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【リアル体験談】業績が好調であるにも関わらず、M&Aを決意した背景



土木・建築資材製造会社を経営していた私がなぜ業績が好調にも関わらず、M&Aを決意したのか?
その背景や経路について、またその時の気持ちや思いなどを書きます。
現在M&Aをご検討中の方に参考になればと思います。

子供はいるが後継者がいない

後継者がいない、そのことがM&Aを決断する最大のきっかけとなりました。我々夫婦には3人の子供がいるにも関わらず、私が48歳の時に開いた家族会議で、会社の引き継ぎについて全員が明確な目標を持つ道を選び、誰も引き継ぐとは言わなかったのです。

「まさか誰もいないなんて…」という感情と同時に、「本当に子供たちにこの経営の重荷を背負わせるべきなのか?」という問いも心に湧きました。
経営とは、従業員や取引先、銀行、供給業者、地域の人々への気配りが求められ、それは決して簡単なものではありません。
そんな困難を子供たちに押し付けるべきではないと感じ、後継者不在という現実を受け入れました。

自分自身が学生時代に明確な目標を持てなかったことと比較して、子供たちが既に自分の道を見つけていることに対し、子供たちの意志を尊重することを決め、事業承継を諦め新たな道を探し始めました。

決断と悩み

⚫︎後ろ向きな設備投資

「後継者不在」という現実が目の前に立ちはだかり、私は設備と人員への投資に対する方針を変更させました。

しかしこの結果、設備の故障や人手不足を何とか維持しようという消極的な思考に自身を閉じ込めてしまいました。
機械設備の面では、新品や新車の分割払い購入を避け、修理を重ねて使用を続ける選択をしました。
しかし、この選択は修理費用の増加と稼働時間の減少を引き起こし、結果として生産性が低下しました。

さらに、従業員の雇用についても慎重になりました。
私が働けなくなった後の責任を検討し、結果として年配の人材を優先的に雇うようになりました。
この決定もまた、生産性の低下につながる結果を生み出しました。

⚫︎会社の伝統と従業員の安定を確保したい

私が経営者になった経緯は、妻の父親が創設したこの会社を救うためでした。義父の持病が悪化し急逝した後、会社は経営困難に陥りました。
その当時、私は妻とお付き合いをしており、彼女を助けたいと思い、現在の会社に入ることになりました。

私は元々サラリーマンで、経営についての経験は一切なかったため、従業員や関係者に不安を感じさせていたことでしょう。
自分自身も初めての経営という大きな挑戦に対して知識不足を感じていました。多数のビジネス書を精読し、経営の基礎知識を身につけることを始めました。

当初の会社経営は困難を極め、売り上げはあるものの、多額の借入金と厳しいキャッシュフローにより、資金繰りの難しさを痛感しました。
しかし、その困難を乗り越え、25年間にわたって借入金を大幅に返済し、業績を着実に向上させ、黒字経営を継続することで金融機関からも評価を受けるまでになりました。

その過程で、私がまだ経験不足の経営者であったにもかかわらず、従業員たちが一丸となって会社を支え続けてくれたことを考え、従業員の安定した雇用と会社のさらなる成長を実現するために、M&Aは重要な選択肢として考えられました。

「会社をM&Aしたい」と言われた時の妻の気持ち

これから先の文章は、妻が執筆いたします。

「M&Aをしたい」

夫婦でM&Aの話をすることは以前からありました。「子供たちには会社を継がせたくない」という思いがありました。

私は小さい頃から、「長女であるあなたが会社を継ぐのよ」と両親から言われて育ちました。
私は三人姉妹の長女で、男の子がいなかったので、自然と私が会社を継ぐと考えられていました。

しかし、成長するにつれ、「こんな田舎の会社は嫌だ。私は東京で働くんだ」と東京の企業に就職しました。

しかし、両親が病気になったことから、将来を考慮した結果、「やはり、私が継ぐべきなのかもしれない」と考え、父の会社に戻ることを決意しました。

そんな背景があったので、主人からの「M&Aを本格的に考えている」という考えには反対はしませんでした。

しかし、正直気持ちは少々複雑でした。

「自分たちの代で廃業しようよ」

ある日私は主人に言いました。
「両親が苦労して築き上げたこの会社、そしてあなたが一生懸命回復させてようやく安定した経営ができているこの会社を、手放すのはためらいがある」と。
そして、「せめて自分たちの代で廃業しようよ」と言いました。

私は、「M&A」という言葉に抵抗がありました。
今まで支えてくれた親族や従業員、そして夫をいつも温かく見守ってくれた人々を裏切るような行為になるのではないかと考えました。

それに「自分の父親が築き上げたものを売ってしまった」と思われるのが嫌だったのです。
主人も、多分同じように感じていたと思います。
「義父の会社を売ってしまうなんて、とんでもない奴だ」と思われると、言葉には出さなかったものの、きっとその思いが主人の心のどこかに常に存在していたのではないかと思います。

「それは無理だよ」


一言主人に言われました。

「我が社は特殊な業界で、完全に事業を終えるまでには相当な時間が必要。
その間は規模を縮小しながら事業を続けなくてはならない。
そうなると、資金繰りも厳しくなり、廃業まではもたない」と。

私も薄々は「無理だな...」とは思っていましたが、「もしかしたら、できるんじゃないか」と甘い考えをしていました。

無理と言われてホッとした自分がいた

ここから先は私が長年思っていたことです。

ある日突然倒れ、亡くなってしまった父。
「会社を何とかしなくては」と泣いている暇などありませんでした。
幸い、会社には長年務めていた従業員がいたので、その人たちの助けを借り、何とか持ち堪えました。

また、主人が「後継者」として前職を辞め会社に来てくれた事が周りを安心させました。

しかし、今「もし主人が倒れて父のようになったら...」と考えると不安で押し潰されそうになります。

経営全般は全て主人に任せています。私はサポートにすぎません。
「父親の時にできたんだから、今もできるでしょう」と思う方もいると思います。
しかし、一度経験しているからこそ「無理だ」と思うのです。

なぜなら、主人が会社にとって、父親以上の大きな存在になっているからです。その主人の代わりになる人は誰もいません。

だから、「無理だよ」と言われた時、この不安からようやく解放されるという思いと、「やはりM&Aをするべきだ」という決心がついたのです。





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