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『目の前のものが底をつくまで』
「いやぁ、今日もご馳走だなぁ」
目の前の食事を口へ運ぶ。
「いくら食べても飽きないな」
「今日もお腹いっぱい食べよう」
仲間たちは次々と、目の前にある食事を貪っていく。
「……これってさ、この調子で食べていて、なくなったりしないかな?」
仲間の一人が不安そうに呟いた。
「こんなにあるんだぞ。そう簡単にはなくならないだろ」
「そうだそうだ。それになくなったら別のところへ行けばいいじゃないか」
他の仲間が答える。
「でも……、それもなくなっちゃうことってないのかな?」
「そんな先のことなんて、考えなくていいんだよ」
「今の時点で困ってないし、今が幸福ならそれでいいだろ」
「そ、そうだよね。こんなにあるんだもん。そう簡単になくならないよね」
そう言って、皆食事に戻っていった。
ひたすらに、ぼくらは目の前のそれを食べ続けた。
高校が夏休みに入る。
ひとりの教師が、最後の学校の各教室の見回りと施錠を任されていた。
「まったく、なんで俺が……」
文句をこぼしながらも、廊下や教室の窓と扉の鍵を閉め、開かないことを確認していく。
とある教室の出窓に、植木鉢が置きっぱなしになっているのに気がついた。
もう花は散った後で、茎と葉だけしか残っていなかったから、なんの植物なのかは分からない。
よく見ると、茎にはびっしりと、“アブラムシ”が張り付いていた。
ひたすらに、その植物の養分を吸い続けている。
その教室の鍵をかけるとき、数学教師は、ふと考えた。
--ここを閉めたら、この教室は密室になる。
あのアブラムシ達は、植木鉢の植物の養分を吸い尽くした後、どうなるのだろうか。
小さい虫なのだから、換気扇の中やどこかの隙間を通って、外に出ていくことが出来るのかもしれない。
でも、もし……。
もし出口を見つけられなかったとしたらどうなるのだろうか。
アブラムシ達は有限の資源を、先のことなど考えもせず、ひたすら消費し続けているのだ。
生きる上で必要なものが底がつき、もうどうにもできない状況がきて、死ぬ。
後悔しても、もう取り戻すことはできない。その時まで。
その小さい虫達の行動は、変わることはないのだろうーー。
そんなことを考えながら、その教室の鍵を閉め、そこを去った。
「今日の夕食は何だろうか」
などと考えながら。
おしまい。
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