運命の女神 (8)
十一、
何が病気で、何が病気でないのか、分からなかった。
総治は聡子の病気についてインターネットで症例を調べたり、本を読んだりしてみたが、何が悪いのかよく分からなかった。どんな症状が出る病気なのかも、どんな薬が必要なのかも、どんな風に接すればいいのかも書いてあった。確かにこれは聡子にも当てはまる、と思うところがあった。けれど、聡子の滅亡の話や夢の話が病気のせいなのかどうか、何を病気として切り離して良いのか総治には分からなかった。聡子の何が、間違っているというのだろう。きっとそれは時に聡子の話を本当のことのように受け止められる時もあるからに違いなかった。
病気だから治す。治らない病気は受け入れるしかない。治らない病気は存在する。
そのままでは何かがいけないから、治す。
健康な誰かと比べたら、いけないところがあるから治す。
あの頃の自分に戻りたいから、治す。
理想の自分に近づきたいから、治す。
求められる姿と噛み合わないから、治す。
聡子が苦しんでいるから治したいのか、周りにそう求められるから治したいのか。
治療すべきなのは聡子の方なのだろうか?
例えば、いじめをしている側の方が、よっぽど病気なのではないのだろうか?なぜそれは治療にはならないのだろうか?してはいけないことをしているだけのことは病気とは言えないのだろうか。学校に行けていたら病気とは呼べないのだろうか。本人が受け入れられないからだろうか。病気だが本人が認めず治そうとしないので、手が出せず、病気の人を病気とも告げずに野放しにしているのだろうか。その人達が「普通」であることで誰かが「病気」になろうとも。
病気だと告げられて、ホッとする人と、怒り出す人の違いはなんだろう。
「病気」になることはそんなに受け入れ難いものだろうか?
それとも、「病気」として切り捨てることを恐れているのだろうか。
これは病気じゃない。これは病気じゃない。いや病気かもしれない。いやこれは正しい。これは病気じゃない。そう思う自分の大切なものを。
「あなたのためなのよ、あなたのためなのよ!」
聡子の誰かに同じことを言われていたかのようなひどくはっきりした物言いが、本心だろうと、嘘だろうと、病気のせいだろうと、総治にとっては同じことだった。
多分聡子のせいではないのだ。では聡子の向こう側の誰かのせいなのか。多分その人のせいでもない。
こういうことがずっとずっと続いていくのか。
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