One thousand nights on FIRE#1

One thousand nights on FIRE#1
レコーディングの千夜


 当方、犬と女というバンドをやっております、ギターの鈴木です。
 犬と女はドラマーとベーシストの二人がその原型を作り、それから幾ばくか経った後に僕が加入して今の形になりました。そのように、三つのピースが揃ったのは今からおよそ二年前のことで、音源制作とライブ出演を目指しての活動が始まったのでした。
 それから長い年月が経ちました。
 未だに我々にはしっかりと録音した音源がありません。それには長い長い話があって、多くの小さくとも偉大な一歩があって、苦悩があって、多忙があって、呆れるほど多くの物語と、とかく言い訳に似た泡沫の日々があって。だが今はそんなことはどうでもいい。瑣末なことは火に焚べてしまうがいい。今はただ音を撮れ、バンドマン。それは一つの武器なのだ。
 というわけで、今このバンドは記念すべき最初のディスクを制作しようとしているところです。現時点では5曲を準備しており、その進行度はデモを吹き込んだ段階からアレンジ、弦楽器の仮入れ、等々様々です。至近のレコーディング予定としては来週に最初の本格的なドラムレコを敢行する見込みとなっています。
 
 今の時代だからこそ、アマチュアバンドが一から音源を作る姿というのは、あるいは新鮮に写るのかもしれない。ここでは赤裸々に、その様子を記録できればいいと思っている。そして自分自身、これからの長いレコーディングの日々と、そこに横たわる火のような苦悶と、そしてそこから生まれてきたものがなんなのか。少しでも理解できればいいと思っている。

現状と環境

 まず二つの都市がある。130kmの距離の隔たりがあり、その規模も環境も全く違う。バンドメンバーの二人は片側に、もうひとりは130kmの彼方にいる。その都市は札幌と旭川という。この時代、都市間移動には大きな社会的・精神的・防疫的障壁があり、週末にふらっと遊びに行くなんてことは出来ない。はるか未来からこのエントリーを見かけた読者はあるいは不思議がるかもしれないが、この時代、日本の都市はソフトロックダウンの状況下にある。所謂、自粛という言葉によって。
 幸い、2010年代後半にはappleのGarageBandが大変優秀になってきていて、日曜大工ならぬ日曜バンドマンにとってはこの最強無料アプリがバンド間の架け橋となっていた。事実これまで、デモの編集はGarageBandを通じたプロジェクト共有によってスムーズに行われてきた。iPadを開いて、画面をぽちぽち触ればたちまち曲が産声を上げた。その手軽さがまたデモアレンジを底無しの闇に突き落とすこととなったのだが、それはまた別の話。
 とはいえプリプロまではそれでよかったのだが、本レコーディングではその力も現実的問題によって阻まれる。ドラムレコーディングはとにかく大変であるのだ。物理的に。別にレコーディングをどこかのエンジニアやスタジオに依頼したくないわけではないが、自分たちの手で作り出したいというDIY精神を少なからず持っている大学軽音サークル上がりの僕は1st EPはDIYするものだと思っている。いや、レコーディングを依頼できるほどの腕前もないし、まずは自分たちのペースで作りたいという気持ちもあるかもしれない。が、1st EPはDIYするものなのだ。
 かくして、僕とベーシストの両名は機材を担いで旭川に向かうことになる。貴重な時間だ。一秒たりとも無駄にできない。何度も行うことだってできないかもしれない。だから、こうして記録することにした。いずれ、何かの力になると願って。
 目標としては、バンド始動から本当に千夜が過ぎてしまう前に、最初の音源を作り上げたいと考えている。

 こんなふうに、時々また記事を書きたいと思います。
 では。体調に気をつけて。

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