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☆☆ 二つめの星    - お金のない世界 ユートピア

 地球より一回り大きなこの二つめの星は、限りなく完全に近い生命の星です。楽園が星全体に広がったような感じで、これといった短所が見つかりません。
 資源は無尽蔵にあるかのように豊富で、土地は 肥沃ひよくで、極付近を除けばどこでも気候はだいたい穏やかです。どんなところの水も空気も澄み切っています。
 外見だけなら地球の人間そっくりなこの星の人々は、生まれつきの温厚な性格で延びた平均寿命はなんと約200年、しかもその大半を若く元気な細胞の状態で生きます。
 天性の優しさと社会全体の優しさの中にあって、授かった生を大切に生き抜きます。
 体は強く、病気といっても微熱が出る程度。たいていのけがなら素早く完治します。
 そんなわけだから医学や病院も未発達? と思いきや、人々は勤勉で研究熱心で時間もたっぷりあるので医学に限らず、どんな分野・方面でも深く高度な領域に達しています。 
 しかも、労働は義務ではなく、予算やノルマに縛られることもなく、利益や地位を得るために働くわけでもないので、曇りのない仕事や研究成果を産みます。だから、難病さえもほぼ根絶して強い体を手に入れたのです。

 この星には、戦争がありません。星の中で反目し合うための武器も軍隊もありません。 犯罪も貧困も飢餓も失業もありません。差別もいじめも虐待も自殺もありません。
 警察も刑務所もありません。裁判所も特許事務所もありません。
 貨幣経済もありません。お金がないのです。したがって、銀行も証券取引所も、税金も保険も、レジも財布も家計簿もありません。
 もしもこの星に地球の人々が行ったなら、あまりの「ないないづくし」に頭が混乱し、しばし放心してしまうかもしれません。
 もしもこの星の人々に、為替と株の値動きだの、税引前当期純利益だのと、何かお金にまつわることを説明しようものなら、彼ら(彼女ら)は、きっと、「そんな時間も労力も惜しいし、折角せっかくの命がもったいない」と言うでしょう。200年も生きるというのに。
「要するに、地球でのお金というのは、人々の欲望を調整するためと、人々が不安や退屈から逃れ何かにまぎれていたいためにあるのでは? そのお金が逆に地球の人々の可能性や自由を閉じ込めていませんか? 人々を苦しめていませんか?」とも言うでしょう。

 この星では、どんな物もサービスも、無償で提供し合い無償で享受きょうじゅし合います。お金という価値基準も潤滑油も興奮剤もいらないのです。
 人々の一生は、辛く苦しいものではなく、体力と知力の許す限り、どんなことでも挑戦できます。学問も職業も何度でもやり直しがききます。労働も教育も芸術もスポーツも、「みんなで生を楽しみ、みんなで可能性や充実を追求し、みんなで幸福になるため」にあります。しかも、それがゴールではなく、さらにその先にあるものを探し求めています。

 地球の厳しい現実社会を生きる人々は、馬鹿馬鹿ばかばかしく感じることでしょう。
 この星は、完全に近い条件のもと、それ以上成熟の余地などないかのような人々だけが住む優等生(星)だったのです。太陽からこの星のことを伝え聞いたとき、月の私でさえ地球ではあり得ないだろうし、つまらなくないのかな、と感じたことを覚えています。

 だけど、星としての好条件や、人々の先天的な好条件に恵まれなければ、貧困も病気も戦争もないような世界は、どうしても不可能なことなのでしょうか?
 そうとも限らないことを示してくれたのが、三つめの星でした。

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