手技療法の寺子屋

沓脱正計 「手でどれだけ人の苦痛を和らげることができるか?」という問いと向き合いながら…

手技療法の寺子屋

沓脱正計 「手でどれだけ人の苦痛を和らげることができるか?」という問いと向き合いながら、20数年にわたり手技療法を専門として臨床に携わる。 現在では臨床の傍ら、主に手技療法の基本技術をセミナーを通して伝達しつつ後進の育成に力を注いでいる。 あん摩マッサージ指圧師:修士(教育学)

最近の記事

自分の中の『先生』を育てる

私が手技療法の基本をお伝えする中で、特に大切にしているのが「楽操」つまり楽に操作するということ。 自分にとって楽に操作できるからこそ、正確な評価ができ、的確な介入ができると考えています。 聞くと当たり前だけどこれがなかなか難しく、その自覚すら持てていない場合も少なからずあります。 だから練習中に私が質問することはほとんど 「楽に出来ていますか?」 ということ。 そこから楽に操作していくために必要と感じたアドバイスをするのですが、 形を覚えることを通して感じ取っていただき

    • 手技療法はハイハイで

      手技療法は「手」と付くので、手先に意識が行きがちです🖐👀 学ぶ時には講師の手つきに目が行きやすいですし、操作の時にも手先に感覚が集中してしまいやすいもの。 学習やはじめの段階では、それは仕方ないことかもしれないのですが、操作や触診は身体で行い、身体で感じることが理想だと思っています。 「手技療法はハイハイするように行う」と言ってもよいかもしれません。 ハイハイは手から動くのではなく、腕・体幹・脚の連動の結果、手が前に出て行きます。 そして地面が硬い・柔らかいなどの感覚は

      • スポーツの痛みがスポーツによるものとは限らないということ

        「練習の後に左踵からふくらはぎが痛み、最近は右側も痛くなってきました💦」 1か月半ほど続く痛みの相談で、大学野球の選手が来院されました。 これまでではじめての経験だそうで、症状は移動するそうです。 組織の損傷が起こっているなら、それが移動することはあまりありません。 身体を少し拝見すると、両側ともお尻から太ももの外側とふくらはぎに緊張はみられるものの、練習のやり過ぎでみられるような下肢全体が張っているような状態はみられませんでした。 長く野球を続けてきて新たな問題が出てきた

        • 技術以前の触れ合い

          定期利用されている男性が、小学生の息子さんと一緒にみえました。 施術中、息子さんがまじまじとこちらを見ているので、 「教えてあげるからやってみる?」と声を掛けたら、 近づいてきて私の話を真剣に聞いています。 お父さんの身体に触れて、気になったところを押さえたらジャストミート! お父さんも嬉しそう。 子どもの方が余計なことを考えず、素直に感覚に従うから上手だったりします。 後日、男性が見えた時 「あれから息子が、家でもやってくれるようになったんですよ」と、 嬉しそうにおっし

        自分の中の『先生』を育てる

          やさしく触診するためにはポジショニングが大切

          北海道鍼灸専門学校さんにて、臨床実習を前にされた学生さん達への講義をさせていただきました。 とくに力を入れたのは、ご要望いただいていた「触れ方」について🖐 触れるというのは「挨拶」のようなもの🙇 挨拶がいい加減だと、相手から信用されないでしょう。 だから挨拶するように触れて安心感を与え、こちらを受け入れてもらえるようにする。 触れるという行為は、評価や治療以前の話でもあります。 ところが慣れないと、そして探ろうとすると、どうしても手先に力が入りやすくなり、当たりの強い触診

          やさしく触診するためにはポジショニングが大切

          悪いエネルギーをもらわないようにするためには?

          「クライアントから(悪い気やエネルギーを)受けないようにするにはどうされていますか?」 というご質問をいただきました。 施術をしていて、体調の良くないクライアントにエネルギーを吸われる、あるいは悪い気を受ける。 話として聞くと少し怪しいけれど、経験的にわかるというセラピストは少なくないのではと思います。 私も駆け出しのころ、相手によっては根を詰めて施術するほど頭痛がしたり、具合が悪くなったりした経験があるのでわかります。 どうすればよいのか幾人かの先輩に相談したこともあり

          悪いエネルギーをもらわないようにするためには?

          言葉を求めて

          手技療法における感覚・技術の言語化を通して、自分なりに言葉を追いかけて来ました。 言葉というのは氷山みたいなものだと思います。 氷山として海上で見ることができるのはごく一部で、海面下には大きな氷塊が沈んでいます。 言葉として表現できることは、海面上の氷山のように物事のごくごく一部なのかもしれません。 けれども言葉がなければ、氷山の位置を示すことが出来ず、大海原をさまようことになってしまいます。 氷山の位置を示すように、物事を指し示すことは言葉の大切な役割のひとつでしょう。

          たまの二日酔いはいいけどアル中にはならない

          手技療法を用いる時、自分の身体を傷めないよう楽に操作する技術、「楽操」の習得を私は強く勧めています。 ふだん『絶対』という言葉を使うことはほどんどありませんが、これは『絶対』身に付けて欲しいこと。 とはいえ、「身体を傷めそうな操作は絶対にするな!」と言っている訳ではありません。 私だって「ちょっと腰(指)に無理をかけたかな💦」と思う時はたまにありますから。 例えるなら「たまの二日酔いならいいけれど、アル中にはならない」と言っている訳です。 二日酔いは辛いけど、本人も自覚し

