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フィリピン音楽と僕 2 - CDを売ってみよう

カバーバージョン

約二ヶ月に一度くらいのペースでマニラに渡航していた僕は、一度行くと大体2、30枚くらいのCDを買って帰っていた。
アーティストのオリジナルアルバムもあるし、コンピレーション盤(複数のアーティストの作品をあるジャンルや企画に沿って選曲したもの)もある。
ほとんどが良いカバーが収録されているものばかりだった。

フィリピンではカバーバージョンが多い。洋楽ヒットは、新旧にかかわらず、国内アーティストによって演奏(歌唱)される。ライブハウスやナイトクラブでは、客を楽しませるため、ウケの良い(よく知られた)曲をレパートリーにされることはよくあるが、レコーディングアーティストがオフィシャルにCD化しているケースもある。

カバーについていうと、海外、特に日本のリスナー・音楽ファンからは若干ウケが悪いようだ。
これは親しくしていた中古レコード店の店主の言葉だけれど、
フィリピンには民族的独自性がないからね。
とのこと。
つまりオリジナル曲が少ない、あってもどこか洋楽っぽいものが多い、ということなのだろう。

僕は米国のソウル / R&Bを中心に聴いてきた。
他のジャンルは詳しくわからないのだけれど、ソウルミュージックはカバーバージョンがかなり多い。ヒット曲を他の有名ミュージシャンがカバーしたり、時には同時に競作のような形でリリースされることも。
だから、僕はカバーバージョンが多いことには比較的アレルギーはなかった。
作曲者は誰か、最初に歌ったのは誰か(こういう意味での「オリジナル」ということは、あると思う)、ということはもちろん関心を持つけれど、誰のパフォーマンスなのか?ということも重大な関心時だ。
つまり、楽曲(メロディ)自体の良し悪しを問う、作曲者寄りの評価とは別に、シンガーのパフォーマンスを独立させて評価しようとすること。
そういう意味では、フィリピンは欧米型、R&Bっぽいポップ音楽へのスタンスがあるのかも知れない。
例えば、映画やドラマなどでテーマソングとして使われ、人気が出たヒット曲(オリジナル・カバー曲含め)があると、ステージなどで、メジャーシンガーが堂々と彼/彼女のバージョンを披露したり、さらにはレコーディングして販売されたりと。そしてどちらもヒットチャートに登ったりするから面白い。
リスナーもそういうことに否定的な反応はあまりないようだ。

そういうことで、フィリピンではカバーソングのアルバムもたくさん買えたのでごっそり買い込んで持ち帰っていた。
楽曲はよく知っているので、もっぱらシンガーのパフォーマンスを聴くためだ。

気に入る人がいるかも

2000年代前半、Youtubeもできたばかりで、デジタル配信も模索段階の頃は、まだ、曲名・アーティスト名で気軽にネット検索・共有できる時代ではなかったので、友人でも、遊びに行った時CDを持って行って、こんな曲なんだけど・・・と紹介していた。
それはそれで有意義な時間だったけれど、僕のような音楽バックグラウンドを持つ人で、フィリピンのアーティストのカバーバージョンを面白がる人がいるかも知れないな、と思うようになった。
クラブDJをしていた知り合いに、よく知られていないんだけどカッコいい別バージョンを見つけてプレイするのに血道を上げている人がいて、彼なんかが今度行く時1枚買ってきてよとリクエストをもらうこともあった。

それじゃあ、日本中にいる音楽ファンのことを考えたら気にいる人も結構いるかもね。
ということになり、渡航時には自分用とは別に、販売用を買わないとと思うようになった。

ヤフオクで教わった

しかし、売るといってもどうやって?
という問題が早々に出てきた。
今のようにeコマースが発達していない頃。思いついたのはレコード店に卸すというやり方だった。しかしツテもない、大量仕入れするほどの資金もない。返品とかの規定はどうやって???
どこかに店舗を借りてレコード店を作るか?
いや、とんでもない、そんなお金どこにある?
思いついたのが発足してまもないヤフオクだった。

まだ、業者が大量出品するというよりも、個人がフリーマーケット的に持ち物を出品したり、個人マニアが掘り出し物を出品しているという印象だった。僕も画像を撮り、楽曲情報を入力して販売してみた。
売り上げはまあまあ。
飛ぶように売れる、というわけじゃなかったけど、出品枚数がそれほど多くなかったせいもあり、そこそこ売り切ることができた。

