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組織運営の技術

組織運営の技術-地方再生
 
 全国の鉄道路線網のうち1日の利用客が1,000人以下で存続の危機にさらされている地方路線が61路線あるそうです。かつて、鉄道が引かれて遠く離れた町や村に中核都市から進んだ文化を届けてきた鉄道が廃線の危機に立たされているのです。 道路が整備されていない頃は、鉄道は便利な情報を伝達する手段でもありました。
誰もが車を持つことができる時代が来て道路も整備されてくると、ローカル線を利用するのは通学生と年配の方だけで通勤で利用する方は少なくなりました。また、インターネットの発達は物理的な情報運搬手段を必要としなくなりました。
 1960年代に新幹線と高速道路の建設が始まりました。地方に新幹線が来ると東京との所要時間が短縮されて、手軽に首都圏へ行けるようになりますから地方の生活が便利で豊かになりますと言われていました。
 しかし、50年後の実態は全く正反対のことがおきています。新幹線を利用すると手軽に故郷へ行けますから、インフラ整備が進んで仕事のある首都圏に住むほうが故郷に住むより便利だということが明らかになったのです。首都圏は仕事があるばかりではなく、質の高い文化が享受できます。地方では経験出来ないような生活ができるので多くの人が仕事の選択肢が多い首都圏で働くことを選びました。
 高速道路網の整備も新幹線と同様に人の移動を便利にしました。しかも、人流を増やした以上に物流が大きく改善されました。道路の整備はまだまだ十分ではありませんが、高速道路網は少なくとも地方の生活を豊かにしているといえます。
 インフラにはハードとソフトがあります。ハードのインフラは上下水道の施設や発電設備、通信・交通網などのライフラインで英語ではまとめてUtilityと呼ばれています。現在の日本ではこれらの社会の基幹をなすインフラは発電設備を除いてほとんど先進国なみに整備されてきたと言っていいでしょう。
今後は既存インフラの維持管理と発電設備の改善、生活道路の歩車道整備、毎年のように起きる水害対策としての河川の改修を重点的に進めていく必要があります。生活道路や洪水対策の分野では未だに十分に整備されているとは言いがたい状況があるからです。
地方のハードのインフラ整備はいわゆる箱ものを中心に整備されてきましたが、施設を生かすソフトのインフラ、たとえばレストランや映画館、コンサート、劇場公演、美術館の展覧、博物館の展示等の面では、多くの地方都市で首都圏と同等の文化を供給するまでにはなっていません。多くの人が首都圏へ出て行ったために、地方は人口減と住民の高齢化が進んでいます。結果として、多くの地方都市が文化的で若者が好む生活空間とは程遠い状況になっています。
理由として新幹線ができて移動が便利になったから、ということはすでに述べました。もう一つ理由として考えられるのは、ソフトのインフラが首都圏に集まりすぎたことがあります。
首都圏には世界中の料理が楽しめるレストランがあります。いろいろなコンサートもあります。劇場公演があります。メディアが揃っています。多くのテレビ番組は東京のキー局で制作されています。人が集まるから首都圏には若者が楽しめるソフトのインフラが集中しています。
人が集まれば、いろいろな料理を提供するレストランができます。人が集まれば、いろいろなイベントを始めるグループができます。人が集まれば、テレビもラジオも地元放送局でも作品が制作できます。人が集まれば、コンサートが開催できるし、劇団が公演できますし、展覧会が開催できます。人が集まれば子供も増えます。
ハードのインフラ(ニワトリ)が先かソフトのインフラ(たまご)が先か、の議論のようにみえますが、ハードもソフトもインフラ整備を進める車の両輪です。片方だけが進めばいいというものではありません。
地方に住んでいても十分に食べていける職業があって文化的な生活が営めれば、都会へ出て行く必要はありません。特に、インターネットの発達は場所を選ばなくなりました。必要なのは職場の充実です。首都圏と同様の仕事があるかないかです。
全国どこでも必要な職場は保育と教育と介護です。病院も必要です。これらの職に就く方たちが首都圏と同じレベルの収入を得られることができれば人は集ります。
地方に住んでも職があり生活に十分な収入が見込めるならば、農業や漁業、林業などの第一次産業に興味を持つ方が出てきます。IT産業で働く方たちは場所を選びません。首都圏同様の文化が享受できれば都会脱出を考える方たちが出てきます。
 地方の魅力は水と空気、里山と海にあります。首都圏では得られない環境の下で仕事をして、余暇に質の高い文化が享受できるとしたら、首都圏へ出て行く理由があるでしょうか。首都圏に用事があれば新幹線を利用すればいいのです。
最近の若者が町や村おこしに活躍を始めたことには勇気づけられます。地方再生のはじめの一歩は職場の提供です。人が集まればいろいろな文化が発展します。
 

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