「化学」の分野で「実験せず」に特許を取れるの?~楠浦の化学系発明の特許化までを振り返る
楠浦です。今、発明塾の塾生さんとOBOGさんが、自身の発明や特許を企業に提案しています。最近は、各企業がアイデアコンテストを行っていたり、オープンイノベーションの窓口があったりしますので、楽になりましたね。
発明塾(学生版)の近況は、以下でお知らせしています。
ちょうど昨日も、夜間に遠隔で討議を行っていました。
OBOGの発明の一つが
「化学」
分野の発明であるため
「明細書の実施例どうしましょう」
みたいな話をしていました。
ちなみに、そのOBOGさんは、大手化学系企業の(若手)知財部員さんなので、自分で明細書を書いて出してみよう!ということになっております。
当然のことながら、普段は
「実験結果ありき」
で出願していますので、
「実験データがないのに、どうやって出すんでしょうか、、、」
になるわけです。
ここから、本論です。
化学分野で「実験データなし」で特許を出す
しかし、冷静に考えましょう。
「実験データが無いなら、無いなりの出し方がある」
のです。
これは、僕が 世界最大の発明投資ファンド Intellectual Ventures で発明家としてたびたび表彰いただいたことにもつながる、結構重要な考え方であり、方法です。
特許権は、事業のツールです。
「発明を保護する」
という考え方もありますが、僕は
「発明を保護できる権利(使わせることも可能)を通じて、事業を強くする」
ために、どういう権利があればよいのか、を常に考え、
「発明自体も、権利デザイン(この事業にどんな権利が必要か)に応じて、どんどん変える」
ようにしています。
個別の発明について、詳細な説明をすることは(権利が弊社に帰属していない特許については)なかなか難しいのですが、
「僕が発明者になっている、化学分野の2つの発明」
を挙げ、差し支えない範囲で少しだけ解説しておきます。
楠浦が発明した「化学」分野の特許発明例(1)~「技術で勝って、知財で負ける」にならないようなスピード感で出願
一つ目は、以下です。
ナノインプリントに最適なポリマー(≒樹脂)に関する特許です。
技術的なことも多少解説しておくと、ナノインプリントとは、
「ナノのはんこ」
のようなもので、
「ものすごーく小さな凹凸」
の中に、溶けた樹脂を押し込む必要があります(ざっくり
そこで重要になる物性値の一つが
「MFR」(メルトフローレート:溶けたときの流れやすさ、みたいなもの)
です。
この辺までは、当時の当業者にはある程度常識だったと思われます。
(世界中の研究者が、しのぎを削ってましたんで、、、)
なんせ、ナノレベルの凹凸の中で何が起こっているか、誰もわからない中で
「どの物性値が効いているのか」
仮説を立てながら、それを検証し、、、効果ありそうなものは
「片っ端から権利化」
という、
「特許競争」
でもありました。
一応、我々は、一角を制した自信があります(エヘン
一般論として、こういう状況下では、
「ある程度確からしい仮説」
が得られた段階で、出願準備は始めます。
あとは時間との勝負です。請求項の表現(権利の取り方)を工夫しながら、検証できている範囲で、いかに良い権利を取れるか、と、もっと良い権利につながるデータが取れないか、知財担当者と研究者のせめぎあいです。
といっても、それを僕一人でやってましたので、せめぎあいは存在せず、
「そろそろ出さないと、技術で勝って、知財で負けるよな、これ」
というような、現場にいるからわかる勝負勘のようなもので、出していきました。
楠浦が発明した「化学」分野の特許発明例(2)~世界中の発明者の知恵を集めつつ、「取れて、意味のある」権利を考え抜く
2つ目は、以下です。
米国特許しかなく、申し訳ありません(泣
発明の舞台が世界だったので、やむを得ません。当時、しのぎを削っていた世界トップクラスの発明家で、協力して出願にこぎつけた発明ですが、コアになるアイデアは僕が出したものです。
細かい経緯は話せませんが、
「ナノテクノロジーを、表面処理(コーティング)に応用する」
ということで考え出した発明です。僕自身は、実験できる環境を持っていませんし、化学は専門ではありませんが、
「こういう反応で、合成できるはず」
「こういう原理で、機能するはず」
という、ある程度確からしい仮説を示して、周りの発明家を説得し、裏付けになる情報や知恵を出してもらい、出願・権利化にこぎつけました。
僕一人では難しかったと思いますが、専門家に投げても
「そんなの出来そうにない」
「できるかどうかわかならい」
と言われただろうと思います。というのは、僕の経験上、
「化学」
「生物」
の分野の専門家は、かなりの頻度で
「そんなの、やってみないと何とも言えない」
を連呼します。僕は物理・機械を専攻しているので
「とはいえ、なんか仮説は立てられるし、過去データや異分野の理論に、かならず状況証拠はある」
と考えます。これを
「ケンカ」
だと考える人は不幸です。僕は
「たぶん、仮説とその確からしさを示せば、動いてくれるだろう」
と考えました。実際、そうなりました。
発明に含まれている化合物について、論文を調べて
「たぶん、こういう経路(触媒なども調べた)で合成すれば、作れると思うんだけど」
と、海外の発明家にメールをしたところ、彼らはさらにいろいろな情報とアイデアを出してくれました。そんなもんです。
「専門家の知恵を引き出せるかどうか」
が問われるのが、発明です。
「発明を生み出すのに、自身が専門家である必要はない」
と、僕は思っています。むしろ
「自分の専門分野に(だけ)こだわって出た発明は、実はたいしたことない」
という感じすらしています。
脱線しました。
もちろん、いかに専門家が情報と知恵を出しても
「足りないピース」
「どうしても埋まらないピース」
もありますので、それは、そのピースが無くても、
「ギリギリ、言えること」
を考え抜き、かつ、実用化した際に必要であろう権利を想定して、明細書を仕上げました。
まとめ~化学の分野で実験データなしに特許を取る
結論は、
「取り方次第」
ということで、身も蓋もありませんが(笑)、方法はあります、ということです。塾OBOGさんとは、改めて話をすることになりますので、しばしお待ちください。
化学分野で、実験データが無いから、特許が出せない、と思っておられる方、すこし冷静に考え直してみては、ということです。
「それ、何のための権利で、どの部分が権利取れれば、事業で勝てるの」
と考えてみてください。
そら、実験データが完璧にあるに越したことはないのですが、多くの発明は
「ほぼ同じ時期に、他の人も考えている」
と考えたほうが良いですよ。
「早い者勝ち」
であることを、忘れずに、、、。
楠浦 拝
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