NO MUSIC,NO LINE.
バブを入れたお風呂。
飼い猫とのじゃれあい。
自分で淹れるこだわりのコーヒー。
お気に入りのYouTubeチャンネル。
誰しも日常生活の中に、ホッと安らげる心の拠り所があるものだろう。
わたしにとっての数少ない会社の友達とのグループLINEがある。
メンバーは、
クルクルさん(仮名・女性)
おにぎりさん(仮名・男性)
そして、わたしの3名。
お二人とも先輩であるが、友達と呼ばせていただく。
わたしたちは以前同じ支店で働いていた。
転勤で散り散りになった今でも交流が続いている。
グループLINEでは、有益性ゼロの情報共有が気まぐれに行われている。
それはまるで、たった2人のフォロワーに向けたTwitter。
世間でSNSが広まり、#が市民権を得ようとし始めた数年前のこと。
クルクルさんとわたしは、面白がって、最近流行りの#を使ってLINEをしていた。
ひとり、#の出し方が分からないおにぎりさん。
読み方が分からないから調べようがないとお困りの様子。
確か小学校の音楽の授業で習ったはずだと、♭が送られてきた。
惜しい。
このまま泳がせてみたら、正解に辿り着くのも時間の問題か。
しばらくの時を経て送られてきたのは、、、
㎗
いや、それデシリットル。
教科が違う。
奮闘のあまり、音楽から算数に変わっていた。
以来、おにぎりさんに#を教えてあげることなく、わたしたちはグループLINEで、全ての文章の頭に㎗をつけて会話している。
知らない人が見たら特異なLINEだが、わたしたちはここ何年も㎗を付けた文章しか送信していない。
一般的な国民の、一生の㎗平均使用回数と比較すると、8万%ぐらいになるだろうか。
そんなデシリットルラインが、わたしのホッと安らげる心の拠り所だ。
スマホの文字入力には予測変換機能が備わっている。
「み」と打っただけで、「Mr.Children」が完璧な綴りで現れるほどの感度だ。
わたしのiPhoneは、まだ濁点も付けない「て」だけで「㎗」が即現れるほど、わたしの指先を健気に予測してくれている。
しかし、当然ながら、わたしがLINEのやり取りをするのはデシリットルラインだけではない。
デシリットルメンバー以外の人にLINEを送る時は、この有能な予測変換の包囲網を、緻密なステップで掻い潜らないといけない。
さもなければ
ご馳走様㎗
ごちそうさまデシリットル…??
よっこいしょういち
別件バウアー
愛してマスカット
今日めっちゃ寒シングエルス
これらの類義語だと思われても仕方ない。
教科が違って…などと弁明したところで通用するはずもない。
しかも、リッター単位でビールを飲んだくせに、「デシリットルしか飲んでません」みたいな控えめな印象に、事後補正で美化しにかかっているようにも見える。
これはマズすぎる。
ご馳走様㎗(ごちそうさまデシリットル)
お疲れ様㎗(おつかれさまデシリットル)
了解㎗(りょうかいデシリットル)
トラップはそこかしこにある。
予測変換機能よ、どこまで貪欲なのだ。
デシリットルメンバー以外の人とLINEをする時は、この貪欲な予測変換とのいたちごっこ。
㎗が出ても無視。
㎗が出ても出ても、無視。
予測をされても断ち切る。
予測をされてもされても、断ち切る。
鋭い眼力。
繊細な指先の動き。
コンマ単位の判断力。
送信前の抜かりない検証。
不意に届くLINEへの返信こそ油断は禁物。
朝起き抜けに、電車の遅延で出勤が遅れると部署メンバーからのLINEが届いていることもある。
気を抜くとひとたび、わたしは意図せずダジャレ王の称号をほしいままにしてしまう。
わたしは、絶対にミス出来ないプレッシャーと戦い続けている。
デシリットルラインは、わたしのホッと安らげる心の拠り所だ。
でも、デシリットルラインのせいで、わたしは一瞬たりとも気が抜けない。
教科が違っただけなのに。
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さて、次回の #クセスゴエッセイ は
「多発オアシス」
をお届けします
お楽しみに〜
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