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現代版「ご近所づきあい」を実践し、発信していきたい。91年生まれの移住者3人組が広げていく「地域のゆるやかな関係性」とは

栃木県、那須地域。

ここには「あやとり」という名称で活動する団体があります。団体と言っても、主要メンバーは3名。私と同年代であり、かつ3名ともこの地域出身ではなく移住者であるという点でもどこか勝手に共通点を感じていました。

今回は、そんなあやとりのメンバーのインタビューをお届けします。

あやとりは、「やりたいと思ってもなかなか一人ではできないこと」「地域での生活に必要なこと」を地元の方と協力しながらワークショップにして開催したり、「誰に聞いてよいのか分からない地域のこまやかな生活情報」の窓口としても存在しています。

移住先の地域で暮らしをつくっていくことで精一杯の私ですが、みなさんはなんだかたのしそうに、かろやかに、地域のなかを泳ぎながら人と人をつないでいっているように映ります。

「誰でも気軽に声をかけてほしい」というので、私も今度やってみたいことが見つかったときは声をかけてみます。思えば、そんな人たちが地域にいてくれることって、すごくうれしいことだなぁとインタビューを終えた帰り道、ふっと思ったのでした。

では、あやとりはいかに生まれたのかという話から、ゆるやかにインタビューを進めていきましょう。

1991年生まれ、全員が移住者。あやとりはどうやってはじまったのか。

——— 今日は、あやとりについていろいろ聞かせてください!よろしくお願いします。いきなりですが、あやとりがスローガンで掲げる「ゆるく、無理せず」という言葉がいいなぁと(笑)

中村:3人それぞれ別に本業があるので、結成当初からずっと「続けることをがんばろう!」って言ってますね(笑)。続けていれば100点。各々のライフステージも変化していくはずなので、無理はせずゆるく続けていきたい、そういう思いです。

中村さん(左)

中村 舞子(なかむら まいこ)
1991年、埼玉県出身。那須町地域おこし協力隊として那須町に移住。任期中から篠工芸を学び、技術修得と販路開拓を行う。篠工芸工房 渦 として、篠を加工したざるやかごなどを販売。地域に残る技術を継承するため、伝統工芸のワークショップを定期的に行っている。

——— その空気感があやとりの雰囲気をつくっているんでしょうね。ちなみに、3人は偶然にも同い年ですが、それぞれどういう出会いだったんでしょうか?

中村:そうですね、3人とも1991年生まれです。私と彩乃ちゃんはもともと地域おこし協力隊として那須地域に移住してきました。私は2015年から那須町、彩乃ちゃんが2014年から那須塩原市に地域おこし協力隊として着任しました。

豊田:任期中の2017年に栃木県主催の移住促進ツアーがあり、私たちもそれぞれの担当地域で受け入れ担当として関わりました。その一環で東京・清澄白河にある「リトルトーキョー」というコミュニティスペースでツアー参加者を募集するプロモーションを行ったのですが、おばちゃん(※小幡さんの愛称。当日の空気感を残すためにそのまま使います)がそこに参加していたんだよね。

豊田さん(右)

豊田 彩乃(とよだ あやの)
1991年、埼玉県出身。大学在学中の2014年10月より、那須塩原市地域おこし協力隊として観光プロモーションに従事。その後、2020年3月まで那須塩原市移住定住コーディネーターとして相談対応や移住セミナーを行った。現在は、黒磯駅前商店街の空き店舗を活用したゲストハウス「街音 matinee」を運営している。

——— 小幡さんは参加者だったんですね!なぜ栃木県の移住促進ツアーに参加しようと思ったのですか?

小幡:僕はもともと都内のゼネコンで働いていたんですね。でも都内で一生働くことはないだろうと思っていました。とはいえ、地元の新潟に戻るというのも違うなぁと漠然と思って「じゃあどこなんでしょうか?」って、当時はいろんな地域に足を運んでいたんです。その1つとして「リトルトーキョー」のイベントに参加しました。

小幡さん(左)

小幡 泰章(おばた やすあき)
1991年、新潟県出身。大学院卒業後、東京で働いていたが、栃木県主催の移住促進イベントに参加したことをきっかけに、2019年、那須町に移住。現在は、那須塩原市内の建築設計事務所に勤めている。

豊田:そこで立ち話をしていたら同い年だと分かって盛り上がったんだよね。

小幡:でもそのとき話した内容を舞子さんは覚えていないらしいです。(※小幡さんと中村さんは今年結婚しました)

中村:その日はたくさんの方と挨拶してたり名刺交換して忙しかったから(笑)。

——— その後、移住促進ツアーに小幡さんは参加されたんですか?

