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映画「ガザの美容室」

 凄い映画だと思った。
 2015年の「ガザの美容室」という映画で、パレスチナ、フランス、カタールによる制作だ。ガザの美容室が舞台で登場人物はほぼ女性のみ。
 2024年5月21日(火)、アップリンク吉祥寺で観た。
 昨年10月のイスラム組織ハマスによる越境攻撃の後、イスラエルの激しい反撃によってガザでジェノサイド(大量虐殺)が起きている。
 自らがナチスによるホロコースト被害を受けたはずのユダヤ人(イスラエル)が今、パレスチナ人に対して新たなるホロコーストを行っている。
 いつの日か、歴史教科書にそう記されるだろう。

 9年前の映画だが、今ガザで起きていることを想像するのによいヒントを得られる映画だと思った。壮絶な虐殺場面や戦闘シーンなどはない。ただ、狭い美容室の中で10人ほどの女性たちがあれやこれや話しているだけだ。
 彼女たちの会話から、パレスチナの人たちのハマスやファタハへの認識が垣間見える。「ハマスがもたらしたのは貧困と破壊だけだ。イスラエルはおまけ」「ハマスもファタハもくそだ」。
 ハマスは2006年のパレスチナでの選挙で勝利して以来、指導部は民意によって選ばれた正当性を持つと主張。
 ファタハはパレスチナ自治政府の主流派だ。


 老若男女ならぬ老若女女。
 だが、女たちの話の多くは夫や恋人など男のこと。
 しかし、美容室の中で諍いが起こると、店主が叫ぶーー「外の男たちと同じじゃないの、もううんざり」だと。
 終盤、客の中に妊婦がいて、まさに子どもが生まれそうになる。
 一方で、ある客の恋人が傷ついて美容院に運び込まれる。
 そう、そこで生と死が交錯するかのように描かれる。

 常に争いが絶えない日常を生きているパレスチナの人々。
 狭い美容院の中での女性たちの会話が、パレスチナで起こっていることへ私たちの目を広く開かせてくれる。
 映画の一番最後、エンドロールの始まりに「私の母に捧ぐ」と出る。


 監督はタルザン&アラブ・ナサール兄弟。
 映画のパンフレットによると、監督は本作についてこう話している。
 「世界の人々はパレスチナ人が苦しみを語ることを期待している。でも僕らは、戦争よりも暮らしを描くことが大切なんだと信じている」。
 「パレスチナの女性は、虐げられているかのように、外の世界のことは何も知らないかのように思われ描かれる。だけど彼女たちは戦争中だって常に人生を選択している」。
 「僕らは、そんな人々の暮らしを映画にしたかったんだ。死ではなく人生を描きたい。ガザ侵攻で人々が殺されている時に、僕らが背負った責務は、彼らの人生を語ることだった」。

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