          たまの二日酔いはいいけどアル中にはならない

          頭で知ることと身体で覚えること

          母指圧迫の際の、母指の位置👍 この位置が良くないと、力が上手く伝わらず、指も痛めやすくなります。 では、どの辺りがよいのかというと「指立て伏せ」をする時の位置が、ひとつの基準になります。 四つ這いで構いませんので、指立て伏せの形をつくってみましょう。 小指とは対立する位置に、母指が来ることが多いでしょうか🖐️ このように「指立て伏せ」では多くの人が自然と楽なポジションを取ります。 ところが臨床で母指圧迫をするとなると、微調整の範囲から極端に外れて、開き過ぎや閉じ過ぎの位置

          頭で知ることと身体で覚えること

          次代を担う後進のために

          私は、諸先輩方から学んだ手技療法の共通する基本をまとめて伝えることをしています。 それは10年、20年かけて試行錯誤して身に付けてきたことを、より早く体得できるようにするという取り組みです。 5年ほど前、ある方と食事をしていた時に意見をいただいたことがあります。 「その共通する基本というのがわかるのは、既にひと通り学んできたからであって、いきなりそこから始めて価値や意味を知るのは難しいのではないですか」 もしかしたらそうかもしれません。 でもそこで諦めて「自分がした苦労と

          次代を担う後進のために

          偏らないよう心がけながら偏りを自覚する

          セミナーの休憩中に、20代の男性鍼灸師の方から頂いたご質問。 「触診の時、偏らないようフラットな気持ちで触れようとするのですが、なかなかフラットになれません🧑」 真摯な態度で取り組んいるからこそ、このような悩みが出て来るのでしょう。 軟部組織の質的異常を触診で検出しようとする時、私は 「先入観を持たずフラットな気持ちで触れる」 というふうにお伝えしています。 これはあくまで目指すべきところであり、目標や理想です。 でも「理想と現実」と言われるように、現実はなかなかそうはい

          偏らないよう心がけながら偏りを自覚する

          他領域を学ぶときには

          歯科の先生方のグループに入れていただいて、「咬合調整」について学んでいたことがあります。 もちろん私は歯が診れませんし、専門用語をはじめ、すぐに理解できないことも多いのですが、 歯科の先生方の考え方を学ぶつもりで参加させていただいていました。 領域は異なっても、力の逃げ道をつくるようにすることなど、大切な考え方は共通していることが少なくありません。 考え方や発想法を学ぶことは、自分の仕事にもすぐに活かせるので、とても勉強になります。 これは他のどの分野を学ぶときにも言える

          他領域を学ぶときには

          ゼネラリストかスペシャリストか

          ゼネラリストになるべきか、スペシャリストになるべきか。 どちらの方が生き残れるか、などという話は昔からよく見聞きします。 どちらかを推す人の中には、自分の支持する側を挙げ、他を落として対比するという方もいますが、長所と短所はそれぞれにあるもの。 私の感覚では、ゼネラリストは定食屋さんで、スペシャリストはそば屋さんのようなものかと思っています。 定食屋さんはメニューも豊富で、より多くの胃袋を満たせる長所はあるけれど、特色がないとその他大勢に埋もれてしまう可能性もあるし、味が

          ゼネラリストかスペシャリストか

          スローな動きで練習してみる

          手技療法も慣れてくると手際が良くなり、パッパッと操作できるようになります。 そこまで習熟してきたら、あえてスローな動きで練習してみるのもお勧めです。 通常の1/2~1/3くらい、ゆったりとした太極拳や気功のようなイメージで操作してみてください。 その時に大切なのは、ゆっくり動かしながらも自分の身体の動きと感覚と、軟部組織の反応を捉え続けるというということです。 なかなか難しいと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。 演奏でもアップテンポな曲は勢いでごまかせたりする

          スローな動きで練習してみる

          ティーチング:コーチング ≒ 手技:運動

          ティーチングとコーチングの関係は、手技(他動)と運動(自動)の関係に似ているように思います。 ティーチングは知識や技術を覚えさせる技術。 コーチングは気づきを促し、自ら考え成長していく力を養わせる技術 とします(ちょっと乱暴ですが💦)。 考える材料となる知識がないのに、考えることはできないので、はじめはティーチングが必要です。 けれどもそれだけでは、いつまで経っても環境の変化や、イレギュラーな状況に対応できないのでコーチングが必要になります。 同じように、動いていない部

          ティーチング:コーチング ≒ 手技:運動

          日々の臨床から ~ 慢性痛の意識に働きかける

          「せんせーの顔、もう見たくないけど予約して帰ります」 と初診でお話しされていた40代の男性が(FB投稿済み)、計4回の受診を終えていったん終了となりました。 当初のご相談は、2年ほど前から両手の痛みに悩まされ、慢性腱鞘炎の診断を受けていろいろ試みられたものの、徐々に悪化してきたというもの。 自動車の整備工場をされていているのですが、洗車もまともに出来なくなって廃業も考えられていたところ、知人の方のご紹介でみえました。 身体に対するセルフイメージが低く「もうボロボロ」「ガタ

          日々の臨床から ~ 慢性痛の意識に働きかける