中村:そうですね。ツアーは2回開催だったのですが、2回とも東京から参加してくれました。その2回目の最後に私が「篠工芸のワークショップをやりたいんだけど、どうしよっかな」「1か月後くらいにやろうかな」って話していたんです。でも、そのときは1人ではできないしなぁと思っていました。そしたら小幡が「手伝いに行きます」って言ってくれたんだよね。

豊田:そうそう。

中村:そこから篠工芸のワークショップを実際に3人で企画・開催しました。それが終わると「じゃあ1ヶ月に1回、3人で何かやろうか」となって、那須地域に小幡が月1で通うようになったんです。

——— すごいなぁ。他にもいろんな地域を見ていたと思いますが、なぜ那須に?

小幡:都内から比較的通いやすい距離というのもありますが、あんまり街が完成されてなかったように感じたんです。何かできる余地が残されているような、そんな気がしたんですよね……なんとなくの感覚ですが。

——— ではそこから月1回の活動を3人ではじめると。

中村:「こんなことやりたいね」ってよく3人で飲みながら話してたよね。

豊田:舞子ちゃん家に3人で泊ったりもしながら。

豊田:そんな活動を2〜3回続けたときに、この活動になんか名前をつけたいねってなったんです。

あやとりは、誰かが取ることでかたちを変える

——— 「あやとり」というユニット名にはどんな思いが込められているんですか?

中村:朝起きたら、いきなり小幡が「あやとり」って言いただしたんだよね(笑)

豊田:そうそう。前日の夜も一緒にご飯を食べながら「名前どうしよう」って話していたけどそのときは結局出なくて。

小幡:朝5時くらいにはっと目が覚めて、なんかこれかな……と。

中村:「もうマークもある」って、つくってきたんだよね。


小幡:そのときのものがずっと使われています(笑)。

中村:あやとりって誰かが取ることで様々な形をとりうるのがいいねって。箒とか、亀とか。そうやって永遠と続けていけるし、全世界共通で遊べる。「『あやとり』いいじゃん!」となりました。

小幡:ユニット名はなんとなく漢字ではないだろうなぁというイメージはあったんですよね。

中村:朝のひらめきだったね。

「こんなこともしてみたい」「じゃあ一緒にやりましょう!」が連鎖して生まれていく


——— 2017年の年末から活動されていたんですよね。それぞれが印象に残っているイベントやワークショップをお聞きしたいです。

中村:すっごい覚えているのは、まだ「街音 matinee」の1階スペースがいまのように綺麗になる前にここでベンチをつくったことですね。単純にベンチが欲しくて、つくろう!とノリではじめたんです。一応ワークショップ形式にして、興味のある方は誰でも来てください~と告知はしたうえで。主に私たち3人で、外が暗くなってもベンチの色塗りを続けた日のことはすごく覚えています。

豊田:あ、そうだったね!大変だったね(笑)

中村:めちゃくちゃ大変だったよね。ベンチを6台つくりました。そのときはさすがに無理をしました。「ゆるく、無理せず」のあやとりとしては「ここまでいくと無理をしている」という基準になったベンチづくりでした(笑)。

小幡:僕は……(しばらく考える)「illustrator講座」ですかね。僕自身、大学で必要性に迫られて見よう見まねで学んだのですが、もし学びたい方がいるなら何か役に立てるかなと。僕主体で開催したイベントはそれまでほぼなかったので、このときの講座は印象に残っています。

中村:私たち自身が「できることを増やそう」と思って、講座系の企画にはまった年があったよね。まわりに個人事業主も多いので、確定申告を一緒に学ぶイベントも開催したりと。

豊田:私の印象に残っているイベントは「野菜の収穫体験と採りたて野菜の○○を食べる会」です。地元農家さんである仁平さんのところで、今も継続しているイベントですね。1回目がカレー、2回目が天丼、そして3回目が中華をみんなで食べました。

——— 素敵だなぁ。ちなみに、このイベントはどういう経緯で実現したんですか?

