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ビジネスで活きる『孫子の兵法』をわかりやすく説明 ≪目安時間8分≫

 『孫子(孫子の兵法)』は書物は中国の春秋時代(紀元前770年)の武将である孫武と、中国の戦国時代(紀元前403年)の武将で孫武の子孫とされる孫臏が著したとされる兵法書です。

 『孫子』が読まれるようになる以前は、戦争の勝敗は天運に左右されるという考え方が強かったようですが、孫武は戦争の記録を分析・研究し、勝敗は運ではなく人為によることを知りました。そして勝利を得るための指針を理論化して、『孫子』を書いて後世に残そうとしたのです。

 現代、日本では戦争は行なわれていません。では『孫子』はどこで活かせばいいのでしょうか。それは、ビジネス現場という名の戦場です。『孫子』をビジネス版に翻訳して紹介していきたいと思います。

だらだらと仕事をするな!

 兵は拙速なるを聞くも、未だ巧久なるを賭ざるなり。未れ兵久しくして国の利する者は、未だこれ有らざるなり

 ↓現代語訳すると↓

 出来が悪くても素早く切り上げるということはあるが、上手くいって長引くという例は未だない。そもそも戦争が長引いて国家に利益があるというのは、あったためしがない。

 まずビジネス戦争で勝つためには、だらだら仕事をして残業をしないことです。だらだらと仕事をすると体力や精神が疲弊してしまいます。仕事は出来が悪かったとしても素早く切り上げるほうが効率よく、残業などで長びくことは多くのミスの原因となりますし、効率が悪くなります。社員の損害を十分に理解できない経営者は会社の利益も十分に理解することはできないということですね。

 日本は残業の多い国として知られていますが、日本の経営者もこの教えを見習ってほしいものです。

相手を傷つけずに納得してもらえ!

 ビジネス戦争において、自分の意見を押し通さねばならない時というのは必ずやってきます。そんなとき、相手の意見を否定し、相手を言い負かして屈服させることは、争いの火種となってしまいます。

 自分の意見を押し通したいときは、相手を傷つけずに、納得してもらうのがもっとも優れた方法です。つまり、自分の意見を押し通したいときは、相手が納得できる根拠を事前に用意しておく必要があるということなのです。

経営者は幹部と親密な関係を築くべし!

 幹部は会社のお助け役です。そんなお助け役の幹部が経営者と親密であれば、会社は必ず強くなります。逆に幹部と経営者の間に隙があるようでは会社は必ず弱くなります。そこで経営者が幹部の仕事について気を付けなければいけないことが3つあります。

❶現場の事情や状況、仕事内容を把握しないでその部下に命令すること。

❷仕事の事情を知らないのに、幹部と一緒に仕事をすること。

❸現場の臨機応変の処置もわからないのに部下に命令すること。

 経営者自身が現場で指揮をとる場合や、幹部とともに仕事をする場合は、経営者が現場の状況をよく把握しておくことがとても大事ということですね。

プロジェクトを立ち上げる前に熟慮する5つのこと

 会社の内部状況が整ったらプロジェクトの立ち上げを始めましょう。でもその前に大切なことを忘れてはいけません。それは成功する見込みがあるプロジェクトを立ち上げることです。プロジェクトを成功させるためには以下こ5段階のことを熟慮して十分に勝算をもつようにしましょう。

❶仕事の全体像をみる

❷全体の結果について投入すべき物の量を考える

❸物の量の結果について動員すべき人の数を考える

❹人の数の結果から能力について考える

❺能力の結果から成功するか失敗するか考える

プロジェクトの協力者は慎重に選ぼう! 

 上記の5段階を踏まえて、いよいよプロジェクトを立ち上げたとしても、プロジェクトの協力者の腹のうちが分からないとその人と協力することはできません。また、プロジェクトの協力者がプロジェクトに必要な知識や技術が分からないようではプロジェクトをすすめることはできません。さらに、プロジェクトをすすめるための知識や技術について詳しい人を使えないようではプロジェクトで利益をおさめることはできません。

 プロジェクトを立ち上げる前は、協力者の腹のうちを知り、協力者の知識や技術を知るようにしましょう。

市場と戦略を知るべし!

