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体内時計ってなんだ?|僕が九州大学院時代に熱中した話

たまに「腹時計のことだっけ?」と言われます……ちがう…笑

はじめに


僕は岡山大学で薬学修士を取得後、九州大学院の博士課程に編入学しました。

目的は、製薬企業の研究職就職に再挑戦するため。就活は20数社受けて見事に全て落ちてしまい、もっと大きなラボに編入学して再度就活をしたいと考えての行動でした。先に結論を言うと、九大在学中に「やっぱ大学教員の方がいいな🙃」と進路を変えることになるのですが笑

博士課程は、非常に厳しい世界です。全然甘くない。
世界で誰も解明できていないものに対して、仮説を立て実験をし解析し、考察し、教員と相談してまた実験してを繰り返し、データが集まってきたら英語論文を書き上げるという作業を、3年間で行います。できなければ留年。

この厳しさをよく分かっていたので、編入学先は、とにかく面白い研究内容ということを意識して、国公立大学(※お金がなかったから)の研究内容を全て調べました。


九州大学を選んだ理由


3、4つほど候補のラボを絞り、研究室訪問をして最終的にご縁があったのが、九州大学大学院のラボです。

目に留まったのは、「時間治療」という文字。
えっ時間治療??何それ??

例えば、薬の服用時刻は朝食後が多いですが、この理由は飲み忘れが最も少ないから。でももし、この薬を夕食後に服用したら?もしかしたら、効果を高め副作用を軽減できるかもしれない。

これを科学的に証明し、服用時刻を変えるだけで薬のポテンシャルを最大化する治療。これが時間治療です。

もちろん全ての薬ではないですが、中には、難治性リウマチに使っていた薬の服用時刻を変えるだけでリウマチが改善した例もあり、新薬を作る労力やコストをかける必要がないメリットもあります。


時間治療の記事を見つけた当時、岡山大学でやっていた体内時計の特別講義に、自分がとても興味を持っていたのを思い出しました。

遺伝子に、時計の概念が科学的に宿っている。

© stock.adobe.com

そんなことがあり得るのか??
二重らせんのDNAと、秒針を動かす時計が頭の中でオーバーラップして、遺伝子が周期的に時を刻んでいるのがとても神秘的で、非常に魅力に感じたのを覚えています。


体内時計とは


体内時計とは、生体が24時間周期で刻むリズム、システムのこと。
朝、ホルモン分泌や目に入る光で目を覚まし、昼に活動し、夜になると就寝する。この一連の流れは遺伝子によって規定され、光や食事とそのタイミングによって、時計が影響を受けることが分かっています。

たとえるなら、花時計のような。

リンネの花時計

時計の針がなくても、それぞれの時刻で咲く花を並べることで時刻が分かるようにした時計ですが、生体には決まった時間に活発になる遺伝子群があり、体内時計はまさに、遺伝子の花時計のようなものです。

体内時計は、日勤⇔夜勤のシフトワーク、夜更かし、食事の時間がバラバラなどにより乱れてしまい、睡眠障害やうつ、糖尿病、脂質異常症、免疫疾患、がんなど多くの疾患のリスクを上昇させます

体内時計の観点から健康のためにできることは、光と食事が体内時計にとても大きな影響力を持つので、起床時に光を浴び(カーテンを少し開けておくなどして)、朝食をちゃんと摂ることで時計をリセットし、規則正しく食事を取り、寝る前はあまりスマホやPCをいじらず、部屋を暗くして就寝することです(現代人にはむずかしい~~!!)。


僕の研究内容


僕の研究内容は、シスプラチンという抗癌剤でした。
50-60年ほど前からある今でも現役で使われている抗癌剤ですが、副作用で腎障害が起こりやすい。この副作用が、朝にシスプラチンを点滴すると起こりやすく、夕方に点滴すると起こりにくいことが40年も前に経験的に分かっていたものの、そのメカニズムが不明でした。

実は、岡山大学で研究していたものがシスプラチンに関わっていたので、体内時計の概念と組み合わせて、もしかしたらこれが原因なのではと仮説を立てて、九州大学の先生にテーマを提案し、研究がスタートしました。

結果的には、メカニズムの根源になっていたのは別のものでしたが、何とか3年間で論文を書き切り、薬学博士となることができました。

投稿した僕の論文(https://molpharm.aspetjournals.org/content/85/5/715


僕の研究は体内時計そのものではなかったですが、時計に関する世界中の論文や、一流雑誌の Nature, Cell, Science は毎週のようにチェックし、ラボの皆と常に熱いディスカッションを交わしていたのは良い思い出です。


5年間の大学院時代に得られたもの


留年なしで、27歳まで学生でした。
この時代に得られたものは本当に大きいです。

論理的思考、発想、プレゼン、チームワーク、ディスカッション、計画、論文執筆、強靭なメンタル、何より、研究テーマに対する強い情熱 …

今は研究の世界を離れてはいますが、僕の人間性の基礎を作って頂いたと言っても過言ではありません。一生、感謝します。

体内時計に関すること、将来何かすることになったら面白いな😊


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日々勉強のため、世の中に耳を傾けたいと思っています。

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