中村:なんだっけ……?

豊田:普段は、誰かが「やりたい」と言ったことを一緒にやることが多いんですが、このときはなんだっけ。

中村:その頃よく仁平さんが「お前らの雰囲気がいいんだよ」って言ってくれていたんです。「ゆるい収穫イベントをやりたいんだ」って。

豊田:そうだったね。1日のんびりするぐらいの、ゆるい会をしたいという話からだね。

中村:ここからここまでなら、どれを採ってもいいよ!みたいな。いつ来ていつ帰ってもよくて、お米の炊き上がりそうな時間だけ伝えて。

豊田:みんな自由におかず持ってきたり。

中村:初回は、たくさんの方が参加してくれました。東京から来てくれた方や、移住促進ツアーで参加者だった方がお母さんを連れてきたり。みんな野菜採ったり、知らない人同士が喋っていたり、気持ちいいねって言いながらひなたぼっこしたり、犬と遊んでいたり、各々が好きなことやっていました。


豊田:そうそう。会が終わるころには「また来年はこれを食べたいね」っていう話が自然と出ていたよね。楽しいから来年のことが自然に決まる感じも、それぞれが自分の楽しみ方を見つけて「こんなこともしたい」という人が出てきて「じゃあ一緒にやりましょう!」って広がっていく感じも、あやとりらしくていいなぁと思いました。

中村:それこそ、焚き火やお花見の会はこのときのイベントから生まれたよね。

豊田:そうだね。色んな道具を持参したり、スパイスをたくさん持ってきたり、それぞれの楽しみ方をカスタマイズして参加してくれる人がいるのがいいなって。「どうせ火があるからこれもやりたい!」って。

暮らしはものづくり。丁寧に、たのしみながら。


——— 「あやとり」って何ですかと聞かれたらみなさんはどう答えますか?説明資料には「移住者や地域と関わりを持ちたい若者が『気軽に、お互い協力しあうことで暮らしをたのしむ』ために設立された団体です」と書いてありますね。

豊田:そうですね、それに付け加えるなら、各々が違う仕事をしている3人がユニットを組んで、それぞれが得意なことや、やりたいことをたのしくやっていますって補足するでしょうか。3人それぞれの活動が全然違う点がいいところだと思っています。

中村:同い年で友達ではあるんだけど、学校のときの友達とは違うし、不思議な関係ですよね。その不思議な関係が周りにもどんどん広がっていっているようで、最近私たちは「ご近所」という言葉をよく使います。

豊田:一人では受け止めきれないことや、暮らしをたのしむために解決したいことを共有できる場であれたらいいなと思いますね。

中村:ね。それを明確な言葉にはしてないけど、ありがたいことに関わってくださる方が感じ取ってくれて、なんとなく輪が広がりはじめているという感じがします。

——— 小幡さんはどうですか?

小幡:なんか……3人でやっているのはそうだけど、他にも人がいるような感じでしょうか。私たちは主体であって、主体じゃないような。運営側と参加者側みたいに明確な分け方をしていないですし、そもそも私たちも参加しているので。

中村:たしかに。自分たちが参加したいと思うイベントを自分たちでやっているからかもね。

豊田:私も同じこと思いました。

——— 自分たちが参加したいものを自分たちでつくる。

小幡:些細なことでも全てのことが「ものづくり」になりうると思うんですよね。

中村:消費かものづくりか、という話は3人でもよくします。そもそも「暮らし」はものづくりだと思います。こっちに移住してきて、より思うようになりました。そもそもつくれるものを増やさないと暮らしていけないというのもありますが(笑)

でもそれこそが暮らしだから、それを丁寧にやりましょうというのが、たぶんあやとりの活動の根底にはあります。お米を炊くというありふれたことでも、できるまでの工程をもう1回みんなで体験しながら、そこにあるたのしみを再認識したいなぁと

——— 地域に入り込んでいくと様々な課題が山積みだと思いますが、そのあたりと「ゆるく、無理せず」というコンセプトの両立は難しくないですか?

