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12本の薔薇

わたしが通っていた大学の友達は、地元関西の子と、地方から出てきた子が、半々ぐらいだった。

同じ学部で仲の良かった九州出身のレイラ(仮名)
レイラは大学卒業後に地元九州に戻って就職し、九州で素敵なお相手と出会った。

卒業から4年後、レイラの結婚披露パーティーに招待してもらったわたしたち関西組。
総勢7名で旅行気分で浮かれているが、何よりレイラの花嫁姿が楽しみだ。



式場はクラシックでありながらもアットホームな雰囲気。
既にたくさんの人達がレイラとご主人を祝福しに集まっていた。
席次表を見ると、わたしたち7名は入り口近くの同じ円卓にしてくれていた。



パーティーが始まる前、まだみんながガヤガヤしている時に、式場のスタッフに声をかけられた。
「パーティー冒頭のセレモニーにご協力いただけませんか?」

ふと周りを見ると、各円卓に1名ずつ、わたしと同じように説明を受けている人がいる。

dozen rose(ダズンローズ)というセレモニーで、1ダース=12本の薔薇という意味らしい。
12本の薔薇の1本1本に誓いの言葉の意味が込められているとのこと。



説明された今回のセレモニーの概要はこうだ。

  • まず新郎が1人で入場する際に、新郎新婦が座る高砂席の前まで歩きながら、各円卓のゲスト計12名から1本ずつ薔薇を受け取る。

  • 新郎の手元には12本の薔薇が集まり、花束となる。

  • その後新婦が入場し、新郎から新婦にそのダズンローズの花束を渡し、想いを伝える。

なんて素敵なんだ。

わたしは薔薇を新郎に渡す役割を喜んで引き受けた。
ランダムかもしれないが、感動的なセレモニーを構成する一員に選んでいただいたことが嬉しい。
スタッフから1本の薔薇を預かった。



いよいよパーティーが始まる。
司会者の案内があり、新郎入場となった。

わたしは新郎とお会いしたことがなかったが、レイラから話は聞いていた。

年上で、優しくて、堅実なお仕事をしている。
2人共通の趣味は歌を歌うことで、歌声にもとても惚れ込んでいるそうだ。
嬉しそうなレイラの話を聞くだけで、わたしまで幸せな気持ちになる。

そんな新郎と初めてのご対面。

入場した新郎は想像通り優しそうな方だ。
大事な場面に少し緊張しているのかもしれないが、深々と礼をしてから、にこやかに、幸せそうに、ゆっくりと高砂席に向かって歩いていく。

レイラ、素敵な人と巡り会えてよかったね。

まだレイラが入場もしていなのに、レイラと過ごした大学生活が思い出されてジーンとしてきた。


新郎は順々にゲストから薔薇を1本ずつ受け取っている。

あ。

わたしの席次は入り口に一番近い円卓。

わたしはトップバッターとして新郎に薔薇を渡さなければならな、、かった。


わたし、渡しそびれてもてる?

歩みを進める新郎。
わたし以外の薔薇担当のゲスト達は「おめでとう」「お幸せに」などと気の利いたお祝いの一言を添えて、新郎に薔薇を渡していく。

今更追いかけて行ったら不自然?

頭の中で葛藤するうちに、新郎は高砂席の前に到着した。

もう無理? まだいける?

席から腰を浮かせて新郎の所まで忍者のようにダッシュするかしないかのところで、司会者が言う。

「新郎の手元に集まった12本の薔薇を、新郎のお母さまがリボンで結び、今、ダズンローズの花束が出来上がりました」

(会場拍手喝采)

締め切られた



次に、ウェディングドレスを身に纏った美しいレイラが、お父さんと一緒に腕を組んで入場した。

不気味な薄ら笑いを浮かべるわたしの様子に、ただ1人隣の席のナミコ(仮名)だけが気づいた。

ナミコはくちパクでわたしに言う。

なんで、まだ、薔薇持ってる?

わたしは薔薇を持った手を、誰にも気づかれないように、ゆっくりと静かにテーブルの下に持っていった。



パーティーは滞りなく進行される。
司会者はダズンローズの説明を始めた。
「1ダース、つまり12本の薔薇にはそれぞれに意味が込められています」

ナミコがあらゆる感情を堪えたような複雑な表情で、わたしの方を見てくる。
わたしは新郎の手元に目線をやり、首を小さく横に振りながら、口パクで伝える。

ジュウイッポン…


司会者は続ける。
「その意味とは、感謝、誠実、幸福、」

12個のうち1個ぐらいらんやつないか?
そない重要じゃないやつ。

「信頼、希望、愛情、情熱、」

あってもなくてもどっちでもいいやつ。
1個ぐらい、頼む。

「真実、尊敬、栄光、努力、永遠です」

要らんやつはなかった


司会者のトーンが上がる。
「これらの12の誓いを込めて、今、新郎から新婦に12本の薔薇の花束が贈られます」

司会者がわたしに追い討ちをかける。
12、12と繰り返す司会原稿を書き換えたい。


新婦レイラに贈られた11本の薔薇の花束は、その後の主賓スピーチ、乾杯挨拶の間も、煌々とした灯りに照らされ、高砂席の横に飾られていた。

「11」の方が2人で並んで協力してる感が出るんじゃないか。
11月22日はいい夫婦の日というぐらいだ。
1が並ぶのは素晴らしいことだ。

結婚のご祝儀は2で割り切れる数字は良くないとされている。
そう考えれば11なんて全然割り切れない。
素数って最高。

自分の精神状態を保持するために、11の素晴らしさを探し続けた。


ようやく最初の歓談の時を迎えた。

わたしはたまらず真っ先に高砂席まで駆け出し、頭を下げて1本の薔薇を新郎に差し出した。
「ごめんなさい!あまりの感動でボーッとして薔薇を渡しそびれてしまいました!」

新郎とは初対面なのに、最初の一言目が謝罪になるとは思わなかった。

新郎はびっくりしていたが、「大丈夫ですよ、そんなこと全然気になさらずに」と優しく言ってくださり、なんなら新婦のレイラと一緒にちょっと面白がってくれた。

大切な結婚披露パーティーで段取りを飛ばしてしまい、レイラ夫妻には本当に申し訳ないことをした。

でも、レイラのご主人は聞いていた以上に優しくて、気遣いができて、包容力があって、レイラと本当にお似合いだと思った。
今後素敵な家庭を築いていくはずだと心底実感した。





歓談の間に、わたしの失態はナミコだけではなく同じ円卓の友達全員にもすぐに知れ渡り、散々イジられた。

少し落ち着いてから、自分の行動を思い返してみる。

歓談の時間が始まった途端、わたしは真っ先に新郎の元に駆け寄り、切実な表情で頭を下げて1本の薔薇を差し出した



事情を知らない人が遠目で見たら、「ちょっと待ったー」と新郎を奪いに来たややこしい元カノそのものじゃないか。



お祝いの席でわたしは失態ばかり演じてしまった。



花言葉「ごめんなさい」

レイラとご主人に、紫のヒヤシンスを差し上げたい。

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さて、次回の #クセスゴエッセイ は

「十円玉頼み」

をお届けします

お楽しみに〜
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