 協力者と打ち解け、いよいよプロジェクトを立ち上げました。すると、多くの社員を動かすことになります。しかし、社員一人一人の時間と労力がかかっているにも関わらず、お金を惜しんで市場を知ろうとしないのは効率的ではありません。プロジェクトを成功させるためには、あらかじめ市場や戦略を知っておくことが重要なのです。

 その市場や戦略を知るためには、人に頼る必要があります。人に頼れない人は、プロジェクトを成功させることができないのです。

多人数をまとめる方法

 プロジェクトを立ち上げて多くの社員を動かすことになったとしても、社員の統率がとれていないと、社員に無駄な労力をかけることになりますし、十分な収益をおさめることはできません。『孫子』以前の古い兵法書には「口で言ったのでは聞こえないから太鼓や鐘の鳴りものを備え、さし示しても見えないから旗や幟(のぼり)を備える」とあります。

 多くの社員の統率をとるにはチャイムなど音で統一させたり、メールなど視覚的なものを使って統一することがよいでしょう。

 実はもっと簡単に大人数の統率をとるための方法があります。それは、ふつうのきまりを超えた褒美を施し、ふつうの定めにこだわらない禁令を掲げることです。この方法を使うと多人数を働かせることも、一人を使うようなものだといいます。ただし、このやり方で長続きするかどうかは別問題です。

社員に業務の理由は説明しないこと

 経営者は、社員を働かせるのは任務を与えるだけにして、その理由を説明してはなりません。社員の士気に関わってくるからです。社員を働かせるときは社員にとって有利なことだけを知らせて、社員の害となることを告げてはなりません。

 つまり社員に知らせることは「この仕事は良いことのために行なっています」ということだけにして「この仕事をすると一方で悪いことも起こります」ということは、それが事実だとしても知らせてはいけないということです。

社員は少数精鋭で

 社員は多ければ多いほどよいというものではありません。一人一人が猛進しないように注意しつつ、集中して仕事をするようにしたら、人数はいりません。社員が多いと、統率をとるための労力やコストがかかります。社員はできるだけ少数精鋭がよいのです。

必勝のチームをつくろう!

 ビジネス戦争で他の会社に勝つためには、必勝のチームをつくることです。必勝のチームをつくるためには、上司と部下の関係性が重要となります。

 部下がまだ上司に懐いていないなに、失敗を叱ったりすると、部下は上司を尊敬して従うことをしなくなります。部下が上司を尊敬していないと、上司は部下を働かせにくくなります。これでは必勝のチームになることはできません。

 反対に、部下が上司に懐いているのに、部下の失敗を叱ったりしないでいると上司の威令がふるわず、部下を働かせることができなくなります。これも必勝のチームになることはできません。

 親切心で部下をなつけて叱責で統制することが必勝のチームをつくるのです。

ビジネス戦争における6つの敗北原因

 ビジネス戦争には勝利があれば、もちろん敗北もあります。そんなビジネス戦争における敗北の原因は以下の6つがあります。

❶無理な仕事を押し付けて社員たちを逃げ散らせること

❷部下の実力が強くてとりしまる上司の実力が弱く部下たちをゆるませること

❸とりしまる上司が強くて部下が弱く部下たちを落ち込ませること

❹上司が怒って経営者の命令に従わず自分勝手に仕事をし、経営者はまた上司の能力を知らず、社員を崩すこと

❺上司や部下たちにきまりがなく、それぞれがやりたいことをやって乱れさせること

❻経営者が仕事内容を考えはかることができず、膨大な量の仕事を押し付け、さらにその仕事をリードする人もいなく、社員を負けて逃げさせること

 これら6つのことは経営者の最も重大な責務として十分に考えなければならないことです。

会社を安泰にするには

 経営者は聡明でよく思慮し、幹部はよくわきまえつつ部下を統率させ、利得がなければ行動を起こさず、無駄に社員を使うことをしない。有利で利益が見込められるのであれば行動を起こし、そうでなければ速やかにやめる。

 これが会社を安泰にして社員を根付かせる方法です。

まとめ

 『孫子』には、いかにして相手を打ち負かすかということは書かれていません。いかにして戦わずに勝つかということが書かれています。

 『孫子』の謀攻篇には次のように書かれています。

百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり。

 百回戦闘して百回勝利を得ることより、戦闘しないで敵兵を屈服させるのが最高に優れたことということです。

 武力行使はあくまでも最後の選択肢であり、理想的な勝ち方は誰も負けない勝ち方です。誰も負けない勝ち方は、誰も傷つかず、誰も恨みを持たないので、報復されることもありません。勝ち負けにこだわらないことによって初めて真の勝利が得られると孫子は考えたのです。たしかに、いつまでも勝ちにこだわると、いつまでも負けがつきまとうことになりますね。

 『孫子の兵法』をビジネスに活かすのなら、戦って勝利しようとするのではなく、戦わずに勝利するという点をまず肝に銘じる必要があるでしょう。ビジネス戦争でも、競合に打ち勝とうとするのではなく、争わずに自社の利益を最大化する方法を考えるべきなのだと学ぶことができます。


参考文献
新訂 孫子 (岩波文庫) 文庫 – 2000/4/14金谷 治 (翻訳)

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