お母さんと助産師さん
日本では99%のお産が病院や産院といった医療施設で行われている。
そんな日本で、助産所や自宅での出産という「1%の風景」にカメラを向けたのは吉田夕日(よしだ・ゆうひ)さん。自身も第一子を病院で、第二子を助産所で出産した経験を持つ。
「目の前の妊婦一人一人に向き合い、命が生まれるまでを見届ける姿に、私は撮影をしながら、ずっと勇気づけられていました。この作品で描かれるのは、1%の選択をした4人の女性と助産師が過ごすささやかな日々です。そして小さな命がこの世に生まれるのを、信じて待つ瞬間です」。
「世界がどんなに変わろうとも、女性が命を授かった時、よりそう誰かがいてくれますように。そんな願いを込めて作ったドキュメンタリー映画です」と監督・撮影・編集をした吉田さんはコメントしている。
その映画「1%の風景」(2023/日本/106分/撮影:伊藤加菜子/製作:SUNSET FILMS/配給・宣伝:リガード)が2023年11月11日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次ロードショーとなる。
助産所という場所。そこでは一人の助産師が、医療機関と連携し、妊娠、出産、産後と子育ての始まりまで、一貫して母子をサポートしている。
検診のたびに顔を合わせ、お腹にふれ、何気ない会話を交わす。妊婦と助産師はささやかな時間を積み重ね、信頼関係を築き、命が生まれようとする”その時”をともに待つ。
初めてのお産に挑む人、予定日を過ぎても生まれる気配のない人、自宅での出産を希望する人、コロナ禍に病院での立ち会い出産が叶わず転院してきた人。都内にある二つの助産所を舞台に4人の女性ー菊田冨美子(きくた・ふみこ)、飯窪愛(いいくぼ・あい)、山本宗子(やまもと・もとこ)、平塚克子(ひらつか・かつこ)ーのお産を撮影した。
他の出演者は、渡辺愛(わたなべ・あい:つむぎ助産所)と神谷整子(かみや・せいこ:みづき助産院)。
この映画で描かれるのは自然分娩。大切なのは分娩場所や方法を問わず、命を産み、育てようとする女性のそばに信頼できる誰かがいるということ。
近年、さまざまな理由でお産の取り扱いをやめる助産所が増えている。
2021年3月末時点で、全国の助産所数は2500ほど。そのうち分娩を扱うのは325ヵ所(出張のみの無床助産所を含む)。2011年からの10年間で助産所総数は10%程度の減少、分娩を取り扱う助産所総数は30%減となっている。また全国の助産師数は37940人(2021年3月末)。80%以上が病院と診療所勤めで、助産所勤務は6.2%。
ちなみにお産にかかる費用はつむぎ助産所の場合、助産所入院分娩日は総額で50~55万円ほどだが、出産一時金50万円(2023年4月~)の支給があるので、実質負担額はかなり抑えられるという。
私たちが手放そうとしているものは何か?多様化する社会で、失われつつある”命の風景”をみつめた4年間の記録だ。
軽井沢病院院長・総合診療科医長の稲葉敏郎(いなば・としろう)氏は「どんな人も「いのち」が宿り「お産」を経由して、こうして存在している。そういう意味で、自分が「いのち」を授かったことを改めて考え直すきっかけにもなるだろう」とコメントした。
監督の吉田夕日は東京生まれ。東京都立晴海総合高等学校を卒業後、フランスへ留学。南仏モンペリエやロワール地方アンジェ、パリなどに滞在し、フランス文化を学ぶ。2004-2005年、映画専門学校のESEC PARISに在学。帰国後、フリーランスの映像ディレクターとして制作会社テレビマンユニオンに参加。老舗旅番組「遠くへ行きたい」など、日本国内の風土や伝統工芸・食をテーマに取材をしている。
公式サイトはjosan-movie.com。
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