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それは罠です(ウサギノヴィッチ)

「マルハタリラ」
 ぼくの友達が、薬で捕まったときにぼくはちょうど彼と電話をしていた。彼は、よくその言葉を使っていた。
──マルハタリラが今日うちにやってきてさ、掃除してくれるのよ。あの子気が利くじゃん。だからさ、本当に助かるわぁ。
 話の途中で、カシュッていう音が入るきっとタバコを吸っているのではないだろうかと思う。ぼくは、彼の口から出た「マルハタリラ」の意味を尋ねることなく、淀みなく彼と話を続ける。
──そうなんだ。優しい人なんだね。大切にしな。
 ふぅと煙の吐く音がすると、彼は大きくため息を吐く。
──でもさ、マルハタリラのことって案外、俺は大切にできないないんだよね。先月も、十万円おろしちゃったし、なんだかんだ、金目当てな部分もある。というか、マルハタリラがお金な部分があるから……。
 ぼくの中の「マルハタリラ」のイメージが崩れていく。「マルハタリラ」は人間ではなかったのではないだろうか? ましてや彼の彼女みたいな存在だったのではないだろうか?
──あのさ、マルハタ……。
──あいつ、南アフリカに隠し金山持ってて、とりあえず金持ちなんだよ。っていうか、あいつが金な部分があるんだね。
──ふぅん。
 ぼくはとことん間が悪い。どこでいつ買ったか分からないノートにぐしゃぐしゃな円を書き、家を描いたりして、彼の話の隙を狙っている。
──あっ、すいません、だれかきたみたいなんで、電話切りますね。
──わかった。
 全然、納得しないまんま話は終わってしまった。

 翌日、彼は三分くらいのニュースになってテレビに出ていた。彼は相当薬をやっていたらしい。警察への供述へも──マルハタリラが心配で眠れない。あいつは日光に浴びたら大変なことになる、と言っていた。
 警察は彼が逮捕された当日にやってきた。内容は彼と最後に電話したのがぼくだからということだからだ。ぼくはありのまま喋った。彼は、テレビでも言っていたように「マルハタリラ」について語っていたと正直に言った。ぼくの証言を受けて持っていた、ボールペンで頭を掻きながら顔を見合わせた。
──えぇとね、まぁ、本当は、民間人に捜査情報を漏らすのはいけないんですけど、「マルハタリラ」って一体なんなんだ? っていうことが問題になってまして。一種の妄言なら、それでいんですが、彼の話ぶりからすると、実際に存在しそうなものなんですよ。他の人にも当たっている途中なのですが、他の人も同じように「マルハタリラ」の話をするんですよね。なので、うちも困っているんですよ。
──そうですか、としか言えない部分があり、そういうことで話をクローズさせていく。捜査員は去っていった。
 ぼく個人で「マルハタリラ」について調べてもいいのかもしれないけど、なんかあんたちゃぶるな気がする。
 なんか力が出ないなぁなんて思ったし、思考能力も落ちてるから、昼ごはんを食べていなかったのでご飯を買いに行こうと思った。
 コンビニは歩いて五分くらいのところにある。最近は、過剰なくらいに安売りセールのPOPが店内外に貼られているなぁと思っていると、その中に、「マルハタリラ」と縦読みしたら書いてあるPOPを見つけた。ぼくは自分の眼を疑った。自分が狂っているのではないかと思うようになった。
 そこのコンビニ行くのはやめて、もうちょっと先のあと十分くらい歩くところに行くことにした。そこは道幅が狭く、車も入りにくいコンビニで、店は広いのに誰もいないコンビニだった。そこで、牛カルビ弁当を買おうとしたときに、外人の店員さんが女性で、丸畑リラと書いてあった。もうそこでも、自分は拒否反応が出てきてしまって、──キャンセルで! と言って店内から出てきてしまった。
「マルハタリラ」なんなんだろう、この自分に付き纏われている感じは。自分はどこにいけばいいのかどこに逃げればいいのか。どこへ?
 どこへ?
 道に出た時に車がちょうど通過する時だった。
 ぼくは轢かれた。

──ニュースです。本日、十二時過ぎ。T区の路上で交通事故が起きました。男性は近くのコンビニエンスストアから出てきたところを轢かれた模様です。なお、遺体を解剖したところ薬物中毒者であることがわかりました。検察は被疑者死亡のまま書類送検しました。
 次のマルハタリラです。

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