中村:そうそう、そうなんですよ。地域をより深く知っていくと、やらないといけないことが増えていくことも見えてきています。街の現状として高齢化もあるので、継いでほしいだったり、自治体を運営してほしいという話になったり、組内(くみうち)など昔からの慣習もあります。でも、それをすべて受けとめると「ゆるく、無理せず」とはなかなか難しくなると正直思います。

だから「ご近所づきあい」をもっと広域で捉えていかないとね、というのが最近よく考えることですね。

——— さきほども「ご近所」という言葉が出てきましたね。

中村:「ご近所づきあい」って都内は特に少ないじゃないですか。例えば、洪水があったときに家を離れていたら、「家、大丈夫かな?」と誰かに確認のお願いができるようなつながりといいますか。助けを求められるところは多い方がいいので、今後暮らしていく上で必要だと思います。それを組内ではなく、地域に来てくれた人が手伝えるとか、ワークショップにするとか、広い意味での「ご近所付き合い」ができてくるといいっていうのが……最近のあやとりの気持ち(笑)

——— あやとりの説明資料にも「現代版『ご近所づきあい』を実践し、発信していきたい」と書かれていますね。

豊田:ご近所って県内や近隣の人だけではなくて、例えば東京で暮らしている方も、日本全国あるいは海外も含めて「ご近所づきあい」ができると思っているので、いまいる場所に関わらず出会えるといいなと思いますね。

中村:先日、私たちの結婚式に来てくれた東京の友達も毎年このあたりに遊びに来ているので、近所のおじいちゃんたちと飲んだこともあるんです。なので先日も「おじいちゃんたち、元気かな?」って聞いてくれて、私も「あ、元気だよ」と答えて、この感じって大事だなって思いました。
昔は親戚付き合いがそれだったんだろうけど、いまは親戚の繋がりって薄くなっているでしょうし、血の繋がりはなくてもできることはないかなって思っているこの頃です。

中村さんと小幡さんの結婚式の一枚

いま暮らしている地域に関わらず、気軽に声をかけてほしい


——— では最後に、どんな方に声をかけてもらえたら嬉しいですか?

中村:ざっくりしていてもいいので、何かやりたいことがある人ですね。誰に言ったらいいのか分からないと、1人だと踏み出せないことってあると思うんです。あやとりはそれを「やっちゃおう」って一緒にできる気がします(笑)。これからはより誰かのやりたいことを応援する活動を増やしていけるとうれしいです。

———背中を押してくれそうでいいなぁ。

豊田:私は個人的にDMなどで「移住したけど友達ができない」や「もうちょっと輪を広げたい」という相談を頂くことがあるんです。そのときにあやとりのイベントをお伝えすることもあります。「移住はしたけど、1人だとどこも行けないなぁ」って悩んでいる方にも届くといいなと思います。いつでも気軽に連絡してもらえたらうれしいですね。

中村:自分たちも移住者で、最初に来た時は孤立してた感じがすごいありました。町の人たちには言いづらい悩みもあって、相談できる人が近くにいないという状態に陥りがちなので、そういうときにも声をかけてほしいです。移住の相談も受け付けているので、ぜひ。

小幡:移住してきた方はもちろんですが、僕は都内の方も含めて那須で暮らしていない方から声をかけてもらってもうれしいですね。私も感じていたような閉塞感に似た気持ちを抱いている人は他の地域にもいると思っています。地域に実際に足を運んでみて初めてわかることも多いので、声をかけてもらえたら、あやとりが何かお手伝いできるかもしれません。

——— ありがとうございます!これからもいろんなおもしろいことを続けてほしいです。

中村:ありがとうございます。あ、山登りのイベントもしたいね。

豊田:うん。ワークマンに一緒に行って、必要な装備を詳しい人に教えてもらうところからはじめて……。

——— 早速たのしそうですね(笑)。これからも「ゆるく、無理せず」みなさんらしく活動していってください!本日はありがとうございました!


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インタビュー/執筆
中田 達大


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