それからは、全部なくなればまた渡航して買い付け、ヤフオクで売り切ればまた渡航・・・
というサイクルがなんとなく出来上がった。

詳しく覚えていないが、2003,4年頃だったと思う。

ありがたいことにリピーターがつくようになった。
次回渡航時にはこんなCDを買ってきて。こういう曲が収録されているCDはあるの?というリクエストもいただく。

なんだか本格的になってきたぞ?とほくそ笑んでいる中、
こういうアーティストの新譜が出るはずだから是非!というリクエストや、タガログ語曲のリクエスト、古い古いフィリピンの名曲のリクエストも舞い込むようになり、僕よりも何倍も知識の多い、聴き込んできた年数も長い人たちともやりとり出来るようになった。
ここから、次第にタガログ語曲、フィリピンで作られた曲にも触手を伸ばし始めた。
メロディが非常に美しくよくできている楽曲も多く、もちろんシンガーのパフォーマンスもピカイチな楽曲も多かったが、いかんせん、日本でフィリピンに興味がある人との繋がりを持たない僕はそれが売れるのかどうかに自信がなく、不良在庫になるのも心配だったので、タガログ語曲のアルバムはもっぱら自分専用に購入するに留めていた。
けれども、お客さんのリクエストに応えるがままに仕入したものは、カバーアルバムよりも売れることの方が多くなり、
そうか、僕が知らないだけで、既存(僕の知るところの)のポップジャンルだけでなく、現地産の音楽を好きな人もたくさんいるんだな、ということに気づき、自分でも楽しみつつ、販売用に買い付けもするようになった。

この時のフィリピン音楽の先輩方とのやりとりでずいぶんいろんなアーティストを知ることができたし、フィリピンの音楽について幅広い話題を提供していただくことも多かった。
それは、後の自分自身に大きく関与しているので、いつまでも感謝の気持ちがある。

腹を括らないと - 背中を押したプロの中のプロの一曲

ヤフオクでは順調に売れてはいたけれど、如何せん枚数がそれほど多くないし、販売にとられる時間もバカにならない。
加えて、自分で毎度毎度飛行機に乗って買い付けしていたので利益率は最低だ。数十枚売っても飲み代がでるかどうか。。。だ。
しかしこれ以上売り上げを上げようと思うと、本腰を入れて取り組まないといけない。日本でしていた仕事も辞めなければ。。。
思い切れない僕は、若干ネガティブな思考にもなっていたんだと思う。
もし売れなくなったら?
フィリピンのアーティストは優秀な人が多いけど、それは既に僕が知っているだけで大体カバーできてしまっていて、もうこれ以上いないのかも知れない。。。
そんな根拠のないことを考えながら逡巡していたのだけれど、楽曲を聴く中で背中を押してくれた思い出深い曲がある。
それが
Bituin Escalanteという女性シンガーが歌うKung Ako Na Lang Sanaというシングルだった。

この曲、オーストラリア在住のフィリピン人アマチュア作曲家が作った曲で、2003年に新人作曲家・新曲のためのコンペティションに出品された曲。
美しく哀愁を帯びたメロディ展開で、いかにも現代のOPM(フィリピンポップス)の王道パターンと言えるもの。
僕は、極個人的にだけれど、こういう楽曲に、80年代のブラックコンテンポラリーにちなみ、コンテンポラリーOPMと呼ぶようにしている。
メロディも素晴らしくよくできているけど、圧倒されたのはこのBituin Escalanteというシンガーの技量だ。
一番と二番で、ファルセット→実声と声質・歌い方を変えているのだけれど、音圧が変わらない。これはボリューム調整などで機械的にできることではなく、シンガーの技量によるものだ。こういうことが自然とできるシンガーはそれほど多くない、というかいろんな楽曲を聴き続けて時々出会うくらいだ。僕はこういうシンガー、作品と出会う時、子供の頃から音楽を聴き続けてよかった、と心から思う。しかもピッチ(音程)も、強弱の表情づけも完璧だ。

こういう曲は絶対多くの人に聴かせるべき。
たとえフィリピンのCDが思ったほど売れなくて、またアルバイト暮らしに戻ることになっても、この曲を紹介せずに後悔するくらいなら、やった方がいいだろ?
と、本当に根拠のない勢いに乗せられたような具合だ。

今だったらブログに書いて、Youtubeのリンクを貼れば済む話。冷静に考えれば、好きが高じただけの勢い任せで、本当は、ビジネスとしてはダメな決定なのかも知れない。多分そうなのだろう。
けれどもそれを押してまでやってみようと思わせるだけのものがこの曲にはあった。少なくとも当時の僕にとっては。

本格始動 - HPの立ち上げと輸入契約

次の記事では自前のHP(オンラインショップ)の立ち上げから、フィリピンのレコード会社と輸入契約を結ぶに至った経緯など。。。

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