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【ショート・ショート】魔法使い

ねぇ、マミー。魔法使いって、いるんだよ。
絵本に出てくるような恐い人じゃないんだ。普通のおじさん。神様かなとも思ったんだけど、神様は一所懸命お祈りしても、願い事叶えてくれないでしょ。だから、あのおじさんは、きっと魔法使いに違いないんだ。
あっ、笑った。嘘だと思っているんでしょ。
でも、やっと笑ってくれたね。この所ずっと悲しそうな顔しているんだもん。

あっ、そうだ。魔法使いの話ね。
それでね、僕に何か願い事はないかって聞くんだ。
僕、考えたんだよ。テレビゲームが欲しいなって。今度のクリスマスにサンタさんにお願いしようと思っていたんだ。ポールが持っているのを見て、僕も欲しいなあって。

でもね、お願いしたのは違うことなんだ。この間、学校のトムっていう子がね、死んじゃったんだ。悪い人にいきなりピストルで撃たれたんだって。みんながそう話してた。それに同じクラスのマリアちゃんも怪我して休んでいるんだ。帰り道にナイフを持った男の人に襲われたんだって。本当に優しい子なのに。僕、悲しかったよ。恐かったよ。
それでね、魔法使いのおじさんに、悪い人が居なくなりますようにって、人を殺したり怪我させたりする人が居なくなりますようにって、お願いしたの。

そしたら、おじさん、ちょっと目をつむって考えていたみたい。目を開けると言ったんだ。願いを叶えてあげてもいいが、その代わり坊やを悲しませることになるかも知れないよ。それでもいいかって。
僕は、悩んだけど、友達やみんなが幸せになれるのなら、それでもいいよって言ったんだ。
おじさんは、ちょっと驚いたような顔をしたけど、分かったって言って、どこかに行っちゃった。

そしたら、次の日から、テレビを見ても、人が殺されたり怪我させられたりしたニュースが流れなくなったんだ。
僕、分かったよ。魔法使いのおじさんが願いを叶えてくれたんだって。
とても嬉しかった。だけど、一つ悲しいことがあるんだ。ダディが遊んでくれないんだ。なぜダディは帰ってこないの。お仕事が忙しいの。
マミー、どうしたの。ねぇ、マミー。

ボビーは、父の写真を抱きしめる母の肩が震えるのを不思議に思いながら見ていた。
軍服姿で微笑む父の写真を。

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