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彫刻のやりがい三つ(後編)

彫刻のやりがい三つ(後編)

前回、彫刻のやりがい三つ(前編)として①創作のやりがい、②技術的な難易度のやりがいのことを書きました。

彫刻のやりがい三つ(前編)


 今日は、③時間と経済のバランスをとって仕事を成り立たせるやりがいについて書きます。

 石の彫刻というのは時間がかかります。素材の硬さ、重さからくる物理的な大変さはとても大きいです。


まずはこれまでの制作状況。

 このところは依頼制作で大理石を彫っていますが、私が大学生の二十歳で彫り始めてからずっと、ほぼ黒御影石という最も硬い石を彫っており、一つの作品にじっくり制作時間をかけてきました。

 私は25歳からずっと河北美術展という展覧会に出品しています。14年間は一般応募で、8回入賞後、招待出品者となって今もほぼ毎年出品しています。
 一般応募で出品していた頃は、出品規定で概ね1立方メートルのスペースに収まる作品をおおむね300から400時間はかけて作ってきました。それは、1日8時間彫れば50日ですが、実際には環境を整えながら進めるので、期間はそれ以上かかります。

 その創作期間に仕事に集中するためには、生活を成り立たせる資金が必要です。

 私のこれまでの歩みとしては、大学卒業後はその学校で副手を3年間勤め、アルバイトをしながら20代後半は彫刻シンポジウムなど報酬のある制作と、30代前半に大きいモニュメント制作を三つほどさせていただき、40代に入って、納期も報酬も明確な依頼制作の機会が増えてきました。

 お預かりする制作資金で、その期間制作に集中できる場合と、そうでない場合があります。


解決方法
一つには、自分の能力、彫刻のスキルを上げること。
もう一つは、他からお金を持ってくること。


1.自分の能力、彫刻のスキルを上げること。

 端的に言えば、一つの作品を作るのに要する時間を短く、そして作り上げる能力、スキルを磨くということ。
 最初に書いたように、石という素材は固く重く、扱うのが物理的に大変な素材です。実際に手を加えないとそうならない、どんなに効率的に彫り進めても、これだけ時間がかかるというのがある程度長い仕事です。

 それでも、ものすごく平たい言い方をすると、のみと石頭(せっとう・ハンマーのこと)で10回叩かないとできなかったことを、経験によって一発で落とせるようになる、ということがあります。
 自分の手となる道具の種類や工具を増やしたり、良いものにすることと、それを扱う自分の手の経験を積むこと、鍛錬で乗り越えていけるものがあります。

 そして、スキルの中にはイメージ力、決断力というのもあると思っています。一度彫ったら、あとからつけ足すことのできない彫刻は、決断の連続です。彫るのと同じくらい途中のかたちを見ることにも時間をかけることがあります。
 頭の中に明確にかたちのイメージがあり、それにいたるプロセスも具体的に如実にイメージできている時には、仕事が早く進みます。
 そういう、迷いなくブレずに彫り進めるイメージ力、決断力を高めていくことによって仕事が早くできるようになります。 結果、予算の多くない仕事では、スピード感を持って制作して、制作期間を無駄に長引かせないようにするということがあります。

2.他からお金を持ってくること、について。

 もう一つ目の他からお金を持ってくること、について。
これは、同時進行で請け負っている以外の案件以外の仕事も行って、いわゆる仕事を回すようにするということです。

例えば、私であれば自分のオンラインショップに絵画も含めて作品などを掲載していますし、今現在はメインの受注制作の他に法人様の会社創立周年記念のワークショップを進行中です。
 知人の経営者様に周年記念のお祝いに彫刻でお役に立てることをご案内したところ、ただ作品を購入するよりは、社員様に有意義な創作体験を提供してほしいということで、ワークショップの提案をさせていただきました。
 ワークショップなので、私は講師として関わり、その法人さんの社員の方がある程度作品作りに関わっていただきます。ですから、一から自分が完成作品を作るよりは、少ない時間と労力で何がしかの収入を得られます。
 ただ誤解のないように書きますが、これは楽に稼げるという意味ではありません。クライアント企業の方に、業務時間を融通してでも、制作体験を本当にやって良かったと心から喜んでいただくために、ワークショップの内容には相応の知恵と感性を注いでいます。あくまで自分の肉体を酷使する制作時間が短いという意味です。

 他から資金を持ってくる時には可能な限り、時間を切り売りするだけではなく、クライアント様との縁が深まるとか、実績にもなり、その経験値が自分の今後の財産にもなるような方向性のことで収入が得られるように努めています。

日頃から自分に投資する。

 一般に芸術家は創作のことばかり考えてお金のことには疎い、清貧のイメージがあるかもしれません。
 例えば、芸術家が株式投資のことを喜んで喋っていたら、この人本当に芸術家なのかな、と思ってしまうような。
 私が他の作家を見るときにそう感じてしまうのもあるし、私も見込み客の方から経済的に器用にうまくやっていることを望まれていないように感じてきたことがあります。

私は、長年制作活動を継続してきて、自分の制作者としての人生を全うするなら、経済もちゃんと成り立つようなことを考えるのは大切だと実感しています。投資と言っても正にお金の投資の意味だけでなく、自己投資という意味では特に。

 専門分野の知識知恵、精神を学ぶ本を読んだり、見るべき展覧会を見たり、本当に物心両面で豊かで、学べきところのある人、尊敬できる人と出会ったり、すぐにお金に変換されず、結果が出るのに時間のかかることであっても常にしておくというのは大切だと実感しています。
 豊かな方と交流して、考え方や行動を見習う。そして自分もそのように振る舞っていくというのは、とても大切です。

 今日の「時間と経済のバランスをとって仕事を成り立たせるやりがいについて」話がそれたようではありますが、他からお金を持ってくることを考えるような状況というのは、実際にままならない状態の時です。
 その時に、他からお金を持ってくるのは、複数の収入の柱を作っておくというようなシステムの話であるようでいて、システムさえあればなんとかなるというものではない、人間性の要素も大きいと思っているということです。

 応援されるような人物であることに、自己投資すべきと考えています。

これから、プロの彫刻家を目指す方のご参考になるようでしたら幸いです。


Photo: Tetsuro Chiharada

参考 これまでの活動のWEBサイト

ホームページ
http://www.k-195.com/

むさしの和心亭 日下彫刻のある庭
https://ikukokusaka.wixsite.com/washintei

IKUKO KUSAKA Original ART Works
https://ikukokusaka.official.ec/


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