マガジンのカバー画像

KRAZY!展図録 日本語原稿[部分公開]

8
2008-09年バンクーバー〜ニューヨークを巡回した企画展「KRAZY!」の図録のうち楠見清の寄稿部分の日本語原稿を、現代日本文化に関する学術情報の共有を目的にここに公開します。
運営しているクリエイター

記事一覧

1. はじめに:KRAZY!展とは何だったのか

1. はじめに:KRAZY!展とは何だったのか

「Krazy!: The Delirious World of Anime + Comics + Video Games + Art(クレイジー! :アニメ+コミックス+ゲーム+アートの熱狂的世界)」は2008年5月Vancouver Art Gallery(バンクーバー美術館、カナダ)で開催された企画展で、北米と日本のマンガ、アニメ、ゲームと現代美術との相関をテーマにしたもので、企画者のBruc

もっとみる
2. 江口寿史 Pop into Manga─『ストップ!! ひばりくん!』ほか

2. 江口寿史 Pop into Manga─『ストップ!! ひばりくん!』ほか

江口寿史は日本のマンガに“ポップ”の感性と概念を最初に持ち込んだマンガ家である。未完の作品が多く翻訳出版もされていないため海外ではまだあまり知られていないが、1990年代以降の日本のマンガがファッションや音楽と連動しながら日本ではJ-pop、海外ではTokyo Popなどと呼ばれる若者文化の独特の様式を形成していったのは、この先駆者がいたからだと力説しておきたい。

江口自身の回想によれば、始まり

もっとみる
3. 松本大洋『鉄コン筋クリート』

3. 松本大洋『鉄コン筋クリート』

『Black and White(鉄コン筋クリート)』は宝町(Treasure townの意)で野良猫のようにたくましく生きる二人の孤児、クロとシロの物語で、1993-94年に週刊『ビッグコミックスピリッツ』に毎話20ページ前後の読み切り短編の形式で連載された計33話からなるマンガのサーガ[叙事詩文学]だ。これを原作にマイケル・アリアス──『アニマトリックス』をウォシャウスキー兄弟とともに共同プロ

もっとみる
4. 安野モヨコ『さくらん』

4. 安野モヨコ『さくらん』

1950年代に相次いで創刊された少女向けマンガ雑誌によって開花した少女マンガは、星の描き込まれた大きな瞳に巻き髪のヒロインなど独特の表象によって、宝塚歌劇──若い女性だけのミュージカルで、男性役も華美な化粧の女優が演じる──と並んで、20世紀日本におけるドメスティックで倒錯したココ風の様式美を形成してきた。1970年代、マリー・アントワネットを主人公にした池田理代子のマンガ『べルサイユのばら』が宝

もっとみる
5. 横山裕一『ニュー土木』

5. 横山裕一『ニュー土木』

横山裕一のマンガには物語らしい物語はない。あるのはただ夢のような出来事の連鎖反応である。

たとえば『ニュー土木(New Engineering)』では、奇妙な建設用工作機械が大地を削り、岩を動かし、人工芝を敷き詰め、配水管から流れる水が大きな池をつくるさまが、主人公らしき人物の姿も台詞もないまま、ただ機械の発するけたたましい擬音だけで全編が展開される。やがてクライマックスには、宇宙人ともアンドロ

もっとみる
6. 小田島等『無FOR SALE』

6. 小田島等『無FOR SALE』

小田島等は、日本のバンド、サニーデイサービスのCDのアートワークなどでロック・ファンにはよく知られるイラストレーター兼グラフィック・デザイナーであり、ポップ・アートの文脈を強く意識したオリジナルの絵画で個展も開催する。マンガ家としての彼の作品は多くはないが、ロック雑誌『ロッキング・オン』の兄弟誌として刊行されたマンガ雑誌『コミックH』に2001年から2002年にかけて──まさに世紀の転換期に──発

もっとみる
7. 新海誠『雲の向こう、約束の場所』

7. 新海誠『雲の向こう、約束の場所』

新海誠は、2002年『ほしのこえ』で数々の受賞をし一躍アニメ界において注目される存在となった。驚いたことに、この25分のフルデジタル・アニメは監督・脚本・作画・演出・編集を彼一人で行なって作られている。デスクトップでアニメーションが制作できるようになった現在では、新世代の才能は、制作会社のスタジオで修行を積んだ職人的なアニメーターだけでなく、自主制作の無名の新人の中からも現れてくる。音楽ビジネスの

もっとみる
8. 細田守『時をかける少女』

8. 細田守『時をかける少女』

アニメ映画『時をかける少女[The Girl Who Leapt Through Time]』は、ある日突然タイムリープができるようになってしまった女子高校生・真琴の学園生活を描いた軽快なSci-Fiだ。コミカルとシリアス、淡い恋物語とやがて来る別れに少女の心の成長を織り込んだ脚本と演出。これは監督・細田守の本領発揮の傑作である。

ただ、実はこの作品にはいくつかの周期からなる前史──いや、むしろ

もっとみる