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アイドルオタクではありません

言い訳させてください。私はアイドルオタクではありません。そんなわけないじゃないですか。そもそも「でんぱ組.inc」は、incと名乗るからには、アイドルではありません。株式会社です。「大林組」とかと同じです。「熊谷組」とか。

出会いは衝撃的でした。たぶん2012年。出会いはスローモーション、と言えば歳がバレてしまいますが、私は元々アイドルには興味が無かった。AKB勢とか意味が分かんなかった。K-POP勢はクオリティが高いんで、まだ理解できたんですが。

でんぱ組.incを私が知ったきっかけは小沢健二のカバー「強い気持ち・強い愛」、かせきさいだぁと競演した「くちづけキボンヌ」でした。(サブカルクソ野郎ですが、なにか?)
もっとも、これらに衝撃を受けたというより、その後、でんぱ組.incという存在を知ってからの怒涛のシングル・ラッシュがヤバかった。「でんでんぱっしょん」からの「サクラあっぱれーしょん」、ダメ押しの「でんぱーりーナイト」

なんやこれは!
なにこのカオス!
こんなん「祭り」やないか!

畳み掛ける異常な音数の多さと、強烈に悪酔いするメロディ。不調和をもって調和と成す圧巻のステージ(「キラキラチューン」の仲間割れバージョン!)。曲タイトルの3分の2に「でんぱ」が入る意味不明の狂気。

ここで一旦、冷静になります。
2012年前後のアイドル界隈はどんな状況であったか。AKB勢は「カチューシャ」「フライングゲット」「上からマリコ」が2011年ですから、2013年の「フォーチュンクッキー」に至るまで、絶頂中の絶頂、全盛中の全盛ですね。また、乃木坂46が2011年に誕生しています。
元は、つんく♂さんのモーニング娘から着想を得た「頻繁なメンバーチェンジ」「センター争いを物語として見せる」「成熟したメンバーはさっさと追い出して卒業イベントで荒稼ぎ」といった手法をパッケージ化した秋元商法は一気に収穫の時期を迎えていました。

この世の春を謳歌するAKB勢ですが、弱点は明確です。それは、ときに学芸会レベルと評されるクオリティの低さ。
冒頭AKB勢よりK-POP勢の方がクオリティが高いと言いましたが、これはシステム上の必然なんですね。フレッシュなメンバーを次から次に投入して、一曲ごとにフォーメーションを変えていたら完成度の上げようがない。
そもそも、完成した作品をエンターテイメントとして提供するK-POPに対し、未熟なメンバーの成長過程をエンターテイメントとして見せるのがAKB勢ですから、そこを批判してもしょうがないし、運営側もそこは捨てている。

だから当然、対抗馬はクオリティ勝負を仕掛けます。そんなガチ勢の代表格はもちろん、ももいろクローバーz。(彼女たちはメンバーチェンジしないし、ポジションは不動)
ももクロにみんな気づいた「怪盗少女」は2010年。「ミライボウル」「労働讃歌」の2011年あたりが全盛で、早くも失速の兆しを見せはじめた「サラバ、愛しき~」が2012年。
なんかもうね、苦しいのよ。ガチ勢。アクロバットなダンス、無尽蔵のスタミナを要求するムリ目のフォーメーション(体力に不安のある早見あかりは早々に脱落してしまった)、あっと驚く製作陣のチョイス。結局、上、目指したらキリない。
疲れるのよ。例えるなら、AKB勢がプロレスなら、ももクロは総合格闘技。同じペースで試合したら死んでしまう。

こういう状況で登場したのが、でんぱ組.incです。
言わば第三極。彼女たちはAKB勢のように選抜されていないし、ガチ勢のように鍛えられてもいない。特別に歌が上手いわけでも、踊れるわけでもない。さらに言えば、特にかわいくもなければ、特別、若くもない。
メンバーはたまたまメイド喫茶「ディアステージ」に居合わせただけというだけあって、唯一の取り柄はメンバー全員がアニメ声であるということ。その1点だけ。
彼女たちは弱点、マイナス要素をそのまま出すという戦略を取りました。そうするしかなかったのです。歌えなければ喋ればいい。叫べばいい。踊れなければ合わせなければいい。

よくあるアイドル批判で、歌が下手だというのがありますよね。例えば、アイドルたちは宇多田ヒカルのようには唄えない。それはそうです。それはもう「原付はF1マシンより遅い」と言ってるのと同じです。事実としてはその通りですが、それが正義なのかと。もし走るのが路地裏だとしたら?
「でんでんぱっしょん」を聴けばすぐ分かります。腹式呼吸で正しく歌うことがもはや意味を成さない。路地裏が原付でしか走れないのと同じで、むしろ彼女たちのようなアニメ声でなければ歌えない。(アニメ声の優位性は喋り声と歌声の近さにある)
その破れかぶれの戦略が、彼女たちの歌にあるとおり、「めっちゃくっちゃのドキュメンタリー、それが僕らにとってのファンタジー」になる。
「でんでんぱっしょん」のリボンが絡まりまくる、めっちゃくっちゃなステージ。できないからこそのエンターテイメント。欠落を抱えているからこそ一発逆転ホームランを打ててしまった。
そのことに私は猛烈に感動したのでした。

しかし、時代とアイドルの蜜月は永くは続きませんでした。アイドルバブルの崩壊はすぐそこまで来ていました。(後半へ続く)

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