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籠(ショートショート)


お目覚めかい。じゃあこちらにおいで。
「ここはどこですか。」
お屋敷だよ。ある方の。さあ、ご主人がお待ちだよ。礼儀正しくするんだよ。
「では、しつれいいたします。」

お前、名は。
「Aといいますごしゅじんさま。」
若旦那。
「は、」
そう呼びなさい。
「はい。」
こっちへおいで。
「はい。」
もっと近くへ。
「ですが若旦那が気分を害します。」
かまわない。顔をみたい。
「でしたらなおさら、」
意固地なやつだ。そのような顔なのか。
「むかし、いぢめらたことが、」
どういぢめられた。
「閉じ込められました。おまえはみにくいからと、」
そいつはどうした。
「……身罷りました。数日前。」
へえ。やまいかな。
「いえ。とても奇怪なものでして、」
どのように。
「姿が見えぬので探したのですが、なぜか蔵にて隠れておりました。」
ほう。
「見つけたときはとうに、」
なぜ蔵とわかった。
「家中探しておりませんでしたから、もはやそこだけでした。」
お前もそこに閉じ込められたことがあるのかい。
「……はい。」
おいで。顔を見せてごらん。
「濡れてしまいましたので触らぬほうが。」
いいんだ。泣いた顔が見たかった。


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