アメリカでは司法省など複数の規制当局が、監視を強化する方針を発表しています。カナダでは、ChatGPTの開発元に対し、規制当局が調査を開始したという報道もありました。

仲條:これに対して日本はデジタル化の遅れから、開発・活用については推奨するスタンスですね。

江嵜:そうですね。私自身も、ITは半分趣味なので、AI技術の発展には個人的にワクワクして見守っています。他方で、今後、規制をすることで技術発展が阻害されてしまうのではないか、という心配もあります。

仲條:開発サイドからすれば、どのような規制がされるのかという点は重要だと思います。もちろん、私は周りにクリエイターが多いので、クリエイターサイドからすれば、なんの規制もなく野放しにされてしまうとなれば、著作権侵害が問題となるのではないかということもありますし、技術発展をうまく利用するという良い点もある一方、場合によってはAIで一定のクオリティの作品が作れるということで仕事がなくなってしまうといったことも出てくるわけで、損害がどんどん大きくなってしまうという恐ろしさがあります。そういう観点から、なんの規制もしないということは問題ではないかと思うところです。

江嵜:まさに利益対立の調整が問題となる場面ですよね。

 

4.著作権法との関係

仲條:日本の著作権法上は、現時点ではAIの学習については許容されるという解釈が十分成り立ってしまう状態だと思うのですが。

江嵜:著作権法30条の4第2号の「情報解析」[1]ですよね。この条文は、AIの学習などを適法化するために作られた条文ですので、おっしゃる通り、AIの学習については、広く適法になる余地があると思います。ただ、一応、例外もあって、著作権者の利益を不当に害するような場合には、同号は適用されませんので、絶対常に適用される訳ではない、という点には注意が必要です。

仲條:AIが作った作品についても、著作権が問題になりますね。AIが、既にある著作物を学習して、それに似た作品を作成したのであれば、元の作品の著作権侵害にもなり得ます。

江嵜:そうですね。

仲條:著作権が侵害されているといえるためには、類似性と依拠が必要になりますよね。さっきの話ではないですけど、この人の画風でこのテーマで作品を描いてというときに、学習した著作物に依拠したといえるのか、問題になりますね。

江嵜:そうですね。ここは著作権法になじみがない方には、分かりにくい点かもしれませんので、簡単に説明しましょう。要するに、著作権法上保護されるのは具体的な表現であって、アイデアは保護されないということです。例えば、「対立する両家の娘と息子が恋愛関係になり非業の死を遂げる」というのは、アイデアです。アイデアは、著作権法上保護されませんので、他人のアイデアに依拠して作品を作っても、著作権法上は適法です。他方、アイデアが具体化され、「おお、ロミオ、あなたはどうしてロミオなの」といった表現になれば、著作権法上、保護の対象となり得ます。こういった表現に依拠して似た作品を作れば、著作権侵害になりえます。じゃあ、画風は何なのだと言えば、画風単体は、通常はアイデアだと思います。なので、画風だけは他人の作品に極めて似ているが、実際に描かれた内容=表現は全くのオリジナル、となると、著作物に依拠しておらず、著作権侵害が成立しないという結果になります。

仲條:今の説明のとおり、単にアイデアを利用したということになれば、著作権侵害にはならないわけですが、この判断がされるにあたっては、学習のメカニズムといったところもかかわってきそうな感じがします。

江嵜:結局、AIの仕組み次第になると思います。極論、学習した画像を右から左に出力するだけのような仕組みであれば、依拠はあると思います。他方、学習した画像のタッチや画風だけを学習して、まったく新しい構図の画像を出力するのであれば、依拠が認められない可能性もあると思います。ただ、AIの仕組みは非常に複雑ですので、その判断は、非常に難しいでしょうね。

仲條:今少し話しただけでもいろんな面からの法律上の問題があることがわかりますよね。少なくとも今ある法律は、AIやAI学習について完全にカバーするものではないわけですから、今後も議論が必要になってきます。生成AIについては、5月19日から始まるG7広島サミットでも議題になるようなので、そちらの議論も含めてまた江嵜先生と議論できればと思います!

江嵜:そうですね、ぜひお願いします。

 


[注釈]

[1] 【著作権法30条の4 (抜粋)】

著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

   (中略)

二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合

   (以下略)

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