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『今も旅人は湖に浸る』

 透明の旅人は、どうしても〈あおいろ〉をつけたかった。一度空に頼んでみたが、「お前にあげることは出来ない」と言われた。しかし旅人は諦めきれなかった。
 とある湖に立ち寄ったとき、旅人は理想の〈あおいろ〉を見つけた。そのとても深い〈あおいろ〉は、旅人を魅了した。これぞ自分が身につけたい色と確信した。
 旅人は湖の〈あおいろ〉をなんとか掬い上げ、自身につけようとした。塗ってみる。しかし色はつかない。飲んでみる。しかし色はつかない。何を試しても、何をやっても、湖の〈あおいろ〉が旅人に着くことはなかった。何度も、何度も、旅人は試したが、湖の〈あおいろ〉は決して旅人に色づくことはなかった。
 いつしか旅人は湖に浸っていた。その色に酔いしれた。誰よりも湖の側にいて、湖の為に尽くした。そうしていれば、いつの日か、自分にもこの〈あおいろ〉がつくと思ったのだ。彼は今も湖の中で、自分に色がつくのを待っている。ずっとずっと、透明なまま、湖に浸っている。自分に〈あおいろ〉がつくのを待っている。

「旅人に色はつかないの?」
 僕は空に尋ねた。空は答えた。
「つかないね」
「どうして」
「あれは、あの湖のものだから」

(おしまい)

こちらの企画に参加させて貰いました。
#画像で創作1月分  


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