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映画「彼は早稲田で死んだ」

 東京・高田馬場の本屋で「彼は早稲田で死んだ」という本が平積みされていた。早大の地元・早稲田だからかなと思った。
 そして安保の時の話かなと漠然と思っていた。
 70年安保の挫折そしてテレビ中継された赤間山荘事件、後に明らかになった内ゲバ・・・。左翼活動衰退への一つの転換点となった。
 思うにそれは今日の政治の機能不全とも関係しているのではないか。政治というのは現実と理想のギャップを埋める仕事だと思う。理想だけ掲げて訴えていても仕方がない。だが、そういう連中も多い。
 現実だけを追認しているだけでは仕方がない。現状維持派だ。しかし、向いている方向が理想のほうでなければ意味がないと思う。
 そういった現状の根っこはどこかと辿っていったら70年安保の挫折あるいは自己崩壊にあるのではないかと思う。
 真偽のほどは分からないが、誰かに言われたことがある。
 1960年安保運動も70年安保運動も同じ安保というけど性格が全然違ったのだと。60年の時は市民も一緒になった「市民運動」であった。しかし、70年の時は「学生による学生の運動」だったのだと。
 作家・佐藤優はジャーナリスト池上彰との共著「激動日本左翼史  学生運動と過激派 1960-1972」(講談社現代新書)でいうー「日本の左翼も暴力に走らなければ、あるいは暴力に走ったとしても権力に対する暴力にとどめていれば一定の存在感を残せていた可能性もあったのでしょうが、内部での殺し合いに走ったことが致命的でしたね」、
 「あるいは日本の新左翼運動が残したのは、島耕作型のサラリーマンを大量生産したことかもしれません」。


 渋谷円山町のユーロスペースをはじめとする映画館で、その早稲田大学で起こった内ゲバを題材としたドキュメンタリー「ゲバルトの杜~彼は早稲田で死んだ」が2024年5月25日(土)から上映されることを知った。
 約50年前の1972年11月8日、早稲田大学キャンパスで一人の若者が殺された。第一文学部二年生だった川口大三郎君。自治会を牛耳り、早大支配を狙う新左翼党派による凄惨なリンチが死因だった。
 学生運動終焉期にエスカレートした“内ゲバ”の嵐。その死者は100人を超える。理想に燃えた当時の若者たちが、革命という名の下に肯定していった「暴力の論理」を今、解き明かす――。


 “内ゲバ”を巡る不条理と、“あの時代”の熱量と悔恨を、立体的な手法で刻印したドキュメンタリー映画が誕生した。
 “内ゲバ”の真相に当事者の視点から切り込んだ書籍「彼は早稲田で死んだ」との出会いから本作の製作は始まったという。
 著者の樋田毅をはじめ、現在は70代前後の当事者たちの証言が積み重ねられていく中、「内ゲバとは何だったのか?」という大きな疑問が浮かび上がる。その疑問を現代に手繰り寄せるために、事件を再現する短編劇パートを創作。演出は早大出身の劇作家・鴻上尚史、演じるのは現代の若者たち。
 監督は、『三里塚に生きる』『三里塚のイカロス』『きみが死んだあとで』で、政治闘争が渦巻いた“あの時代”を描き続けてきた代島治彦。
 徐々に過去の歴史になりつつある時代の記憶と体験を、四たびドキュメンタリー映画に凝縮した。
 音楽は、代島監督作品には欠かせない大友良英が担当。激情と悔恨が織り混ざった楽曲が、本作全体を覆う暴力と無力感、そして相反する鎮魂のイメージを奏でる。
 

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