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「LIVE本番」

それは忘れられない光景だった

暗幕が開くのと同時に
目に飛び込んできたのは
お客さんのその数

100人スタンドのキャパに
もうこれでもかという位の人が
隙間無く立っていてこちらを観ていた

え?

あまりにも
そのお客さんの多さに
気圧され、驚いた俺は

最初の曲を始める前の
掛け声を忘れていた

となりにいたベーシストが近寄り
「__カウント」
と、目配せと声をかけてくれたお陰で
我に返った俺は

「ワン、ツッ、スリー、ゴー!」

お決まりの掛け声と共に
この時代に流行ったアーティストの
疾走感ある歌から歌い始めた

歌いながら良く見ると
前列は友達や知人で
お陰様というか何というか
ノリノリにハシャいでくれていた

マイクスタンド前の
フロントスピーカーから
自分の声が聴こえる
そのお陰で力まず歌えている

仲間の演奏も
水の流れのように
自然な流れで音を奏でている

1曲目が終わると休み無く
すぐ2曲目に入る
いつも以上に
気持ちの良いくらいの感覚の中
音の中で照明と共に揺れていた

最初、音楽にノっていたのは
友人達だけだったが
曲が進むにつれて
他のお客さんも徐々にだが
思い思いの動きでノってきていた

すごく気持ち良い
LIVEってこんなに気持ちが良いもんなんだな
そう思って歌うと抑揚が増した

すでに汗が額から流れていたが
なんにも気にならなかった

2曲目が終わり
3曲目に入る…!?

その刹那
リズムギターの音が止まった

驚いて見てみるとギターの弦が切れたようだ
俺は演奏を一旦止めようとしたが___

リードギターがリズムギターのパートを
弾き始めた
ナイスアシスト!

少しの※モタりはあったものの
リードギターが機転の利いた
咄嗟のフォローをしてくれたお陰で
そのまま3曲目に入れた

リズムギターは弦を張り替えるため
そのままギターをもったまま
一旦ステージ袖に捌けていく

曲の後半に差し掛かった頃
リズムギターが戻り、再び参戦
その手には違うギターを手にしていた

※グレコのギターが
※フェルナンデスのギターになっていて
弦を張り替える時間を懸念した
楽屋にいた他のバンドマンが
貸してくれたのだと何となくわかった

4曲目、5曲目が終わり
ラスト曲の前にMCに入った

「今日は来てくれてありがとうございます
楽しんでますかー!?」

そうマイク越しに御礼を告げると
前列が応援なのかヤジなのか飛ばしてきて
その度ハウス内に多少の笑いがおきた

応援でもヤジでも
こう言うの助かるなと思いながら

「初めてのLIVEで持ち時間30分、ちゃんと演奏が出来るかな?なんて思ってたけど、あっという間で、気付けば次の曲で最後です」

ほんとかどうかは定かじゃないけど
えーっと残念な雰囲気のトーンで
友人達が声を張る

俺は笑いながら
「今日はクリスマスイブ
この後みんなはきっと素敵な夜を
すごすんだよね?
その前に、この曲で暖まって貰えたら
嬉しいです」

相変わらず友人達は
クサイだの、うぇーいだの
囃すような感じで返してきて
その度あちらこちらでクスクス笑いが起こる

MCをしているその間に
ギターを貸した他のバンドマンが親切に
ギターの弦を張り替えてくれたのか
ステージ袖で仲間のリズムギターと
ギターを交換していた

慣れてるギターの方が弾きやすいし
人のギターは気を遣う筈だから
本人のギターが戻り
ラストに間に合って良かった

今日は最高だな
全部が嬉しかった
このライブハウスも、お客さんも、スタッフさんも、タイバン相手も、ちょっとしたアクシデントも、この時間も、この雰囲気も、そして仲間達に出会えてLIVE出来たことも。

俺は仲間みんなの顔を
ひとりひとり見ながら
アイコンタクトをする
そして、最後にシンセの女の子に目を合わせ
笑いかけ、頷いてみせる

シンセの女の子はニコッと返し
ラスト曲に入った

___🎶♪🎶♫

綺麗な旋律が
アンプを通して
ハウス内に響く

今日演奏した5曲に比べると
かなりスローテンポで
他の楽器隊の音もシンプルな演奏になる

どちらかと言えばポップな感じにも
聴こえるかも知れない
でも、最後に相応しい曲だと思った

うん、
この曲で良かったな

お客さんのニコニコした顔を見ながら
そう思った
騒いでいた友人達も流石に
静かに揺れていて
フロア全ての人が揺れているのが見える

この状況を見ていたら
なにかが胸の奥から溢れてきて
涙が出そうになった

途端に声が少しうわずってしまい
焦りそうになった俺は
このLIVEラストの曲だぞと
何かで緩んでしまった感情を抑えて
すぐに気を引き締めた

歌いながら
恥ずかしさ混じりに
仲間をチラッと見たら
みんな
おいおい、って感じに笑ってた

原曲では最後、楽器隊全部が
合わせて一斉に終わるのだが
今回はシンセサイザーのみで終わる感じに
仕上げていて、ラストを女の子に飾って貰った

最後のピアノ音を鳴らしたあと
照れくさそうに笑っていたのを覚えている

歌が終わる
演奏もとまる

照明と漂う熱気と少しの静寂

パチ、パチ、パチパチ
バチバチバチ____________________

お客さん達の拍手が
この空間に鳴り響いた

みんな楽器を置くとステージ前に並び
マイクを通さず、来てくれたお客さんに
向かって一斉にお礼の挨拶をした

「ありがとうございましたー!!!」

お客さんから拍手と声援が飛ぶ
たくさんの人の手が頭上高く
ひらひら揺れていた

目の前の光景を
こんな楽しい最高の瞬間を忘れないように
この目に焼き付けた

そして
左右からゆっくり
暗幕は閉じられ

まだ鳴り響く拍手と声援の中

バンド仲間6人の
そして俺自身の
初LIVEは終わりを告げた。

「LIVE本番」終わりのある物語6                              ~過去~


拙い文章力と表現ですが
終わりのある物語6を読んで下さり
ありがとうございます。

前話にいいねを下さった皆様
ありがとうございました。

人物名、店名、その他もろもろに関してはフィクションを混ぜながら書いています。

※グレコ、フェルナンデスはギターのメーカー
※モタリ、モタる テンポが遅くなる事

最近、急に寒くなりましたね
寝る時は締め付け感が嫌で
下着で寝ているのですが
やっぱ、寒いですね笑

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