明日の地方東京(Tokyo, Tomorrow)
英国の不動産会社が発表した2023年の「危機を乗り越え成長する都市ランキング」で東京は2位になったそうです。ランキングは「経済力」「知識と技術」「環境・社会・企業統治(ESG)」「不動産」の4分野を分析した結果です。
東京の「経済力」はトップで「不動産」は4位。「知識と技術」と「ESG」は10位以下と発表されています。
「経済力」が1位と評価されたのは、東京の年間予算は一部の先進国よりも多いので、他の大都市と比べても経済力はあるといえます。
「不動産」部門の評価が高いのは、東京の中心部は他の大都市と肩を並べられるだけハードのインフラが整備されているからです。
東京の近代的なインフラ整備は明治時代に始まりましたが、関東大震災や戦争で廃虚になりました。その都度、東京は早く復興して先進国に追いつくことを目標としてきました。ハードのインフラ整備はいつも予算と時間との戦いでしたから、狭くとも道路を通して小さくても建物を建てることはやむを得なかったのです。都心部を離れれば、いまなお再開発の名のもとに大きな建物や広い歩道を建設し、電柱の地下化などを進めて近代的なインフラ整備が行われています。
「知識と技術」と「環境・社会・企業統治(ESG)」の評価があまり高くないのは、文化的なソフトのインフラが重視されてこなかったからです。
「知識と技術」の評価は教育と密接に関係しています。いまでは、知識の国際競争で子供たちが優秀な成績を収めていますが、明治以来の教育はできるだけ早く「一等国」の仲間入りするために一方的な知識の詰め込みでした。子供たちが答えのない課題に取り組んだり議論を交わしたりすることは、学校教育の方針ではなかったのです。
技術の評価が高くない結果は「モノつくり」を支える技術と技能に課題があります。「モノつくり」の現場で必要なウデやワザを職人に任せにして、技術者はハードの技術を誇り、お互いが支え合っていないことが影響しているのです。技能オリンピックで日本がいくつも金メダルを取ってきたころが懐かしくなっています。
「環境・社会・企業統治(ESG)」については、どのように立場の違いを理解して話し合いの場に対応し交渉しているのかとか、どのように組織を運営しているのかという「コトの営み」のソフトの技術が評価の対象になっています。
東京の一極集中が収まらないのは、長らく同じ施策を続けてきた結果として、東京が日本で文化的な生活ができるただ一つの街になっているからです。若者にとっての東京は、仕事があり人がたくさんいて群衆に交じれば何となく時間をつぶすことができる街です。自分なりの生活が享受できる環境に身を置くことができる街です。
事務所やお店で働けば少なくとも一人ではありませんし、一人で働く仕事も少なくありません。先進国の給料には追い付かなくても自由な生活ができるのが東京です。東京に人はたくさんいますが、孤独を感じている若者は多いかもしれません。
一方、東京の周りでは住民の高齢化による街の衰退が進んでいます。住民が支えてきた地域活動の制度が現状に合わなくなってきて地域は衰退しています。
町内会や民生委員と児童委員や福祉協議会などの組織では高齢化が進み、後継者が不足して委員の欠員が常態化しています。地域の住民が安全・安心を支えるシステムが制度疲労を起こしているのです。
住民が地域を支えている諸制度を検証し、いま改善策の検討を始めなければ日本の衰退は止められません。地域の破綻が東京に影響するのは時間の問題ですから、少子高齢化は他人ごとではありません。
日本が先進国脱落の危機にあるのは、組織の運営や教育の場でソフトのインフラをハードのインフラと同列に扱わずに、文化的な技術を重視してこなかったからです。未だに低い労働生産性や先進国とはいえない大きなジェンダーギャップを改善する行動を速やかに起こさなければ「後れ」は取り戻せません。
いま東京に望まれることは経済的に裕福な大都市として、予算の使い方見本を示すことです。具体的には「力」や「民は依らしむべし、知らしむべからず」を基本とする統治は時代にそぐわなくなっていることを態度で示すことです。
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